俺の人生終了説
さて、ソレラの方だが一進一退の攻防のようだ。ソレラは吹き出す炎を避けて防御し、何かしらの呪文を呟いて攻撃している。しかし、ドラゴンの厚いウロコに阻まれているというところだろうか。ドラゴンはオーソドックスな緑色といったところでウロコはちょっと濃い目の緑だ。イメージのしやすい極一般的なドラゴンだ。極一般的といえど強敵であることは間違いない。先程アレラが言った通りまだ子供らしいのだが、十メートルの超える体型を持っている。
戦っている、ソレラは何かに似てるよなぁ。どこがで会ったのだろうか?青い髪で長髪……そう考えていると、アレラが戦いの光景を見ながら話しかけてきた。
「少し押されているな」
確かに、ドラゴンの方は余裕そうで、ソレラも少し息が荒れてきている。だからといって特に俺が何かをできるわけかではないのだ。俺は特に意味もなく壁を軽く蹴る。んー、何か俺にできたらな。一応俺に何かできるか聞いてみるか。
「なっ何か俺にできませんか?」
「んー、そうはいってもな〜。はっきり言って君は無力だし……」
分かってたことだけどはっきり言わないで!まあ現実を受け入れよう。となると俺の存在意義は特になくて、ただのお荷物ってことになるのかな。深いため息をつきたいところだが何か良い案を考えよう。そうだ、アレラとかレノが助太刀すれば早い話じゃないか?なんでしないんだ。
「すっ助太刀すればいいんじゃないですか?」
「駄目だ、あたしの場合は君らを守ることや索敵もあるし、魔力はあまり残っていない。それに、何もしていないように見えて一応、強化魔法はかけているんだぞ。で、レノの場合は力不足で足手まといの可能性がある。ついでに言えば、妹だってプライドはあるからな」
結構色々考えているんだな!しかも、実はひっそりと強化魔法をかけていたとは。でも、もう少しぐらいできる範囲で手伝ってもいいんじゃないかと思うけど。いや、素人の俺が口出しするのは良くないな。後先考えての判断なのかもしれないし、俺が言えたことでもないからこれ以上は言わないけど。
「それにな、あたしより妹の方が強い……君と一緒だ」
「そっそうですか……」
なるほどな、自分もその気持ちは境遇が同じだからよく分かる。兄として立派であるべきなのに、何もできないだけでなく妹に迷惑ばかりかけているからな。レノは好意でサポートしてくれているのだろうけど……アレラも俺と似たようなことを感じ考えているのだろう。
そう納得して、ソレラの戦闘へと視線を戻す。ソレラは今度は剣を抜き出して魔法の力を宿らし攻撃を始めた。
「おぉ、なるほどな。剣に宿らせるとは! そんなやり方があったとは」
「すっ凄いですね」
このアイデアのおかげで少し形勢を立て直せている気がする。遠くから魔法を撃つのではなく、今はドラゴンの振り下ろされる爪や炎を交わし、壁を蹴って上から切り下ろしたりと攻め方が変わった。魔法だけよりかはダメージを与えられているように見える。ドラゴンの緑の血が少し飛び散ってるし……しかし、アレラの顔は険しいままだった。
「これだけでは厳しいかもしれないな。致命傷を与えるのは難しそうだ」
「たっ確かにそうですね」
「そうですね〜」
レノも後ろから同意してそう答える。満場一致でまだ不利という結論が出た。だからといって何もできないのだが……三人とも戦闘を見ながらも思案しているとアレラが何かに気づいたようだ。
「そうだ、君があたしの妹とリンクする方法があった!」
「りっリンク……ですか?」
「前に言った、簡単な儀式っていうやつよ」
「そっそういえば」
けど、謎なことはしないでくれよ。この世界、ウェールスにおいて、やったー最高!ってなったこと一回たりともないから。俺に利益がないのならやらないでおこう。
「ウェールスと地球の間には実はある法則があってだな。違う世界同士の者が魂のリンクができる、それにより力が増幅する」
「あっ、そう……なんだ」
いや、そんなこといきなり言われてもね……ってのが正直なところだ。
「やり方は例外もあるが、体液の接触だ。例えばキスとかだ」
……サラッと今なんと言われましたか?俺は身の安全の為素早く一歩下がる。そんなことするのは、あっ想像したらダメだ耳が熱くなってきた。もしかしたら聞き間違いかな、耳がおかしいのかもしれない。俺、耳鼻科予約しないといけないかもだな。地球戻ったら行ってみるか。まさか、本当にあの二文字を言ってるわけないよね?
「まあそう、赤くなるな。したいのなら別に問題ないが、血液同士で構わんぞ」
やっぱり言ってたのか!こんなこと、
「だっ誰がやるかー!」
俺は猛反対だと叫ぶ。こればっかりは知るか、からかってきたところに問題がある。なぜ無駄にドキッとしなくちゃいけないんだ!それ以上に問題があるのは忘れてないぞ、謎のリンクという行為はどうせ危険なんだろう。商売とかでよくある、多分デメリットを言わないパターンだ。そのデメリットの内容がどんなものなのか?そこが大切だ。
「ふーん、妹を殺す気か?」
「まっまあ、そっそのーー」
アレラは俺を試すように睨む。そんな風な言動を取られては対応に困るな。俺はまともに見られず関係のない方を見て逃げる。殺すつもりはないけど……
「あぁっ」
どうしたんだレノ、いきなり大声を出して。レノの視線の先には未だにソレラとドラゴンの死闘が繰り広げられている。やはりソレラは劣勢みたいだ。おっと、大丈夫か?今一瞬躓きかけたぞ、レノが叫んだのもこれだろう。
詳しく見てみると、ドラゴンの方も一応血が出ており、ダメージを喰らっているみたいで余裕さは感じられない。ソレラも出血があり、こちらもまた余裕ではなさそうだ。どちらが勝ったとしてもダメージは大きいだろう。んー、早く何とかしてやらねば。洞窟の天井を仰ぎ見てもなんのアイデアも生まれてこない。やはりさっき言った案しかないのだろうか?一応ソレラは出血してるみたいだし、わざわざ傷つけて血を出す必要はなさそうだが……
「あっ危ない。喰らえっボンボカファイヤー!」
ついに、躓いてしまいおい込まれたソレラに向けて振り下ろされる鋭利な爪が迫っている。レノの魔法がなんとか間に合ったようで爪が割れて、ソレラは避けられた。
くっ、悩んでる場合ではなさそうだな。リンクが必要なのかもしれない。けど、行ってしまうとまた面倒な事情に巻き込まれる。いきなりレノは俺の手を掴んでこう言う。
「お兄ちゃん救ってあげて」
いやーそう言われましてもねー。助けてあげたい気持ちはあるけどやっぱり色々と危ないし……でも、死んでしまったりしたら俺は……悲しい?のかな。俺はその時どう思うのだろう。分からない、会って数日の人と少し仲良くなったそんな人が死んだとなれば、アーー、頭を掻きむしって考えても答えは出ない。
「君、考えてる時間はないぞ」
悲しいか悲しくないかそんな境遇になったことはないし、人と関わらず生きてきた俺にはどんなに考えても分からないだろう。しかし、一つ分かったことがある。死んだらちょっと困る、そして後悔しそうな気がする。これは、行くしかない。俺は悩みに悩んだ末に答えを出した。
「アレラ、俺は救いにいきます」
アレラはそうかと頷いて俺の決意に応じる。
「なら、敵を引きつけておくからその間に行け」
俺はその返事を待たずして、疾走しソレラへと向かう。幸いにも、ドラゴンとソレラの間にはある程度の間合いがあり、近づくことは容易だった。
近くに行くと余計にソレラの怪我の酷さが分かる。これは、早く助けてあげないと。
「レン、ここ危ない」
「分かってる、リンクだ」
俺は急いで自分の体に傷をつける。場所はアレラがリンクの話をしたときから決めていた、手の甲だ。手の甲には、前の刻印があって未だに軽く疼く。なので、ここならそこまで痛くないだろうと考えたわけだ。チキンプレイとか言うなよ、できるだけ痛くないところにしているだけなのだからね。
そして、俺は準備満タンでソレラに手を差し出すのだが、何もしない。すぐにリンクしてくれると思ったのだが、何を戸惑ったのかソレラは渋る。
「はっ早くしないと……」
そう、早くしないとドラゴンが近づく。アレラとレノが一生懸命注意を引きつけてくれているが、それがいつまでもつか分からない。しかし、そう言ってもソレラは渋る。強制的にでもさせようとするが、ピクリともソレラの手は動かない。
「はっ早く、死にたくないから」
俺はここでリンクを諦めて逃げ帰ることもできるのだが、ソレラにリンクを促す。決して人のためではない。見捨ててしまって後ろめたく生きていき罵倒されるのが嫌なだけだ。あードラゴンがこっちに気づいたようで近づいてきた。急いでアレラ達はそれを止めようとするが、ドラゴンはこちらに興味津々だ。ドスッドスッと大きな振動と音をもたらしながらだんだんとこっちに向かってくる。俺は早くしろと手を揺さぶって急かす。
「そっソレラ!!」
俺の緊迫感溢れる呼び声がようやく心に届いたのか、ソレラは口を開く。
「決めた、分かった」
何が決まったのか、分かったのかは知らないがとりあえず同意をもらえてリンクができる。本当に早くしないといけない。ドラゴンはもう既に近くにいるのだろうか?わき目で確認する余裕もないので分からないけど、地響きが大きくなっている。俺は女子の手を掴むという緊張感を始めとして様々な意味で震える手を動かして、なんとかソレラの腕を掴むことに成功する。
そして、接触を行う。……はず、だった……が一歩遅かった。間に合わなかったのだ。ソレラの手の傷と俺の手の甲の傷が触れ合う前に、ドラゴンは立ち止まり大きく息を吸い込む。
アレラもレノの魔法も間に合わない。約四メートルの距離で、炎を浴びると確実に死ぬ距離。ドラゴンの喉奥から炎がチラッとみえた。この数日の非現実的な日々は不思議な体験だったな……ソレラと死ねるのならせめてもの幸せなのかもしれない。
俺は最期まで抵抗しようとしたが無駄でしかないので諦めて目を瞑る。