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18話 下等生物vs狂科学者

 

 俺は半ば放心状態で、廃墟を目指し歩を進めていた。


「よ……くも……ま……なみを……」


 虚ろな目、震える足、握る拳。

 脂汗が吹き出し、涙で視界が霞む。

 俺の体ではないような感覚に陥りながらも、怒りの矛先をラドウへ向け、一心に歩き続ける。


 どれだけ歩いただろうか。

 日が沈み街灯がぽつぽつと道を照らす。

 すれ違う人々は、俺を見て顔を蒼褪め固まっていく。

 中には倒れる奴も居た。

 きっと俺は常軌を逸した顔をしているのだろう。

 絶望……きっと今の俺にはこの言葉が似合う。


 暫く歩くと廃墟が眼に映る。

 同時に沸々と怒りが湧き上がってくる。

 目は血走り、歯を食いしばりながら、階段を一段ずつ、ゆっくりと上っていく。

 4階へ辿り着くと、ネムが腕を組み立ち塞がった。


「はんっ! アンタ、懲りないわね! 毎度毎度やられに来るなんて、アンタもしかして甚振られるのが好きな……」


 ネムが御託を並べている間に思案を巡らす。

 こいつに先手を取られると不利だ。

 頭の中を探ると、先程捕食した街の物が複製可能となっていた。

 ガソリンから蚊まで凄まじい種類の品々が頭の中に浮かぶ。


(ガソリン……か。これでいこう)


 まず、右手から下水を勢いよく噴射し、ネムの顔へ浴びせる。


「ブシャァァァァ……」

「好きな……うにゃあぁぁぁぁ!! は、鼻にゃぁぁぁぁ!!」


 同時に左手からガソリンを複製し、怒涛の如く階段へと流し込む。


「ゴォォォォ……」


 さらに、背中から触手状に伸ばしたスライムでネムの頭を掴み、ガソリンの滴る階段へ引き摺り落とす。


「にゃにゃっ!?」

「うるさい。お前に用は無い……」


 そして、カセットコンロを複製し、火を付けて階段へ投げ入れる。


「ジュグジュグジュグ……ボッ!」


 すると、階段は一瞬で炎の海と化す。


「ボォォォォ……」

「あーっついにゃぁぁぁぁ!!」


 ネムは全身を炎に包まれながら、勢いよく転がり落ちていく。


「わっ! がっ! ごっ! ぎゃっ……」


 普通の人間なら死んでいても不思議ではない程に、体のあらゆる場所が叩きつけられていく。

 しかし、ネムは生きていた。

 1階まで落下すると、ネムは転がりながら必死で火を消そうと踠いている。


「にゃーっ!! にゃにゃにゃにゃにゃーっ!!」


 だが、階段は既に火の海となっていた。

 これで暫くは上がって来れないだろう。


(五月蝿いのは居なくなったか。しかし、何であいつは死なないんだ……)


 ネムの頑丈さに呆れながら、5階へ向けて再び歩き出す。

 ゆっくりと階段を上り5階へ辿り着くと、堅牢な扉を開ける。

 すると部屋の奥の机には、試験管を片手に首を傾げるラドウの姿があった。

 ラドウは俺の姿を確認すると、俺に向かって静かに歩き出す。


「よく来たのぅ、下等生物よ。ワシのサプラ〜イズなプレゼントはお気に召したかのぅ?」


 ラドウが飄々とほざく。

 俺は歯を食いしばり、ラドウを睨んだ。


(サプライズ……だと? こいつは……俺の真実を……)


「ふぇっふぇっふぇ! お気に召したようじゃのぅ。あの娘は小僧の感情を爆発させるトリガーじゃ! しかしこれは予想以上じゃな。まさか街一つ消滅させるとはのぅ。小僧は実に面白い下等生物じゃ!」


(こいつは真実を殺すことで俺を試したというのか? そんな事の為に真実は……)


 ラドウに対し再び沸々と怒りが込み上げてくる。


「ラドウ……てめぇだけは絶対に許さねぇ! 楽に死ねると思うな! 無限の苦痛を味わわせてやる!!」

「はっ! 下等生物の分際で言いよるわ。ここに来た事が小僧の運の尽きよ。大人しくモルモットとなれぃ!」


 俺は感情のままにラドウへ向けて全身からスライム放出する。


「ラァァァァドォォォォ!!!!」

「ブシャァァァァァァァ!!!!」


 そして、スライムの体がラドウを囲い込む。


「ふんっ、甘いわ! ナメクジの如く溶けてしまえ!」


 しかしラドウは懐から薬品を取り出し、俺の体に振り撒いた。

 薬品が俺の体を徐々に溶かしていく。


「ぐぁぁぁぁ!!!!」


 全身に激痛が駆け巡り、怒りに飲まれた感情が押さえつけられる。

 冷静さを取り戻し、負傷したスライムの感覚を切り離すと、体制を整える為にラドウと距離を取る。


「なんじゃ小僧、もう終わりかのぅ?」


(痛てぇな……くっ、くそっ! このままでは奴に近づけねぇ……どうすれば……)


 俺は暫し思案を巡らせ、頭に浮かぶ複製可能な物を片っ端から眺めた。


(ラドウへ触れずに、攻撃出来る物は……)


 包丁、ライター、金槌……多種多様な品物が飛び交うが、どれも近距離攻撃に長けた物だ。

 殺さず確実に、中距離からダメージを与えられる物を模索していると、この場に打って付けの物を発見する。


(……これだ!)


「ラドウ! これで終わりだ!」


 俺は頭に浮かぶを掴み、左手へ複製を行いながらラドウへ向けて疾走する。


「食らえ!!」

「ジュグジュグジュグ……」


 そして、複製したを広げた。


「てめぇは、他人ひとの痛みを、知りやがれぇぇぇぇ!!」


 複製したとは、何の変哲も無い高枝切りバサミだ。

 太い枝もサクッと切り落とす、普通の高枝切りバサミ。


「な、なんじゃと?」

「サクッ……ボトッ!」


 ラドウの右腕はあっさりと切断し、木の枝の如く床に転がった。


「……ぎぃえぇぇぇ!!」


 数瞬の後、ラドウは自身の肩を見つめ悲鳴を上げた。

 肩からは血が吹き出し、地面を赤く染めていく。

 続いて左腕も切断する。


「サクッ……ゴトッ!」

「ぎぃやぁぁぁぁ!!」


 ラドウは俯せに倒れ、悲鳴を上げながら芋虫の如く蹲っている。


「ラドウ、てめぇは俺ので一生踠き苦しめ!」


 真実の複製に失敗したのは、おそらく捕食時に体が粉砕されていた為、現状復帰した時に体の形状を維持出来なかったからだ。

 ならば、片腕を無くし止血もしていない今のラドウを捕食し複製すれば、消えることの無い苦痛がラドウを襲うだろう。

 やがてラドウは失血死するが、複製すれば体は捕食時の状態に戻される。

 しかしラドウの受けた痛みの記憶は上書きされ、無限の苦痛を味わことになる。

 複製する程に肉体は連続の死を遂げ、感覚は蓄積されていく。

 俺が許すまで、終わることの無い苦痛。

 そうまでしてもなお、俺はラドウを赦すことは無いだろう。

 真実への愛はこの程度ではないのだから。


 俺はラドウを捕食する為、左手をスライム化し、慎重にラドウの体へ迫る。


「パリーン!」


 突如、窓ガラスが弾け飛んだ。

 窓へ視線を向けると、そこには全身が焼け爛れ、至る所から出血した満身創痍のネムが立っていた。


「ちょっと……アンタ、やり方がえげつないわよ……まさか、燃やされるなんて思わなかったわ……」


 ネムは息を切らせながら俺を非難した。

 寧ろ俺はこいつの頑丈さに呆れているのだが……


「ラ、ラドウ様! どうしたのよ、その腕! 派手にやられちゃってるじゃない!」

「おお、ネムよ……丁度いい所に来た……GG161ジージーイチロクイチをワシへ……」


「わかったわ、今すぐに! ……」


 ネムは素早い手付きで窓の横の棚からGG161と書かれた瓶を取り出し、ラドウの体へ振りかける。

 直後、ラドウの両肩から腕が再生されていく。


(くっ! あの瓶は回復薬か! 失敗した……このままネムまで回復されたら不利になる! ……)


「よーし! ラドウ様! アタシが来たからには、こんな奴ボッコボコにしてやるわよ!」

「そうじゃな。ネム、ちょっとこっちへ来なさい……」


 ラドウは不気味な笑みを浮かべ、ネムを手招きすると、ネムは俺とラドウの間に立つ。


「ん? ラドウ様、どうしたのよ? 早くアイツをボッコボコに……」

「パァン!……」


 室内に一発の銃声が甲高く鳴り響いた。


拙作をお読みくださりありがとうございます。

お気に召しましたら、ブックマークを頂けると嬉しいです。


次回の更新は12日の予定です。

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