ミレミアム新世界奇譚
新暦になって千年が経ちました。
千年前、皆さんの祖先は文字を英数字に統一し、言語も世界語としました。
それ以前は、地域によってバラバラの文字を使い、それぞれ、まったく別の言語を読み書きしていました。
今夜は、そんな不便な時代のお話をしましょう。
日本という国は、仮名と漢字という非効率な文字を使っていました。
学校と呼ばれる場所で大勢を一ヶ所に集め、酸欠状態で教育と称して洗脳していました。
大人になると会社と呼ばれる場所で大勢が一ヶ所に集まり、貨幣と呼ばれる丸い金属の板や細長い紙をどれだけ自分たちの物にできるかを競っていました。
一人一台の優秀なアンドロイドが派遣され、誰に邪魔されること無く思索や発明に没頭できる今とは、隔世の感がありますね。
性別や年齢によって、タブーとされていることがたくさんありました。
また、外見の僅かな差異や、どこの誰の子かということでも、非合理的な優劣を付けられました。
現在では絶滅した依存性の高い物が商品と呼ばれ、貨幣を稼ぐ手段として利用されていました。
手っ取り早く商品や貨幣を得ようとして、犯罪に手を染める人間も後を絶ちませんでした。
食糧と同じで、住宅事情も、貨幣の多寡によって格差がありました。
平屋に住む人は少なく、何層にも積み重ね、一層を更に細かく区切った内の一つ部屋で、窮屈な思いをしながら暮らす人も、大勢いました。
まだ衛星移民局も無く、この狭い地球に今の人口のおよそ千倍にあたる七十億人もの人々が犇めいていたのですから、無理ありませんね。
脳波が変わって、そろそろ目が覚めそうですね 今夜の睡眠学習は、ここまでとしましょう。
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未来人たちは知らない。
自分たちが、仮想現実の世界にいるということを。
そして、現実の人間たちは一人ずつチューブに繋がれてカプセルに入れられ、それらを人工知能ロボットが管理しているということも。
ソクラテスになるか、ピーターパンのままでいるかは、貴方次第。