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11話 体内のスライム化

 

 サービスエリアに入ると、二台の車を駐車場の目立たない位置に停めた。

 時刻は13時を過ぎている。


「降りろ!」


 男を車から降ろさせる。

 俺も黒い車から降りると、左手を白い車へ向け大量のスライムを放出し、車内外を包み込んだ。

 やがて水色のスライムに包まれた車へ向け、最大の食欲を注ぐ。


「食べたいっ!!!!」

「シュッ……」


 車は一瞬で消化され、頭の中に白い車が追加される。

 白い車を纏っていたスライムを回収し、今度は俺が乗っていた黒い車へ意識を向け、白い車を思い浮かべた。

 そして、命令を発する。


「変われ!」

「ジュグジュグジュグ……」


 すると、車の表面がスライム化し、暫くすると白い車に姿を変えた。

 車内へ入ると、内装も変わっている。

 どうやら車全体を作り替えたようだ。

 やはり色彩を変更するだけ、というのは出来ないのかもしれない。

 今度は男へ視線を向け、暫し思案する。


(こいつ……俺の命令が無いと動けないのか? 自我があれば、自分で考えて動くんじゃないか?)


 そして、命令を下す。


「自我を持て!」


 すると男は瞬きをし、キョロキョロと辺りを見回す。


「あれっ? おれは一体何を……」


 そして俺と目が合った。


「あっ! テメェ! さっきはよくもおれをバカにしてくれたな!! ブッ殺」


「戻れ!」

「ドロッ……」


 自我を取り戻した男は、俺に向かって殴り掛かってきた。

 すかさず男をスライム化し、左手で回収する。

 どうやら……


 ・複製した人間に自我を与えた場合、捕食前の性格と記憶を持つようだ。


 今後は俺と敵対する人間を複製した時は、自我を持たせるべきではないということだろう。

 しかし、もう一つ気になることがある。

 今度は両手からスライムを放ち、チャラい男を二人複製した。

 そして二人を向かい合わせると、再び命令を下す。


「自我を持て!」


 すると二人は瞬きをする。

 その後、片方は辺りを見回し、もう片方は俺へ殴り掛かってきた。


また・・テメェか!! 2回も・・・逃げやがって! ブッ殺」


「戻れ!」

「ドロッ……」


 本当に単純な奴だ。

 だが、一つはっきりした。

 再度複製した人間に自我を与えると、前回の記憶を引き継ぐようだ。

 もう片方の男へ目を向けると、腰を抜かして倒れていた。


「な、何だよ今の……何でおれはコイツに殴ろうとしたら溶けたんだ!? ……いや、何でおれはおれを観ているんだ? おれが二人? いや三人? おれは一体どうしたんだ? おれは……」


 この状態はつまり……


 ・同一人物を複数複製した場合、記憶が統合される為、混乱を起こす可能性がある。


 ということだろう。

 もしかすると、片方をスライムへ戻すと、もう片方へ記憶が反映されるのかもしれない。


 丁度いい、もう一つも実験させてもらおう。

 人型を保った状態で、頭の中と上半身の体内のスライム化を試みる。

 体の表面、皮膚から下へ意識を集中させ、瞑目し、まずは頭の中をスライム化させる。


「……」


 スライム化した実感が無い。

 怪訝に思い、右手で頭を押してみる。


「ぶよっ、ぶよっ……」


 柔らかい。

 どうやら成功したようだ。

 男を煽り、顔を殴るよう画策する。


「おい! 俺が何だって? 殴りたきゃ殴れよ? ほらほら!」

「テ、テメェ、絶対にブッ殺してやる!!」


「ッパーン!」


 俺は男に顔面を殴られた。

 痛みはあるが、ビンタをされた時のように軽度なものだった。


「クソッ! まるで手応えがねぇ! どうなってやがんだ!」


 男は訝しんでいるが気にしない。

 続けて上半身もスライム化させてみる。

 腰から肩へ意識を向け、皮膚の下までスライム化をイメージする。


「……」


 やはり実感が無い。

 試しに背中を押してみようと腕を上げた刹那……


「うおおおお??」


 揺さぶられるような感覚が腰から上に疾った。

 咄嗟に車の一部をスライムへ戻し、視点を変更する。

 車から観た俺の身体は衝撃的な動きをしていた。

 まるで皿に乗った巨大なプリンの如く、前後左右にプルンプルンと揺れている。


(こりゃダメだ……)


 どうやら柔らかすぎる為、体を支えることが困難なようだ。

 一度上半身を人型へ戻し、今度は内臓のスライム化を行う為、肺、胃、心臓へ意識を集中する。


「……」


 変化は感じられないが、おそらくスライム化しただろう。

 軽く胸を叩いてみると、人型の時とは違うものを感じる。

 準備が整った。

 左手に包丁を複製し、困惑する男の前に落とす。

 そして男を煽り、心臓へ指をさす。


「テ、テメェ、これはどういうつもりだ!?」

「ブッ殺したいんだろ? 刺せよ、俺を。ここだよ、こ・こ!」


「なっ、なにぃ?」

「どうしたよ? 怖くて刺せないのか?」


「クッ、クソが! 舐めやがって!!」


 本当に単純な奴だ。

 男は包丁を掴み、俺の胸を刺した。

 だが……


「うっ! ……いってぇ!!!!」


 飛び上がる程痛かった。

 皮膚を切るとか、そういうレベルじゃない。

 身体に穴を開けられるような激痛が走る。

 何故ここまで痛みを感じたのかは不明だが、もう二度とこの実験はやらないと心に刻んだ。


「へ、へへっ、やってやったぜ……簡単じゃねぇか、殺」


「も、戻れ……」

「ドロッ……」


 男をスライムへ戻し回収すると、フラフラと白い車へ乗り込んだ。


(クソッ! 何だったんだ、あの激痛は……)


 そして全身をスライム化させ、再び人型へと戻ると暫く後部座席で横になった。


 ※ ※ ※


 実験の代償はなかなか重いものだったが、成果は以下の通りだ。


 ・人型時に体内の一部を任意にスライム化することが出来るが、実感が無いので注意が必要。

 なお、全身をスライム化させ人型へ戻ると、一部スライム化が解除され全身が人型になる。


 という事になる。

 スライム化させる箇所を考慮しなければならないが、殴られてもダメージが軽減されるというのは大きい。


 かなりの回り道をしてしまったが、白い車や実験結果など、得るものがあった。

 決して無駄な回り道ではなかったと思う。

 時刻は15時を過ぎてしまったが、再び車を走らせ廃墟へと向かう……


拙作をお読みくださりありがとうございます。

お気に召しましたら、ブックマークを頂けると嬉しいです。


次回の更新は24日の予定です。

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