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26話 俺の食材とネムの料理

 

 俺は車を走らせ、以前複製したマンホールの上に停車した。


「ネム、これから見せるのは俺の“食事”だ」


 後部座席の床をスライム化させて穴を開けると、左腕をスライム化する。

 さらに複製したマンホールもスライム化させると、マンホールの中へスライムが濁流の如く流れ込んでいく。

 大きく脈を打ちながらスライムを放出する俺の腕を、ネムは興味津々に見つめている。

 そして後部座席の穴に視線を移すと、首を傾げた。


「ねぇ、食事って何を食べてるの?」

「下水だ」


「げ、げげげ、下水!?」

「ああ。地下に流れている下水を食っている……」


 ネムは驚愕の表情で口元が引き攣っている。

 やはりネムには受け入れられないのか。


「ネムは俺みたいな化け物と一緒に生活するのは嫌だろう? 今からでも遅くない。考え直せ!」


 するとネムは涙目になり、俺の顔を見つめる。


「……ねぇ。純はアタシの事嫌い?」

「……嫌いではないぞ」


「……アタシは純の事が好きだよ。人間だろうとスライムだろうと、アタシを助けてくれたのは純でしょ? こんな事でアタシは純を嫌いになんてならないよ! だからもう、一人にしないで……」


 ネムは大粒の涙を零しながら、俺の左腕に顔を埋めた。

 どうやら俺の心配は杞憂だったようだ。


「俺を受け入れてくれてありがとう。改めて、よろしくな!」


 俺はネムの頭をそっと撫で、俺達は静かに瞑目した。

 車内には左腕の鼓動とスライムの流動音が鳴り響く。


 ※ ※ ※


「ゴォォォォ……ゴゴッ……ゴッ……」


 下水を全て捕食し終えると、スライムの回収を始める。

 迷路の如く複雑に入り組んだ下水管からニュルニュルとスライムが逆流し、俺の腕へと収まっていく。

 やがてマンホールからスライムの先端が顔を出すと、マンホールの蓋を複製し、車の床も塞ぐ。

 ふとネムに視線を向けると、俺の肩に寄り掛かりスヤスヤと眠っていた。

 ネムをそっと助手席のシートに寝かせると、自室へと車を走らせる。

 時刻は17時を回っていた。


 ※ ※ ※


 自宅近くのコインパーキングへ車を停めるとネムを起こす。


「おいネム! 着いたぞ、起きろ!」

「にゃ?……ふぁ〜ぁ……」


 ネムは目を擦り大欠伸をしながら、ぴくりと耳を震わせると、のんびりと車を降りた。

 俺達は自室に入ると、テーブルに着席する。


「ぐるるぅ〜」


 すると、ネムの腹が鳴り出した。

 ネムは顔を赤らめ俺に目を向ける。


「ねぇ純、ごはん出して・・・……」

「ああ、わかった。」


 俺はネムから言われた食材を複製すると、それらをネムが手際良く調理していく。

 暫くすると、いくつもの中華料理が完成した。

 天津飯、スープ、餃子、エビチリがテーブルに並ぶ。

 よく見ると盛り付けがとても綺麗だ。

 俺達はテーブルに着くと、ネムが俺の顔をじっと見つめる。


「ん? どうした?」

「ううん。何でもない。食べよっか!」


 俺は静かに頷いた。


「「いただきます!」」


 そして天津飯を掬い口に含む。


「美味い!」


 なんだこれは! 美味すぎる。

 卵はフワフワで、餡の粘度も程良い。

 味付けも濃過ぎず薄過ぎない絶妙な加減だ。

 これは俺には作れない。

 改めてネムの料理の腕に驚いた。

 俺は目を丸くしながら無心で料理を頬張っていると、熱い視線を感じる。

 顔を上げると、ネムが満面の笑みで俺を眺めていた。


「美味しいでしょ! アタシの自信作だよっ! 隠し味はズバリ、オイスターソース!! それだけじゃないよ! みかんの果汁も、すこ〜しだけ入れてるの! どう? 意外でしょ! 味に深みが……」


 ネムのマシンガントークが炸裂し、料理の解説やこだわりが延々と続く。

 俺は密かに耳の中へ耳栓を複製すると、何も聞こえぬまま、うんうんと頷きながら料理を頬張った。


 料理を食べ終わろうという頃に、皿の上に影が現れる。

 ふと見上げると、ネムが俺の耳に手を伸ばしていた。

 そして耳栓をキュポンと引き抜くと、ジト目で俺を睨む。


「ちょっと純! アタシの話、聞いてた?」

「お、おう。聞いてたぞ!……お、俺もそう思う!」


「純に同意なんて求めてないんだけど。もう知らないっ!」

「す、すまん……」


 ネムは頬を膨らませ、顔を逸らしてしまった。

 どうやら機嫌を損ねてしまったようだ。

 俺は頭を掻きながら平謝りすると、機嫌を取るために左手からソフトクリームを複製する。


「ほ、ほらお前、これ好きだろ?」

「アンタ、こんなのでアタシの機嫌を取ろうっていうの? アタシそんな安い女じゃ……おいしい!」


 ネムは俺の手からソフトクリームを奪い取るとペロペロと舐め始めた。

 すると膨れていた頰が笑顔へと変わっていく。

 驚くほど単純な奴だった。


「なぁネム、聞きたいことがあるんだが……」

「ん? なぁーにー?」


 昼間複製したゴーレムについて思う事があった。

 ネムは食後のデザートを満喫しながら俺に視線を向ける。


「ゴーレムの事だが、あいつに名前はあるのか?」

「うーん、元は人間だったから名前はあると思うけど、あの子は喋れないから何もわからないわ……」


 確かに廃墟で捕食した時は言葉を話している様子は無かった。

 失敗と言われたゾンビですら自我を持っていた。

 成功した個体であるゴーレムが自我を持っている事は十分に考えられる。

 もしゴーレムに自我があるのなら、無理に使役するよりも互いが納得する関係を築くべきだと思う。


「よし、じゃあ本人に聞いてみよう」


 ゴーレムの複製を試みることにした。

 左手からスライムを放出すると、スライムは次第にゴーレムの姿に変化していく。

 やがて成形が終了すると、体表が銀色に輝くゴーレムが顕現した。

 ネムは残りのソフトクリームを口に放り込むと、ゴクリと嚥下し様子を伺っている。

 そんなネムを横目に、俺はゴーレムに向けて命令を下す。


「自我を持て!」

「カキーン!!」


 その直後、甲高い金属音が室内に鳴り響く。

 ゴーレムが突然俺に襲い掛かってきた。


拙作をお読みくださりありがとうございます。

お気に召しましたら、ブックマークを頂けると嬉しいです。


次回の更新は16日の予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 下水を食べた男からできたソフトクリームを舐めるネムちゃん…… これを愛といわずして何を愛というのでしょうかっ! (悪いけど私なら絶対ひいてますー。笑)
[一言] 完全にカップルやんけ( ˘ω˘ ) でも、ネムの立場からしたら、下水を食べてるくらいで純を嫌いになる訳ないですよね。 純は自分に自信がないんですかね? モテない男あるあるですねw 私も純の気…
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