24話 食事
朝食を終えると、俺は静かに立ち上がった。
「ネム、俺はこれから“食事”に行く。お前も来い……」
これから俺達はこの部屋で共に生活する事になるだろう。
だが、俺は人間を捕食しなければならない。
この行為をネムがどう思っているのか確かめる必要があった。
ネムが捕食に反対するならば、ネムと生活する事は出来ないかも知れない。
ネムが捕食に抵抗するならば、俺はネムを殺さなければならないかも知れない。
人間を捕食することに対する問題は早急に解決しておきたい。
俺は固唾を飲んでネムの反応を伺う。
「……わかった。付いてくよ」
ネムが俺の複製した服に着替えると、俺達は部屋を後にする。
※ ※ ※
俺達は閑静な住宅街の人通りの少ない裏路地を歩いていた。
時刻は午前11時を回ろうとしている。
おそらく昼間の中では最も人通りの少ない時間だろう。
俺は品定めをしながらのんびりと歩き続ける。
やがて4階建のマンションが目に付く。
今日の標的はここに決めた。
階段を探していると、ネムに肩を叩かれる。
「ねぇ純。何階に行きたいの?」
「屋上だ」
「じゃあアタシに任せてよ!」
直後、俺はネムにお姫様抱っこをされてしまう。
「おい、この体勢はちょっと……」
「それじゃ、行っくよ〜!」
俺の言葉に耳を傾けず、ネムは足に力を入れる。
するとアスファルトに亀裂が走り、勢いよくジャンプした。
ネムはあっという間に屋上へ着地し、俺を下ろす。
「着いたよ!」
「あ、ああ。ありがとな……」
ネムは鼻息を荒くしながらドヤ顔をすると。
「こんなのお安い御用だよ! 200メートルくらいは余裕だからね!」
そんな事を誇らし気に語った。
俺はネムの身体能力の高さに呆れて頷くと、視線を貯水タンクへと向ける。
(あれを使おう……)
そして貯水タンクの蓋を開けると、左手をタンク内へ浸しスライム化させる。
「トプッ、トプッ、トプッ、トプッ……」
タンクの中の水を捕食しながら、タンク内をスライムに置き換えていく。
暫くして内部がスライムで満たされると、各部屋の蛇口にスライムを流し込み、意識を集中させる。
(蛇口を押し出すように……栓をこじ開けるように……)
すると、全ての蛇口からスライムが流れ始めた。
「ヒッ! 何よこれ!」
「水じゃないぞ!」
「何が起きたんだ!?」
住人達の叫び声がスライムを通じて伝わってくる。
蛇口から流れたスライムは重力に逆らいシンクから溢れていく。
やがて蛇口の水流は勢いを増していき、全ての部屋がスライムで満たされた。
住人達はスライムに飲み込まれ、もがいている。
(苦しませるのは好きじゃない。ひと思いに食ってやる……)
人間達の首に意識を集中し、全員の首を切り落とした。
もがいていた人間達は一瞬で絶命し、俺の体内を漂っている。
手頃な男の頭を一つ選ぶと、それ以外の人間の捕食を試みる。
「食うっ!」
「シュゥ……」
16部屋42人の人間が一瞬にして消化され、室内には男の頭だけが取り残された。
窓や蛇口から素早く室内のスライムを回収すると、ネムに声を掛ける。
「終わった。降りるぞ……」
「えっ、もう終わったの? わかったわ……」
俺は再びネムにお姫様抱っこをされながら屋上から飛び降り、マンションを後にした。
「あのマンションには42人の人間が居たが、全員を食った。ネム、お前は俺のした事をどう思う?」
腹をスライム化させると、ネチョリと粘性の音を立てながら、白目を剥いた男の顔が腹に浮かび上がった。
ネムは真顔で俺の腹を見つめている。
回答次第で今後のネムとの関係が確定する。
俺は固唾を飲んでネムの顔へ視線を向けるが……
「何とも思わないわ!」
「……は?」
予想外の返答に、俺は肩透かしを食らう。
だが、ネムは俺の様子を察し、言葉を続けた。
「だって、アンタは人間を食べないと死んじゃうんでしょ? なら必要な事じゃないの。アンタの言い方をするなら、人間が牛を食べるようにアンタも人間を食べているだけでしょ。だから、何とも思わないわ……」
ネムの言葉は的を得ている。
生き抜く為に人間を食う。
この時、ふと真実の顔が脳裏を過った。
真実はもう居ないが、生きていればいずれ複製する手段が見つかるかも知れない。
俺の中に淡い希望が芽生えた瞬間だった。
俺は静かに頷くと、腹の男を体内に埋めて舐めながら、ゆっくりと消化を始める。
そして次の目的地へ向けて歩き出した。
※ ※ ※
俺達は繁華街へやってきた。
時刻は15時を回り、街は人混みで溢れている。
何故こんな所に来た理由は、もう一つネムに見せなければならない事があるからだ。
俺は体内のスライム量を増やす為に、定期的に下水を捕食している。
この事を隠せば、いずれネムとの関係にヒビが入ると考えた。
だからこの際、人間の捕食と共に下水の捕食についても打ち明けようと思う。
「ネム、もう一つお前に言わなければならない事がある……」
「今度は何よ? もうアンタの体の事には驚かないわよ!」
「そうか、なら良かった。実は……」
俺が言葉を続けようとした瞬間。
『『うわぁぁぁぁ!!』』
背後に居る人間達が一斉に叫んだ。
俺達が後ろを振り返ると、そこには衝撃の光景が広がっていた。
――累計食殺数:15048人 残り:19984952人
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