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25話 ブラッカを吐く男

 

 俺達が後ろを振り返ると、そこには衝撃の光景が広がっていた。


 緑色の肌をした男が現れ、口からは液体が滴り落ちている。

 その周囲には呻き踠く人間達が取り囲む。


「化け物だぁぁぁぁ!!」

「警察を呼べ!!」


 更にその周囲の野次馬達が叫ぶ。


「なんだ……ヴォヴェヴァ……」

「た……す……ヴェ……ヴェ……」

「体がヴォヴェヴ……」


 呻く人間達は、次第に肌の色が変色していく。

 俺達はその異様な光景に、只々立ち尽くした。


「な……何が起きてるんだ?」

「まさか……ブラッカ!」


「なんだと!……あのゾンビ薬か!」

「そうよ! この症状は間違いないわ!」


 俺達が辺りの様子を伺っていると、緑色の男の頬が膨らんでいく。


「ゴファッ!!」


 そして、口から勢いよく液体を吐き出した。

 その光景に野次馬達が驚愕する。


「なんだなんだ!?」

「口から何か吐いたぞ!」

「気持ち悪い……」


 液体は10m以上も飛散し、周囲の人間達に付着する。


「ゴファッ! ゴファッ! ゴファッ!」


 その後も間髪入れずに連続で液体を吐き出し、容赦なく周囲の人間達に浴びせていく。


「に、逃げろぉぉぉぉ!!」

「誰かあいつを捕まえろ!!」


 野次馬達の悲鳴を他所に、液体を浴びた人間達は、みるみるうちに肌が変色しゾンビ化してしまう。


「おいおい! こりゃまずいぞ……あいつを止めないと、この辺一帯がゾンビだらけになっちまう!」


 俺は咄嗟に男を捕食する為に左腕のスライム化を試みるが、ここが繁華街の中心だということに気付く。


「クソッ! ここであいつを捕食したら、人間達に俺の事がバレてしまう……」


 慌ててスライム化を取り止めた。


「おいネム! このままだと街中ゾンビだらけになっちまう! 何かあいつを止める方法は無いのか?」

「うーん、一番手っ取り早いのはアイツを殺す事だけど……純はスライムだってバレたくないのよね? なら、アタシが力で抑え込むしかないかも……」


「ネム、頼めるか?」

「いいよ! でも、抑えた後はどうするの?」


 俺は辺りを見回した。

 すると、人気のない細い裏道を発見する。


「よし、あの裏道に連れ込もう!」

「わかったわ! じゃあ行ってくるね!」


 ネムは大きく跳躍すると、野次馬や呻く人間達を飛び越え緑色の男の背後に降り立った。


「アンタが何考えてんだか知らないけど、来てもらうわよ!」


 突然のネムの登場に、野次馬達がざわめく。


「何だあの子!」

「すげぇジャンプ力だ!」

「あの男をどうするつもりだ!?」


 ネムは男を羽交い締めにすると、大きく跳躍し、目にも留まらぬ速さで裏道へと飛び込んだ。


「純! これで良いの?……ゴトッ!」


 だが、ネムが俺に振り向いた瞬間、ネムの足元に何かが転がった。


「いやぁぁぁぁ!!」


 その直後、ネムが悲鳴を上げて倒れた。

 地面に転がったのはネムの両腕だった。

 ネムの肩からは血が吹き出し、断面はドロドロに溶かされている。

 男の両肩からは煙が上がる。

 どうやら男がネムの両腕を溶かし、切り落としたようだ。

 俺は咄嗟に左腕をスライム化し、ネムの体を包み込んで引き寄せる。


「ネム! 大丈夫か!」

「ぐっ……大丈夫じゃ……ないかも……」


 すると、男はゆっくりと俺達の方へ向かってくる。

 俺は咄嗟に右手から包丁を複製し、男の腹に向けて投げつけた。

 包丁は男の腹に突き刺さるも、男は動じない。

 そして、包丁は煙を上げながらドロリと溶け落ち持ち手がカランと音を立てて地面に落下した。


 男の腹には縦にパックリと裂け目が出来るが、直後にギリリと音を立てて傷口が塞がっていく。

 男は更に歩を進め、俺達に近づいてきた。

 俺は打開策を探す為に思案を巡らせる。


 今度は右手から道を塞ぐように、横に車を複製した。


(これで暫くは大丈夫だろう。今のうちに作戦を考えないと……)


 だが、直後に複製した車から煙が上がり始める。


「シュゥゥゥゥ……」

「おいおい、嘘だろ……」


 男は真っ直ぐ歩きながら、体全体で助手席の扉を溶かしていく。

 やがて天井や運転席の扉まで溶かし始める。


(一体どうなってるんだ、こいつ……俺みたいな能力を持っているのか?……)


 そして遂に運転席の扉も溶かし終えてしまう。


「ガシャン!!」


 足止めも叶わず、僅か数秒で車が真っ二つになってしまった。

 後部座席は地面に付き、ハンドルは天井を向いている。

 その異様な光景と共に、男は無言で無表情に歩き続ける。

 俺は更に思案を巡らせ、この場を切り抜ける方法を模索した。


(こいつには物理攻撃は効かない。みんな溶かされちまう……どうする? あいつを足止めする方法は……)


 その時、脳裏にゴーレムが過った。


(俺が最も捕食に苦労したのは廃墟に居たゴーレムだ。もしかしたら足止めになるかも知れない……)


 俺はすかさず右手からゴーレムを複製し、命令を下す。


「あいつを足止めしろ!」


 すると、ゴーレムは男の元へゆっくりと歩き出す。

 そして男の前に立つと、取っ組み合いになった。

 ゴーレムの体からは煙が立ち昇るが、あまりダメージは無いようだ。

 その様子に安心し、ネムに視線を向ける。


「ぐあぁぁぁぁ……」


 ネムは悲鳴を上げ続け、両肩からの出血が酷い。

 俺は左腕の中にGG161を複製し、ネムの体に浸透させた。

 暫くすると、ネムの両肩から腕が生え始める。

 やがて、両腕が生え揃い元通りとなった。


「ネム、大丈夫か?」

「うん、ありがとう。ちょっと油断しちゃった……」


 ゴーレムへ視線を向けると、未だ取っ組み合いが続いている。

 どうやら膠着状態のようだ。


「ネム、ここなら誰も見ていない。あいつを殺せるか?」

「うん! 一発で砕いてやるわ!」


 ネムは力強くジャンプすると、男の背後に回り込んだ。

 そして、拳を引く。


「ッパーン!」


 爆発音と共に男の体が砕け、辺りに飛び散った。

 そして地面に玉のような物が転がる。


「何だ? あの玉……」

「これは……コアよ。多分コイツのモデルとなったのはアンタの体ね……」


 ネムはコアと呼ばれる玉を摘み、指で潰した。


「コア? それと俺の体と何の関係があるんだよ?」

「コアはアンタの体の心臓部。それを壊すとアンタは死ぬってラドウが言ってたわ。多分コイツを作ったのはラドウよ。……って、もしかしてアンタ、コアを知らなかったの?」


「ああ……知らなかった……」


 以前、胸を包丁で突き刺す実験をした時に、尋常では無い痛みが走った。

 恐らくコアにダメージが入ったのだろう。

 一歩間違えれば本当に自殺していた事に気付き、冷や汗が流れた。

 ふとネムに視線を向けると、ジト目で俺の顔を眺めてくる。

 俺は途端に恥ずかしくなり、目を背けた。


「そ、そうだ! ネム、お前に見せないといけないことがもう一つあったんだ……」


 俺は華麗に話題を逸らすと、破壊された車と男の死体を素早く包み込み捕食する。


「戻れ!」

「ドロッ……」


 そしてゴーレムをスライムに戻し回収すると、左手から新たに車を複製し、ネムと共に乗車し走り出した。


 ※ ※ ※


 建物の陰からカメラを構える男が一人。


「へっへっへ……こりゃとんでもないスクープだぜ……」


 男は静かにシャッターを切ると、繁華街へと姿を消した。


拙作をお読みくださりありがとうございます。

お気に召しましたら、ブックマークを頂けると嬉しいです。


次回の更新は12日の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 逆に敵となると、また怖いですねー。 そしてラドウ。えげつない。 あう。見つかる。そしてどうなる。 楽観できない展開ですね。これ。
[一言] 純とネムは良いコンビですね! ネムの傷もGG161で治せますし! しかし遂に純の存在が一般人にバレてしまいましたねッ! こういう展開は大好きですよ!!
[良い点] 今回、なかなかの強敵でしたね! この男が喰った分は、ノルマにカウントされたりするんでしょうかね……? それだと純くん、かなりラクになりそうです。 それにしても、ラドウめ……!
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