表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/31

13話 猫耳の怪力女

 

 ――5日目


 俺は体に違和感を感じ、叩き起こされるように目が覚めた。

 皮膚を摘まれているような、やや不快な感触だ。

 意識を集中し原因を探ると、違和感の元は昨日プランターに放ったスライムだった。

 視点を切り替えると、ゴーレムの様な男がピンセットを使い、俺の体を摘み試験管の中に突っ込んでいる。


(うおぉ! こいつ何しやがんだ!!)


 放ったスライムに抜け出す様に命令を送る。

 だが、必死の抵抗も虚しく俺の体は試験管に収められ、栓をされてしまう。

 そして覆いをされ、何処かへ運ばれた。


「クソッ! あんなゾンビみたいな奴等を生み出す所に捕まったら、何をされるか分かったもんじゃない! すぐに取り戻さなければ!」


 車に乗り込み早速廃墟を目指し車へ命令を下す。


 ※ ※ ※


 暫くして廃墟近くの太い道に停車させると、早速廃墟へ侵入する。

 2階、3階と上がっていき、4階へ到着すると、18歳くらいの女が腰に手を当て待ち構えていた。

 女はピンク色の猫のような耳をし、尻尾を生やしている。


(こいつは……獣人?)


 獣人の女は俺に指をさし、声高に言い放つ。


「アンタが“モルモット”を盗んだ犯人ね! あの子達をどこにやったの!? 正直に吐きなさい!!」


 あの子達……おそらく4階の檻に入れられていた人間達の事だろう。

 モルモットとは大層な言い方をする。

 こいつは人間をなんだと思っているんだ。


「あいつらは俺が殺した。お前はあいつらをいたずらに苦しめて廃人のように徘徊させ、挙げ句の果てに自我だけは持たせている。どれだけ残虐なことをしたと思っているんだ?」


 獣人の女は訝しみながら口を開く。


「だいたいあの子達が悪いのよ? 人の研究所に勝手に入って来て荒らすんだもの。廃墟探索だなんて失礼しちゃうわ! どんなことをされたって文句は言えないわよ!」


 なるほど……6階の屋上から飛び降りた時は気付かなかったが、この廃墟は見張りが居ないんじゃない。

 わざと見張りを付けない事で、人をおびき寄せていたのか。

 俺も今頃、檻の中に入れられていたかもしれない。

 体を切り刻まれ、自由を奪われ、自我だけは残る。

 そんな状況は考えただけでゾッとする。


「話は終わりよ! やっちゃいなさい!!」


 女は早口で喋り終えると、俺の背後に銀色の肌が輝くゴーレムのような男が現れる。


「ヴォヴォヴィヴェヴァヴ!!」


 男は絶叫を上げると俺へ目掛けて勢いよく突進してきた。

 だが、俺は全身をスライム化し、攻撃を受け止める。


(遅い!)


「ドロッ……」

「グチャッ……」


 辺りに俺の体が飛び散るが、ダメージは全く無い。

 意識を集中し、飛び散ったスライムを一箇所に固めていく。


「ジュグジュグジュグ……」


 スライムが集まったところで、男へ纏わりつき、最大の食欲を注ぎ捕食を試みる。


「食べたいっ!!!!」


「ヴォ、ヴォ、ヴィ、ヴェ、ヴァ、ヴ……」

「シュゥ……」


 だが、消化は思うように進まない。

 ここまで捕食に手間取るのは初めてだ。


(何て奴だ! こいつ、車より頑丈なのかよ……)


 男は俺に抵抗し、体からスライムを毟り取ろうとしている。

 しかし、毟り飛ばされたスライムは俺の意思により蠢き再び男へ纏わりつく。

 勝利は時間の問題だった。

 獣人の女は苦虫を噛み潰したような顔で俺達の様子を眺めている。


「ヴォ、ヴォ、ヴィ、ヴェ、ヴァ、ヴ……」

「うるせぇ! 食わせろぉぉぉぉ!!!!」


「シュゥゥゥゥ……」


 さらに食欲を増した俺は、捕食の速度を速めていく。

 やがて銀色に輝く肌は燻んでいき、赤く爛れ始める。


「ヴァ、ヴェ、ヴォォォォ……」

「シュッ!!」


 そして遂に、ゴーレムのような男は俺に捕食された。

 俺は人型に戻り猫耳の獣人の女を睨みつける。


「おい、まだやんのか!?」

「アッ……」


 女は唇を噛みしめると、跳躍し俺に殴り掛かってきた。

 あまりの早さにスライム化が遅れる。


「アタシに勝てるわけないでしょー!」

「何っ! 早いっ!」


「ッパーン!」


 女の攻撃を避けきれず、俺の左肩にヒットした。


「う、嘘だろ……」


 俺は左腕へ視線を向けると、そこにあるはずの腕は無く、辺りには血に塗れた肉片が散乱している。

 僅か一撃で俺の腕は粉砕された。


「うぐぁぁぁぁ!!」

「ドロッ……」


 俺は激痛に喘ぎ、咄嗟に全身をスライム化した。

 生命の危機を悟った俺は、スライム化のまま階段を転がり落ち、撤退を図る。


「甘いんだよっ! 大人しくモルモットになりなさいっ!」


 だが、女はバケツのような入れ物で俺の体を掬おうとする。

 一部を削り取られたが、間一髪で逃れた俺は命からがら廃墟から抜け出し、近くの排水溝へと逃げ込んだ。


 ※ ※ ※


 スライム化した俺は、排水溝から下水管に飛び込み、下水を啜りながら戦闘を振り返る。


「ゴォォォォ……」


(なっ、なんなんだあの獣人女……早すぎる! 化け物じゃねーか!)


 あいつはどう見てもただの人間じゃない。

 スライムの俺が言うのもアレだが、あの女は化け物だ。

 人型では勝てる気がしない。

 体を包み込めば捕食は出来るだろうが、素早い逃げ足に振り落とされてしまうだろう。

 ならば、寝込みを襲うのはどうだろうか?

 あの女が夜に寝ているとも限らないが、少なくとも昼間よりもバレずに偵察が出来る筈だ。

 試す価値はあるだろう。


「ゴォォォォ……ゴゴッ……ゴゴゴッ……」


 下水を飲み干し、下水管を露わにすると排水溝を逆流する。

 そして車へ戻り、仮眠の為に部屋へ向けて走り出す。

 時刻は18時を過ぎていた……


拙作をお読みくださりありがとうございます。

お気に召しましたら、ブックマークを頂けると嬉しいです。


次回の更新は30日の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ