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14話 偵察

 

 ――6日目


 深夜1時。

 俺は仮眠を終え、獣人女の寝込みを襲う為、廃墟へ向けて車を走らせていた。


(今回は始終スライム化した状態で潜入しよう。あの女に見つかったら即撤退だ!)


 そんな事を考えながら、廃墟付近の太い道に車を停めた。

 廃墟へ入るとすぐに全身をスライム化し、ペタペタと2階、3階、4階と階段をよじ登る。


(人の気配は無いな……)


 何事も無く5階へ到着すると、堅牢な扉が現れた。

 廃墟にしては綺麗過ぎるその扉は、異質な空気を放っている。


(この中に、あの獣人女は居るのか?)


 扉の隙間から進入すると、そこには衝撃の光景が広がっていた。

 扉の向こうはマンションの一室の如く、普通の居住空間となっていた。

 ビルの1フロアを丸ごと居住空間にしているようで、室内はとても広い。

 電気が来ているのか、家電品は動いている。

 しかし照明は落とされ、室内は薄暗い。

 部屋の奥に置かれているベッドに視線を向けると、二人の男女が行為をしていた……


「あぁ……ラドウ様……」

「ネム……やはり、お前を猫と掛け合わせて正解じゃ……」


(あれは……昼間の獣人女か。男の方は……ラドウ様? 誰だ?)


 人間の行為には、もう興味は無いが、何か情報が得られるかもしれない。

 いざとなったら逃げられるように、トイレの前に身を潜めながら、静かに様子を伺う。

 暫くすると、4階の檻に居たようなゾンビ化した人間がベッドの周囲に徘徊を始める。

 何処からか抜け出して来たのだろうか?


「ヴォ、ヴォ、ヴィ、ヴェ……」


 ゾンビ化した人間は、ベッドの前に止まり二人を見つめる。

 すると、ベッドの上の男が声を上げた。


「ええい! 目障りじゃ! ネム、殺せ!」

「はーい!」


「ッパーン!」


 ネムと呼ばれた獣人の女が、ゾンビ化した人間の腹を一発殴った。

 ゾンビ化した人間は花火のような爆音と共に肉片と化し、壁や床や天井など、辺りに飛散する。

 そして頭部だけが原型を留め、宙を舞った。


「おい、アレはどうしたんじゃ? さっさと掃除させい!」

「あの子は、スライムに食べられちゃった……」


 男は“アレ”を探しているが、ネムが肩を竦める。

 スライムに食べられた、つまりアレとは俺が昨日捕食したゴーレムのような男のことか。

 掃除をさせようとしている所を見ると、雑用を任せていたのだろう。


「何っ!? また作らなければならぬか……」


 二人の会話が終える頃、宙を舞っている頭部が俺の体の上へ落下した。


「ポチョン……」


 水々しい音が室内に響く。


「ほぉ。噂をすれば、例のスライムが紛れ込んでおったか!」


 今の落下音で俺の存在がバレてしまったようだ。

 部屋の電気が付けられ、男の全貌が露わになる。

 痩せ型で白髪混じりな初老の男が全裸で佇んでいた。


「懲りずにまた来たのね! 今度こそ大人しくモルモットになりなさいっ!」


 ネムはバケツを片手に、剥き出しのまま俺に向かって跳躍する。

 どうやら偵察はここまでのようだ。

 俺は慌てて扉の隙間からトイレへ侵入し、便器に飛び込むと下水へ逃げた。


 ※ ※ ※


 車を走らせ自室へ戻ると、シャワーを浴びた後、ベッドの上で情報を整理する。


 まず、猫耳の付いた獣人の女はネムと呼ばれていた。

 ベッドに居た男の台詞に、猫と掛け合わせたという言葉があった。

 やはり猫と人間のハーフなのだろう。

 ネムの脚力と腕力は人間のそれを遥かに凌駕する。

 俺の体を取り戻すには、ネムを何とかするしかなさそうだ。


 そしてベッドに居た男。

 猫と掛け合わせて正解だと言った。

 つまり、ネムを作ったのはあの男か。

 あの男はネムにラドウ様と呼ばれていた。

 おそらく4階の檻に居たゾンビ化した人間を作ったのもあの男だろう。

 ネム同様に何らかの力を持っている事が予想できる。

 この二人には慎重に様子を伺う必要がありそうだ。


 だが、ネムの対策なら思いついたことがある。

 あとはラドウと呼ばれた男だが、それはまた後で考えることにする。


 情報を整理し終わると、俺は静かに眠りに就いた。


 ※ ※ ※


 ――7日目


 俺は目が醒め時計を眺ると、時刻は12時を回っていた。

 寝るのが遅かった所為か、普段より長時間寝ていたようだ。

 顔を洗うと再び廃墟を目指し車を走らせる。


 廃墟へ到着すると、スライム化は視線が低い為、今回は人型で潜入することにした。

 2階、3階と慎重に階段を上る。

 そして4階へ到着すると、やはり奴が出迎えた。


「アンタ、懲りずにまた来たのね! 今日こそモルモットにしてあげるわ!」


 ネムは腰に手を当て言い放つと、俺に向けて跳躍し、拳を振り翳す。

 だが、俺には策があった。

 ネムは猫と人間のハーフだ。

 ならば嗅覚は人よりも遥かに敏感な筈。

 俺は左の掌をネムの顔へ向け、下水を複製し広範囲に噴射する。


「ブシャァァァァ!!」


 予想通り下水を浴びたネムは、その場に蹲った。


「うにゃぁぁぁぁ!! くっっっっさ! 何なのよ、これ……」


 ネムが怯んだ隙に、俺はネムをスライムで包み込む。


「うっわ、今度は何なのよ! 邪魔臭いわねっ!」


 抜け出そうと、もがくが完全に包み込まれたネムは俺を振り払うことが出来ない。

 どうやら勝負あったようだ。

 直ぐに捕食しても良いのだが、こいつには聞きたい事がある。


「おいお前! 幾つか質問がある。答えろ!」

「アンタ、その体でも喋れるの!? 何処から声出てんのよ!」


「そんな事はどうでも良い。答えないなら、お前を捕食するぞ!」


 俺は脅しの為にネムの体毛をゆっくりと消化していく。


「シュゥゥゥゥ……」

「あわわわわ! わかった! 言いますよ、言えば良いんでしょ!」

拙作をお読みくださりありがとうございます。

お気に召しましたら、ブックマークを頂けると嬉しいです。


次回の更新は2日の予定です。

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