#1
二作目。また妹かって?知らないです。
読んでもらえると嬉しいです。
「でさ、その時のあいつがすげーかわいんだよ」
『……』
「って、聞いてるか?」
『いや、聞いてない』
「おいっ」
『あのさあ、何が悲しくてお兄ぃのデート話を私が聞かなきゃいけないわけ?』
「だって、お前には世話になったし」
『まあ確かに?お兄ぃのダサダサなセンスで服とか行き先とか決めたら、ソッコーでフラれたと思うけど?』
「なんも言えねえ……」
『とりあえず、なんか買ってきてよ。暑くて、だるぃ』
「了解。ジュースとかでいいか?」
『うん。……ねえ、お兄ぃ、初デート楽しかった?』
「ああ!だが、しかし!俺と彼女の夏休みはまだ始まったばかりだぜ!」
『……くすっ、私とお兄ぃのね』
「何か言ったか?」
『ううん。じゃあ、ジュースよろしくー』
俺はスマホをポケットに入れるとスーパーへ向かうことにした。
7月26日。午後6時を過ぎてもうだるような暑さだが、そんなの今の俺には関係なかった。気分は最高。足取りも羽のように軽やかだ。なにせ念願の彼女との初デートに成功したからだ。別れ際のマイハニーの天使の笑顔っ。あれを見るために俺の16年の人生はあったに違いない。
いやあ、本当に妹様様だ。今回のデートをセッティングしてくれたのはほぼ妹だ。服のコーディネートから行き先、オシャレなカフェまで。もう妹には足を向けて眠れない。なんなら妹の足に口づけしたっていい。……うん、今のは気色悪いな。どうやら、ちょっと舞い上がりすぎているみたいだぜ。へへへ。
俺はスーパーで夕食の惣菜、あと、ジュースと菓子を買う。
俺と妹の仲は世間一般から見れば良好だろう。両親が共働きで両方忙しいので家に帰ってこないこともザラだ。小さい時から親がいない孤独の中、妹と支え合ってきた。仲良くないとやってられない。一時期、というか、今年なのだが、俺が男子中から共学の高校に進学すると言ったら、なぜか妹が猛反対して険悪ムードとなったが、今では元鞘。今日も男子中時代のむさいセンスしかない俺のために一肌脱いでくれる出来た妹だ。
俺はレジ袋を片手に帰り道を歩いていた。私鉄の踏切を渡っていると、一人の婆さんが立ち往生していた。どうやら手押し車の車輪が線路にはまっているようだ。運の悪いことにカンカンカンと鐘がなり始める。
「婆さん、手伝うぜ!」
俺は手押し車を持ち上げて、ついでに婆さんの手を引いて誘導する。踏切を渡り終えると、「婆さん、気をつけな」と言って颯爽と立ち去る。俺ってば今、ちょっとカッコいい?これが彼女ありの、持てる者の余裕というやつか。いつも出来ないことが自然と出来てしまうぜ。などとほくそ笑んでいたら、手首をガシッと握られた。
「ちょっと待ちなされ」
「へ?」
「礼がしたい。付いてきなされ」
「いや、俺は……」
「付いてきなされ」
「お礼とかは……」
「付いてきなされ」
「はい……」
俺は婆さんに凄まれ了承してしまった。情けない?いや、婆さんの眼光、すげー鋭かったから。まあ、俺が元々、押しに弱い性格ということもあるが。ていうか、婆さん思ったより元気なんだけど。俺が後を追うのがやっとの速さで手押し車を押していく。そして、あれよあれよという間に、俺は路地裏にある一軒の古民家風の家に入っていた。畳の客間に通され、ちゃぶ台を挟んで婆さんと向かい合う。
「それで礼だが……」
「いや、本当にお礼とかいいんで」
「それはならん。儂は魔女じゃ。魔女は受けた借りは返さねばならん」
魔女?ナニソレ?魔法少女というやつか?最近、マミさんがマミられたのを見てショックだったんだが。しかし、目の前の婆さんはどう見ても還暦オーバー。魔法少女とか言っちゃいけない年齢だ。
「婆さん、魔法少女って……」
「そんなことは誰も言っておらん。儂は魔女じゃ」
「あ、はい」
そうでした。落ち着け俺。
とりあえず和服姿の自称魔女からどうやって逃げ出すか考えていると、婆さんはおもむろにちゃぶ台の上のロウソクに指を近づける。人差し指の爪の先から小さな炎が現れ、それがロウソクを灯す。きっとマジックだよな。平静を保とうとする俺をよそに、婆さんは指をバチンと鳴らす。すると、どこからともなく、四角い物体が宙を飛んできてちゃぶ台の上に着地する。
それはペットなんかを入れるゲージだった。サイズは縦横5、60cmくらい。その中にはネズミ色の物体。というか、まんまネズミである。ネズミはひげを動かしつぶらな瞳で俺を見上げる。
続いて婆さんは、どこからともなく、小瓶を取り出す。俺は状況に頭が追いつかず、視線をネズミと小瓶の間で行ったり来たりするが、最後には小瓶の方に釘付けとなった。なぜなら、蓋が閉まり空っぽの小瓶だったはずなのに、突然、こぽこぽと透明な水が湧き出したからだ。我が目を疑い、いったん目を閉じて、般若心経を唱え……られないが、心を落ち着かせ目を開ける。ハハ、見間違いじゃなかったぜ。
水でいっぱいとなった小瓶を、婆さんはこっちへ突き出して揺らしてみせる。無色透明のそれがちゃぷんとなる。
「これは霊魂水と言う。読んで字の如く、魂の水じゃ。それでこれはネズミの霊魂水。畜生一匹の魂は小瓶一つということよ」
「……」
「む。おぬしの目、儂の話を信じておらんな?」
「信じる信じないっつーか、いきなり過ぎて」
「では証拠を見せてやろう。目の穴をかっぽじってよぉく見ておれ」
目の穴をかっぽじったら見れないだろうが。と心の中でツッコむ。
婆さんは小瓶の蓋を開けると、さっき灯したロウソクの炎の上に小瓶の底をかざす。30秒も経たず気泡が出てきて沸騰する。水ってこんなにも早く沸騰するものか?元々、90度だとか高温だった可能性もあるが……間違いない、これはただの水じゃない。だって、俺がまばたきする間に、尋常でない速さで、小瓶の水量がみるみる減っていくからだ。そして、最後の一滴まで蒸発してしまった。
あっけにとられた俺は婆さんの顔を見る。婆さんはクイックイッと顎をしゃくる。その方向へ目をやると、ゲージの中のネズミがぱたりと倒れていた。さっきまでのつぶらな瞳が濁っている。まさか死んでるのか?もし死んでるなら――俺の直感が死んでいると告げている――、命が軽いってレベルじゃないぞ、これ。
「まあ、こんなもんよ。信じる気になったか?」
「……はい」
「それで、ほれ、こっちはおぬしの霊魂水じゃ」
「……はい。……え?」
ちゃぶ台に置かれたのは500mlのペットボトル。透明の水がちゃぷんと揺れる。
「普通なら対価をがっぽりもらうところだが、特別にタダでくれてやる」
「え?いや、え?」
「肌身離さず持たねばならんぞ。なにせ、おぬしの体と霊魂水が100mも離れれば、おぬしはぽっくりあの世逝きじゃ。それと、多少霊魂水が目減りしても害はないが、減りすぎるとおぬしの存在が希薄となり、他人との関係が持ちづらくなる。気をつけなされ」
「待って!待って!」
「なんだ?」
「霊魂水なんて俺には必要ない。勝手なことするなよ」
「なぜじゃ?肉体と魂を分け隔てる術は高度であり、出来る魔女は儂を入れて片手で足りる程度。垂涎の代物じゃぞ」
「俺に何のメリットがあるんだよ」
「分からぬか?魔女となれば、同業者のみならず、客やその他諸々から恨みを買いやすい。毎夜毎夜、呪詛の恐怖に怯えなければならん。だから、肉体と魂を別にするのよ。呪詛は肉体でなく、魂を呪う。相手は肉体の在り処に検討はついても、隠し持つ霊魂水の在り処まで特定するのは難しい。その間に呪詛を返し反撃することも出来よう」
呪詛とかw 俺の人生に関係ある?ないよね?ていうか、俺、そもそも魔女じゃないし。なんでこの婆さん、魔女前提で話を進めているのか偉い人、教えて欲しい。霊魂水なんて命を丸裸で持ち歩くようなものだ。デメリットしかない。
「話は以上じゃ。礼は果たしたし、帰ってくれ」
「ちょっと待て。霊魂水?俺の魂?ってやつ、元に戻せ」
「無理じゃな」
「は?無理?」
「一度、肉体から取り出した魂を元に戻す術なんざ、ありゃせんよ。ほれほれ、帰った」
「おい、待て、婆さん!ちょっ……おい!ババア!」
俺は抵抗むなしく婆さんの術か何か知らないが、見えない何かに両腕をホールドされてそのままゴーアウェイ、家を追い出されてしまった。
短編のつもりで書いてたけど、疲れたのでここまで。
二話完結の予定。