27話 ゴーレムの自我
ゴーレムが突然俺に襲い掛かってきた。
直後、ネムがテーブルを飛び越え俺の前に立ちはだかり、ゴーレムと取っ組み合いとなる。
「なぁネム、何でこいつ俺に襲いかかってきたんだ!?」
「多分侵入者だと思ったんじゃないかしら。侵入者は手当たり次第捕まえるように言ってあったから……」
思い返すとゴーレムを捕食した時は俺が廃墟に侵入した時だった。
複製した人間に自我を持たせた時は、捕食直前の記憶が引き継がれる。
おそらくゴーレムは未だ俺と戦闘の最中だと思い込んでいるのだろう。
俺は危うくこいつに捕まるところだったわけだ。
顔が引き攣る俺を余所に、ネムはゴーレムへ視線を向けると静かに語り掛ける。
「ねぇ、アタシ達ラドウ様に棄てられたのよ。もう、あそこには帰れないの……」
するとゴーレムは腕を下ろし、ネムをじっと見詰める。
「アンタ、アタシと一緒に来ない?」
ゴーレムは静かに頷いた。
俺は落ち着いたタイミングを見計らい、ゴーレムに話し掛ける。
「なぁ、お前喋れるのか? 自己紹介をしたいんだが……」
「ヴ……ヴヴィヴァ……」
ゴーレムは一度だけ呻き声を上げると、黙り込んでしまった。
何かを言いたいというのは伝わるが、何を言いたいのかは理解出来ない。
この場を乗り切る為の方法がないか思案を巡らせると、一つの方法を思いついた。
(こいつ……もしかして、声帯が無いから喋れないんじゃないか?)
試しにゴーレムの喉へ意識を向け、気管をスライム化させてみる。
すると、ドロリと溶けるような感覚がゴーレムから伝わってきた。
次に人間の体を思い浮かべ、声帯を複製するように集中すると、気管を溶かしたスライムの感覚が薄れていき、やがて全ての感覚が遮断された。
「おい、何か喋ってみてくれ……」
俺は固唾を飲んでゴーレムの口元に注目する。
すると、ゴーレムがゆっくりと口を開いた。
「無理だろ……」
「「「!?」」」
ゴーレムが言葉を発し、俺達は目を丸くする。
「オ、オレ……喋れるのか!?」
「純すごい! 何をやったの!?」
「声帯を人間のものに置き換えてみたんだ。どうやら上手くいったらしい」
俺達は暫しの間、歓喜に浸った。
どうやら俺は物を部分的に複製する事も出来るようになったようだ。
体積が増えたからだろうか?
だんだんと出来る事が増えて来たように思う。
やがて二人が落ち着くと、ゴーレムへ自己紹介をする。
「俺の名前は加藤純だ。お前……名前は何て言うんだ?」
「オレの名前は……宮本信一だ」
「そうか、やっぱり名前はあったんだな。だが、呼びにくいな……そうだ。お前のことはシンと呼ばせてもらおう。良いだろ? シン!」
「シン?……まぁ良いだろう」
「シン、いくつか質問がある。」
「……ちょっと待て。ネム、こいつはオレ達の研究所に侵入して来た奴だろう? 何で当たり前のようにオレ達の仲間のような振る舞いをしているんだ?」
「言ったでしょう? アタシもアンタもラドウ様……いいえ、ラドウに棄てられたって。もうあそこへ帰ってもラドウは居ないわ。純はそんなアタシ達を助けてくれたのよ……」
「そんな事を急に言われて、オレに信じろと言うのか?……」
「そうよ、信じて! それに……今のアンタの体は、純の体の一部なの。喋れるようになったのも純のおかげ。アンタはもう、純の命令には逆らえないわ……」
「……オレが喋れたのは偶然だ! こいつの命令には逆らえないだと? 証拠を見せろ! オレがこの男の一部だという証拠を見せろ!!」
シンは声を荒らげるとネムに掴みかかった。
ネムは申し訳なさそうに俺へ視線を向ける。
「わかった。シンが俺の体の一部だって事を見せてやる……」
俺は左手からスライムを放出し、もう一人のシンの複製を試みる。
スライムはやがてシンの体を成形していく。
すると、シンの顔が引き攣り始めた。
「う……嘘だろ、こんな事!」
「アタシも最初は驚いた。でも、これは事実なの。受け入れて! 今のアンタは純の体の一部なのよ……」
「オ……オレはまだ認めないぞ! オレの体を作れたとしても……その……お前の命令に逆らえないなんて事は……」
(まだ言うか。仕方ない、少し荒治療といこう……)
まず、現在自我を持たせているシンをスライム化させる。
「戻れ!」
「命令に逆らえなんて事は無い! オレは抵抗ドロッ……」
スライムに戻す事で、シンの記憶が最新の物に置き換わった。
次に2体目のシンに自我を持たせる。
「自我を持て!」
「……オレは抵抗してやる!」
さらにもう一体のシンを、今複製したシンの向かい側へ複製し、自我を持たせる。
「自我を持て!」
「……オレは抵抗してやる!」
そして、2体目のシンを体内へ戻す。
「戻れ!」
「オ、オレが二人!? いや、こいつは偽ドロッ……」
すると、2体目のシンの記憶が1体目に統合される。
「あれっ? なんでオレはオレと……んん?」
シンは記憶が混濁し、混乱しているようだ。
「シン、何をしたか教えてやる。お前を二人複製し、二人分の記憶をお前に流し込んだんだ」
「な、何だと!? ……くっ。わかった、認める。確かにオレはお前の一部となってしまったようだ……」
シンは息を切らし、がっくりと肩を落とすと、俺を細目で見つめた。
やがて落ち着くと、ゆっくりと口を開く。
「……で、質問は何だ?」
「そうだな……シン、お前は何故あの廃墟に居たんだ?」
「廃墟……か。そうだな、今となっては廃墟だ。だが、昔は病院だったんだ。そして俺は以前、あそこに入院していた……」
シンは窓に目を向けると、おもむろに語り始める。
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