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21話 廃墟が廃墟である理由

 

 自室に帰宅すると、俺達はテーブルに着席した。

 そして俺は左手から捕食したネムの服を複製し、テーブルの上に置く。

 するとネムは怪訝な表情で俺をじっと眺めている。


「どうした? 俺の顔に何か付いてるか?」

「違うの……なんでアンタはそんな体なの? 人間の姿をして、人間の生活をして。でも、そんな化け物みたいな力を持って……アンタ一体何者なのよ?」


 ネムにこれまでの経緯を話そうとした。

 だが、ネムがラドウの元へ寝返る可能性もある。

 ここは要点だけを絞り、詳細を話す事はしないでおこう。


「俺は……元人間だ。だが、今は人間を食うために転生しスライムとなった。俺はこれから人間を2000万人食い殺さなければならない……」

「何よそれ……」


「それよりもネム、お前こそ何なんだ? その体、ただの人間ではないだろう?」

「アタシは……」


 ネムは一点を見つめて語り始める。


 ※ ※ ※


 アタシは政治家の娘として生まれた。

 幼い頃から政治家の娘として恥ずかしくないようにと色々な事をやらされ、鳥籠に閉じ込められたような生活をしていたの。

 両親との思い出に、楽しい事なんて何一つ無い。


「いいかい、レイ。お前はよく勉強して、お父さんを助けて欲しいんだ……」

「やだ! レイ、勉強きらい!」


 本当は勉強が嫌いじゃない。

 ただ、もっと構って欲しかった。

 アタシを見て欲しかった……

 その一心でアタシは両親に抵抗したの。


「レイ……お父さんを困らせないでくれ……」

「だって、勉強たのしくないんだもん! レイ、お父さんとあそびたい!」


「お父さんは遊んでいる暇なんて無いんだよ。わかってくれ、レイ……」

「やだ! レイ、さみしいの!……」


「仕方ないな……おい、レイを連れて行け……」

「わかりました……レイ、行きましょう……」


 母はそんな父の言いなりだった。

 何をするにも父の顔色を伺い、いつも機嫌を損ねないようにコソコソと動く。

 アタシはそんな両親が大嫌いだった。


『ネム、お前も色々あったんだな……』

『そうね……あの頃のアタシは、アタシじゃないから……』


 父はやがて大物政治家と呼ばれるようになり、アタシも大物政治家の娘として持ち上げられたわ。

 思ってもいないような事を大袈裟に口にして褒めるような、そんな大人ばかりに囲まれて、息苦しく憂鬱な日々が過ぎていったの。


 ある日アタシは胸に痛みが走り倒れた。

 気が付いたら病院のベッドの上。

 誰かと父が何かを話しているのが聞こえてくる。


「坂本先生、娘さんの診断結果ですが……」

「レイは、大丈夫なのか?」


「心臓に異常が見つかりました。残念ながら事態は深刻です。ですが、心臓を移植すれば助かる可能性があります!」

「心臓移植……」


 父と話しているのは医者だった。

 アタシは医者から心臓に病気がある事を告げられ、直ぐに入院する事になった。


 3ヶ月。

 精密検査の結果、それがアタシの余命だと告げられた。

 でも、不思議と嬉しかったわ。

 こんなに息苦しく、居心地の悪いところから抜け出せて楽になれるなら、死ぬのも悪くないかなって。


 でも、父はそれを許さない。

 あらゆる手段を駆使して、アタシに心臓移植をさせようと画策する。

 アタシは手術を受けるつもりが無かったのに、遂にドナーが見つかってしまった。


「レイ! 代わりの心臓が見つかったぞ!」


 父はゆっくりと、そして大声でアタシに声を掛けた。


「お父さん! アタシ、手術は受けないって言ったじゃない!」

「レイ、お父さんを困らせるんじゃないよ。レイにはこれからも元気に生きていて欲しいんだ」


「嫌よ! アタシはもういいの。お父さんの政治の道具にされるアタシの気持ち、考えた事ある!?」

「レイ……ふう。仕方ないな。おい!」

「はい……」


「ちょっと何よこの注射! やめて! 離して!! 離……」


 気が付くと、胸には手術の跡があった。


「良かったな、レイ! 手術は無事成功だ! お父さん嬉しいぞ!」

「何よそれ……結局アタシ、生かされてる・・・・・・だけじゃない……」


 それ以降、アタシは感情を表に出す事をやめた。

 鳥籠からは逃げられない。

 そんな事を思いながら一年が過ぎたある日、胸に鈍痛を感じたの。


 もう手術は受けたくない。

 そう思ったアタシは家出を決意したわ。

 家を抜け出し、宛てもなく街を疾走していると、胸に更なる痛みが走った。


(死にたい、早く死にたい……)


 そう思いながら、痛みを気にせず更に走り続ける。

 ついに痛みは激痛へと変わり、痛みに耐えかねてその場に倒れたの。

 奇しくも倒れた場所は、移植を受けた病院の前だった。

 でも、それはもう病院としての姿ではなく、窓ガラスが割られ荒廃し廃墟と化していた。

 薄れていく意識の中、廃墟から一人の男が現れる。


『まさか、その男って……』

『そう。廃墟から現れたのはラドウだった』


「ふぇっふぇっふぇ。お前に新たな命を与えてやろう……」

「命……? もういいの。ゆっくりと死なせて……」


 薄れゆく意識の中、何処かへ運ばれるのを感じる。

 そして目が醒めると、廃墟内のベッドに寝かされていた。


「ふぇっふぇっふぇ。気付いたかのぅ。生まれ変わった気分はどうじゃ?」

「生まれ変わった? ……どういうこと?」


「体を動かしてみぃ。人間の運動能力を遥かに凌駕しているはずじゃ!」


 アタシは不思議に思いながら軽く壁を叩いた。


「ッパーン!」


 すると壁が砕け、鉄筋が露わになった。


「素晴らしい! やはりワシは天才じゃ!」

「……ア、アタシに何をしたの?」


「うむ。お前に猫の遺伝子を含んだ薬剤を投与したのじゃ。本来なら細胞が破壊され死に至るところじゃが、この薬がミソじゃ!」


 するとラドウは懐から小さなビンを取り出した。


「これはGG161と言うてのぅ。ワシが作った万能回復薬じゃ! 先ず、お前の体にGG161に対しての抗体を生成させた後、薬剤とGG161を投与したのじゃよ。するとホレ! 生きたままの獣人の完成じゃ!」

「じゅ……獣人!?」


 窓に体を写すと、頭から猫のような耳が、お尻からは尻尾が生えていた。


「ふぇっふぇっふぇ。お前は死にたがっていたのぅ。ならば死ねばよかろう?」

「えっ?……」


人間として・・・・・のお前は死んだのじゃ。これからは獣人として・・・・・生きれば良かろう」

「獣人として……」


 アタシは暫く俯き考え込んだ。

 そして……


「わかったわ。でも、アタシもう行くところがないの。お願い、ここに住まわせて……」

「良いじゃろう。ならばお前に名前をやろう! そうじゃな……ネム! お前は今日からネムと名乗れぃ!」


「ネム……アタシは今日からネム……」


 こうしてアタシはラドウの助手として生きて行く事になったの。

 助手としての役目は主に研究の手伝いや雑用と、侵入者の確保だった。


「ネム、侵入者じゃ! 確保せい!」

「わかったわ!」


 軽くジャンプしただけで10mの高さを飛べる身体能力を得たアタシには、侵入者の確保なんて簡単だった。

 そして侵入者は実験台にされていったの。


『実験台って、あのゾンビ化した人間達の事か……』

『そう。あの子達は薬を投与されて抗えなかった人間の成れの果てよ』


 助手としての生活に慣れてきた頃、ラドウはベッドにアタシを誘うようになった。

 アタシもあの時はラドウを好いていたし、快く受け入れたわ。

 そして毎晩ラドウと寝るようになったの。


 ある日、一人の侵入者が現れた。

 いつものように侵入者は抵抗するも、直ぐに確保出来て、すぐさま薬が投与された。

 でも、この子は他の人間と違っていたの。

 投与後に、普段なら変化が始まる時間だけど、ゾンビ化は起こらなかった。

 その代わり、体表が銀色に変わっていったの。


「やったぞ、ネム! 成功じゃ!」

「これが……成功……」


『それって俺が捕食した……』

『そう、ゴーレムよ』


 この時、実験が初めて成功した。

 何故成功したのか理由はわからないけど、アタシとラドウは実験の成功を祝ったわ。


 これがアタシがあの場所に行き着いた理由。

 人間だった頃は“坂本レイ”という名前があったけど、もうその名前は捨てたの。

 助手・・としての仕事を全う出来なかったから、ラドウにてられてしまったけど、あの頃の思い出は大切にしたい。

 だからアタシはネム、獣人のネムよ。


拙作をお読みくださりありがとうございます。

お気に召しましたら、ブックマークを頂けると嬉しいです。


次回の更新は29日の予定です。

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