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2話 加藤スライムに転生する

 

「うっ、ここは……」


 俺は目が醒めると真っ白な空間を漂っていた。


「俺は確か……飛び降り自殺をして……そうか、ここは死後の世界か」


 納得し静かに目を閉じた。

 やがて、どこからともなく声が聞こえてくる。


「あなたの願いを叶えます」


 願い? 何の事だ? 俺は怪訝な表情で目を開けた。

 すると、眼前に白い服を着た女が現れる。


「願いって何だよ? 俺は死んだんだろ?」

「ここは生と死の狭間。そしてわたしは死神と呼ばれる存在。わたしの望みが達成できれば、あなたの願いを叶えましょう」


 女は自らを死神だと言った。

 願いを叶える? こいつは何を言ってるんだ?

 訝しむ俺を余所に、死神の左手に水色の光が顕現する。


「望みってどういうことだ? その手の光は何だ?」

「わたしの望み、それは……あなたが20日間で2000万人を殺すこと」


「お前何言ってんだ? そんなこと、出来るわけないだろ?」

「もしも達成されたなら、あなたと真実は結ばれるでしょう」


「俺が……真実と……結ばれるだと?」

「ええ。あなたがわたしの望みを叶えられたなら……その為の力は授けます。受けてもらえますか?」


「だが、どうして俺なんだ? 他の奴に頼む事だって出来るだろう?」

「いいえ。あなたの未練は常人より遥かに強いのです。あなた以外に適任は居ません」


 俺は暫し考える。

 そして覚悟を決めた。


「わかった。やってやるよ。本当に真実と……」

「ええ。約束しましょう。では、あなたに力を授けます」


 死神の左手から放たれた光が俺を包み込む。

 幾許かの時が経ち、光は何事も無く消えた。


「俺に何をした?」

「あなたをスライムに転生させました。あなたの意思で体を変化させる事が出来るようになっています。手を溶かす様にイメージしなさい」


 スライムに転生しただと?

 そんな簡単に転生できたら苦労しない。

 そう思いながら、言われた通り左手を溶かす様にイメージしてみた。

 すると……


「ドロッ……」

「うわっ! お、俺の手が溶けた……」


 手が水色の半透明な液体となり、空間を漂っている。


「次は、手を握る様に意識しなさい」


 今度は左手を握る様に意識を集中する。


「ジュグジュグジュグ……」

「うお、手に戻った!」


 先程までスライムだったのが嘘の様に、俺の左手は見慣れた人型へと戻った。


「20日間で2000万人をスライムの体に捕食し殺しなさい。これが出来ればあなたと真実が結ばれます。もし出来なければ……あなたは力を失い、死にます。それでは、良い成果を期待していますよ……」


 俺は空間から突如現れた穴に吸い込まれていく。


「おいちょっと待て! 出来なければ死ぬなんて聞いてないぞ! おい! 何とか言え!」


 死神は僅かに嗤い、俺を眺めている。

 そして俺は完全に穴へと吸い込まれ、意識を失うのだった。


 ※ ※ ※


――1日目


「うっ、ここは……」


 俺は意識が戻ると自室のベッドに寝ていた。

 凄く不思議な夢を見ていた気がする。

 20日間で2000万人を殺しなさい……か。

 くだらない。

 腕が溶けるなんて夢、正夢なわけがないだろ。

 俺は半信半疑で左手を溶かす様にイメージする。


「ドロッ……」

「う、嘘だろ?……」


 嘘じゃない、まさかの正夢だった。

 つまり俺は、20日間で2000万人を捕食しなければ死ぬという事だ。


「ははっ……笑えねぇ」


 静かに呟くも、憂鬱でつまらない日常が崩れ去り、内心では大きな期待を膨らませる。

 こうして俺は転生し、スライムとしての1日目が始まった。


 ※ ※ ※


 俺はふと、死神の言葉を思い出した。

 2000万人を“捕食”と言っていた。

 捕食……そんな方法は聞いていない。

 このままでは俺は何も出来ないまま20日後の死を待つ事になる。

 まずい、非常にまずい……


 ベッドから起き上がると、部屋の中を見回す。

 すると、目覚まし時計が目に付いた。


「試してみるか……」


 時計の上に左手を置き、手をスライム化させてみる。


「ズブズブズブ……」


 スライム化させた手の中に、時計が飲み込まれた。

 水色の液体の中に薄っすらと時計が見える。

 どうやら包み込むことは出来るようだ。

 だが捕食がよくわからない。


 仕方がないので頭の中に梅干しを想像してみた。

 酸っぱい梅干し、唾液が溢れ、早く飲み込みたいという衝動。

 すると、手の中に変化が起きる。


「シュワシュワシュワ……」


 なんと時計が溶け始めた。

 まるで飴の如く、みるみるうちに時計が小さくなり、消えて無くなった。

 そして直感でこの行為を悟る。


「これが、捕食って奴か……」


 暫くすると頭の中に捕食した時計が浮かび上がる。

 パソコンのフォルダの中にひとつだけファイルがあるイメージだ。

 何やら時計を掴めそうな感覚がする。

 試しに掴んでみると、左手に変化が起こる。


「ジュグジュグジュグ……」


 左手の拳は先程捕食した時計の形に変化した。

 そして、切り離せそうな感触を覚える。


「まさか……切り離せるのか?」


 意識を集中し、腕を引き延ばすようにイメージする。


「プツン……」


 すると、時計が単体として切り離された。

 痛みは全く無く、拳の部分だけが欠損している。


 時計を見ると、形は瓜二つだが針は動いていない。

 再び意識を集中させ、針が動くように念じてみた。


「カチッ、カチッ、カチッ……」


 すると、秒針が動き出す。

 どうやら俺の意思で切り離したものを操れるようだ。

 今度は欠損した腕を時計へ向け、時計を引き寄せるイメージをする。


「グチャッ!」


 その直後、時計は腕に吸い付き融合した。

 時計はみるみるうちに形を崩し、やがて手の姿に戻る。

 こうして俺は、この体の使い方を理解した。


 ※ ※ ※


 その後もこの体について色々と試し、解ったことがいくつかある。


 ・人型とスライム化を任意で変化できる。

 腕だけではなく、体全体をスライム化する事が出来た。

 なお、人型に戻る時はスライム化する直前に来ていた服を身につけているようだ。


 ・捕食したものをコピーできるが意識を集中しないと動かせない。

 これは先程の時計で行った通りだ。

 他にも幾つか捕食してみたが、いずれも意識を集中しなければ動かなかった。

 だが、一度動いてしまえば意識を手放しても継続して動くようだ。


 ・分離したスライムは意識を集中すると回収できる。

 これも時計で行った通りだ。

 1つだろうと5つだろうと、個別に回収出来る。


 ・自分の体積より大きい物はおそらく捕食出来ない。

 ベッドを捕食しようとしたが、出来なかった。

 どうやら捕食出来る量は決まっているようだ。


 ・スライム化の時は暑さ寒さを感じない。

 腕をスライム化させ、火で炙ってみたがなんともなかった。

 だが、人型で炙ると以前と同様に熱さを感じた。

 スライム化させた腕を冷凍庫に突っ込んだが、寒さは感じなかった。

 しかし、人型で腕を冷凍庫へ入れると寒さを感じた。


 ・スライム化の時は物理攻撃も効かない。

 スライム化させた腕を包丁で切ってみたが、なんともなかった。

 だが、人型時に切ると普通に痛いし、血も出た。


 以上が実験してわかった事だ。

 共通して言えることは、人型時は人間同様にダメージを受けるが、スライム化した時は最強だということだ。


 そろそろ覚悟を決める時が来たのかもしれない。

 勿論俺は人殺しなんてした事がないし、しようとも思わなかった。

 だが、これからは違う。

 2000万人という膨大な人数を、僅か20日間で捕食しなければならないのだ。


 出来るのか? そんな事。

 だが、あの死神は言っていた。

 “その為の力を授ける”と。

 この体は、きっと俺がまだ知らない力を秘めているのだろう。

 確信はないが、信じるしかない。

 俺は腹をくくり呟く。


「さて、殺人ぼうけんを始めようか……」

拙作をお読みくださりありがとうございます。

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