表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/31

23話 朝ごはん

 

 高校二年の終わりになると、事態は更に悪化していた。

 あいつに丸め込まれたクラスの奴らが、俺で遊ぶようになる。

 ある日からクラスの全員が俺を無視し始めた。


「おはよう」

「……」


「どうした?」

「……」


「……」

「……」


 クラスの奴らは俺と目を合わさず、逃げるように離れていく。

 その様子は一年の頃に感じた、あいつの纏う空気そのものだった。

 嫌がらせはその後も続き、靴箱の靴が逆に入れられていたり、教室に入ると机が上下逆さまに置かれていた。

 そんな事か続き、精神的な限界を感じた俺は担任の先生に相談することにした。


「先生、俺、クラスの奴等にハブられてるみたいなんてすが……」

「そうか……頑張れ」


「物がなくなったり、机が逆に置かれてたり……」

「まぁそんな事もあるさ」


「……失礼します」


 話にならない。

 担任は事なかれ主義だった。

 俺が声を上げても、解決ではなく平穏な方向に進むように画策する。

 やがてクラスの奴らもそれに気付き、自体は最悪の方向へと進む。


 ある日、登校すると遂に俺の机が無くなっていた。

 教室の隅々や廊下を見回しても机は見つからない。

 その時、精神的な疲労が限界を超え、俺の中で何かが爆発した。


「テメェら……俺を何だと思ってんだ!!」


 怒り狂った俺は、台風の如く教室内を暴れ回る。

 手当たり次第に机を蹴り飛ばし、ロッカーを殴り、椅子を窓へ投げつけた。

 机には傷が付き、ロッカーは歪み、窓ガラスが割れて椅子が落下する。

 だが、クラスの奴らは好奇の目で俺を眺めていた。

 ニヤニヤと、そしてヒソヒソと。


「加藤気持ち悪いな……」

「おぇぇ、余計な事しやがってさ……」


 更には俺の一連の動きを撮影している奴までいた。

 暫くして気分が落ち着くと、教室を見回す。

 台風一過となった室内に、俺は一人ポツンと取り残されていた。


(もう、此処に居るのは無理だ……)


 その瞬間、俺は退学を決意した。


 ――10日目


 朝、目が醒めると時計を眺めた。

 時刻は午前8時だ。

 ネムのベッドへ視線を向けると、ネムはスヤスヤと眠っている。


 俺は静かに起き上がると、左手から米を複製し、ザルに注ぐ。

 その米を研ぎ、炊飯器へセットすると。


「動け!」


 炊飯器をスタートさせ、身支度を整えた。

 そして卵を二つ複製し、ガスコンロに置いたフライパンへ割る。


「動け!」


 ガスコンロに火を付けると、卵が白く染まっていく。

 暫くすると目玉焼きが完成した。


「ピピッ! ピピッ! ピピッ!……」


 その直後、炊飯器から音が鳴る。

 米が炊けたようだ。

 米を器によそい、目玉焼きを皿に盛り付け、テーブルの上に並べると、ネムを起こしに掛かった。


「ネム、起きろ。朝飯出来たぞ!」

「うぅん……朝?」


 ネムは寝惚け眼を擦りながら、気怠そうに起き上がる。


「ふぁ〜ぁ……」


 そして大欠伸をしながら、テーブルへと視線を向けた。


「も、もしかして、朝ごはんってこれだけ?」

「そうだが?」


「うーん……」


 ネムは不満気に顔を引攣らせると、手を頭に付けて唸った。

 どうやら料理の品数に不満があるようだ。


「アンタ、あんまり料理得意じゃないのね……」

「よ、余計なお世話だ!!」


 痛い所を突かれた俺は、つい怒鳴ってしまった。

 するとネムはノシノシと歩き出し、おもむろに冷蔵庫の扉を開ける。


「何よ! 食材が一つも入ってないじゃない!」

「ああ。俺は何も食わなくても死ぬ事は無いからな。冷蔵庫には何も入れていない」


「へ、へぇ……ん? ちょっと待って。じゃあテーブルの上のごはんは何?」

「それは俺が複製した食材だ」


「ちょちょちょっと! それってアンタの体の一部じゃないの! アンタ、アタシになんて物を食べさせようとしてんの?」

「酷い言い様だな。お前は牛の体から切り落とされた肉を食っているだろう! それと何の違いがある?」


「うっ……言われてみれば確かに……でも、何か引っかかるのよね……」

「それにな、テーブルの上の食材は調理済だ。もうスライムへ戻す事は出来ない。つまり、今は俺の体ではない」


 ネムは唸りながら頭を抱えるが、暫くすると諦念の表情で顔を上げる。


「……わかったわ。アンタがアタシの為に作ってくれたんだから、素直に頂くわ」


 そして席に着くと、思い出したように俺に視線を向けた。


「アンタ、どんな食材でも出せるの?」

「普通の家にあるような物なら出せるぞ」


「じゃあ、今からアタシが言ったものを出してくれる?」

「わかった」


 ネムに言われた食材を頭の中で掴み、次々と複製していく。

 暫くすると、テーブルの上には食材が数多く並んだ。

 ネムは席を立つと、それらを手早く調理する。

 その見事な手捌きに魅入っていると、ネムの手が止まった。


「はい、出来たわよ!」


 テーブルに視線を向けると、味噌汁、ポテトサラダ、ソーセージが追加されていた。

 おまけにソーセージは4つ足の切れ目が入れられ、自立している。


「ネム、お前凄いな……」

「へへーん! こんなの余裕のよっちゃんだよ!」


 ネムはそんな死語を言いながら、腰に手を当てドヤ顔をきめた。

 俺はその仕草をスルーし、席に着く。


「いただきます」


 そして、味噌汁を一口啜る。


「……うまい」


 するとネムの顔がパッと明るくなった。


「でしょでしょ!! アタシ、料理は得意なんだ〜! ほら、ウインナー見てよ! タコさんにしてみたの! ほらほら、タコさん! タコさん! 可愛いでしょ……」


 正直、うざい。

 しかし、暗かったネムがここまで明るくなったのは、素直に嬉しかった。

 うんうんと頷くと、更にネムの説明が続く。

 そんなネムに目を細くしながら、そっと耳の中に耳栓を複製し、音を遮断した。


拙作をお読みくださりありがとうございます。

お気に召しましたら、ブックマークを頂けると嬉しいです。


次回の更新は5日の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ