1話 まなみちゃん
当作品は残酷描写を多数含んでおります。
お読みいただく際には十分ご注意ください。
――2019年8月 東京某所 キャバクラ ミカカ
俺は今日こそ一世一代の大勝負を仕掛けようと思う!
何をするかって? そりゃ告白だよ!
愛する真実ちゃんに告白して、俺の片想いを終わらせるんだ!
緊張はするが、勝算はある。
なんといっても今日の為に色々と準備してきたんだからな!
気分は最高! 負ける気がしねぇ!
いつもの店に入り、いつもの席で真実ちゃんを待つ。
作成ツール:ガン見してぅるメーカー
暫くして、清楚な白い服を纏った真実ちゃんが俺の隣に座った。
「き、今日もありがとね、純くん……」
「あっ……うん。えーとさ」
「……何? どうしたの?」
「実は俺、真実ちゃんの事が好きだ! だから、付き合ってほしい!」
「純くん……ごめんなさい!」
「えっ? どうして? 俺の何がダメなの?」
「いや、その……」
「なんでなんで? 俺、今まで真実ちゃんに色々してきたよね? 家も車も何もかも売って、真実ちゃんに尽くしたんだよ?」
「そう、だからね……」
「それに、真実ちゃんの事が心配だから、真実ちゃんの家の中にカメラを付けて見守ってるし、毎晩この店に出勤するのを見届けてあげたんだよ?」
「うん、知ってる……」
「こんなにも真実ちゃんを想ってる男なんて他に居ないよ?」
「はっきり言うね。純くん、気持ち悪いからもう来ないで」
「はっ?……」
「さようなら……」
真実は店長に目配せした。
すると、店長や数人のスタッフが俺を取り囲む。
「加藤様、お引き取り願えますか?」
「くっ……」
俺は苦虫を噛み潰したような表情で店を後にする。
入店から僅か数分の出来事だった。
最高の気分で入店し、最低な気分で退店し。
そして、訳もわからず帰路についた……
※ ※ ※
俺は四畳半のアパートの一室で、服も着替えず不貞寝し、目が醒めると朝を迎えていた。
ふと起き上がると、急激に吐き気を催しトイレへ駆け込む。
気がつくと、トイレで吐きながら涙を流していた。
「クソッ……なんでダメだったんだ……うっ……辛い、生きているのが辛い……」
耐えられないほどの吐き気と絶望感に苛まれ、自然と病院へ向かっていた。
※ ※ ※
俺は精神科の待合室で座っている。
小綺麗な院内は、案内が滞りなく行えるようにシステム化され、待ちの患者は数人程度だ。
「さんぜん、ななひゃく、ごしゅう、ろく、番のお客様、よん、番の診察室へお入りください」
無機質な機械音で診察室へ呼ばれる。
診察室へ入ると、眼鏡をかけた初老の男が座っていた。
「今日はどうされましたか?」
「彼女に振られて……辛いんです」
「ほう。それはそれは。では、お薬出しておきますね。お大事にどうぞ」
「えっ? 終わり?」
「まだ何か?」
「いや、診察とか問診とか……」
「そうですね。気分の悪い所とか、痛みなどはありますか?」
「はい……吐き気が、かなりします……」
「わかりました。吐き気に効くお薬も出しておきますね。お大事にどうぞ」
「は、はぁ……」
なけなしの金を支払い、薬を受け取り病院を出た。
そして後ろを振り返り、小綺麗な病院を見つめる。
「なるほど、ボロ儲けだ。だからこんなに小綺麗なんだな……ふぅ」
と溜息を吐いたのだった。
※ ※ ※
俺は病院を出ると、行く宛も無く、街をとぼとぼと歩いていた。
暫く歩いていると、廃墟が目に入る。
7階建てくらいのビルだ。
入り口は封鎖していたのだろうが、バリケードが壊されている。
「丁度いいや。このビルの屋上から飛び降りたら楽に死ねるだろう。真実に振られた。この世に未練なんてもうない。そうだ、死のう!」
ゆっくりと階段を登り、やがて屋上に辿り着く。
錆びた扉を開けると、そこには綺麗な青空が広がっていた。
疎らな雲が漂い、心地良い風が吹いている。
「ははは。まるで俺の門出を祝っている様じゃないか。来世はもっと、爽快な人生がいいなぁ……」
そう思いながら、ふと左手に視線を向けると、病院で受け取った薬が目に入る。
「クソッ、あのヤブ医者。俺を薬漬けにするつもりだったな。いいだろう、なってやるよ! 薬漬けに……」
薬を全て飲み干し、柵の上に立った。
「バイバイ、俺の人生。終わり悪けりゃ、全てダメだな……」
そして俺は屋上から飛び降りた。
死の直前、普通は走馬灯が流れると聞くが、俺は不思議と真実の顔しか浮かばなかった。
「さよなら真実」
地面が間近に迫った時、眼前が黄色く輝く。
「ピシャーン!!」
そして俺は、突然雷に打たれた。
拙作をお読みくださりありがとうございます。
お気に召しましたら、ブックマークを頂けると嬉しいです。