あいつは魔法が使える説
「こっちだぞ」
案内された方に俺は着いていく。吹き付ける風が俺の制服を揺らして寒い。が、先程のせいで汗はかいている。寒さの原因は、あの真っ黒い雲のせいで日光が遮られていることだろう。光をほとんど通さないから辺りが薄暗い。こんな異世界って、正直嫌だな。あっ、正確には異世界じゃないらしいけど。
それにしてもここは見たことある光景だな、この道は確か……行きしな通った道じゃないか!岩のこと知らないのか?教えないと。
「そっちは、岩が……」
その道はさっき岩で塞がれてるはずだ。背丈を超える岩の壁をどうするつもりなんだ?登るのも、壊すのも、無理そうな気がする。少なくとも自分には、だが……ゴツゴツしていて固そうな岩でとても重そうだ。たとえこの人でも無理だろう。そう思って諦め見ていると、その人は岩の元まで近づく。何をするんだ?岩を持ち上げて……投げ飛ばした。
「あっ……」
俺はあんぐりと開いた口を手で締める。そんなに軽々と岩を投げるとは……女の子からこの人やソレラ、この世界の住人は皆凄い力を持っているな。まあ俺にも多分なんらかの秘めた力があるだろうと思うけど。今度ソレラに聞いてみるとしよう。
「なーに、ボケーとしてんだ?」
その人はとっくに岩をどけ終えて俺を待っているようだ。いやっボケーとしてしまうだろう。この世界では当たり前なのかな?そうなんだな、多分。珍しそうな素振りでもないしな。
「あっすみません」
俺は急ぎその人に追いついて歩みを進める。道中様々なものを目にした。荒れ果てた野原、一部に残る緑豊かな自然から、散乱する白骨、これらを見ているとやっぱり違う世界に来たんだなって改めて思う。
しかし、現実とアニメって全然違うよな。何もかも上手くはいかないし、綺麗な景色があるとは限らないし。こんな景色だとソレラが言ってた通り滅んだりしてしまいそうな気がしなくもない。
まだ着かないのかな?俺は歩きながらそう考える。そういや、名前とか聞いてなかったな。命の恩人なのに……忘れていたとは、
「おっお名前は?」
「そうだなぁ、アレラとでも呼んでくれ」
アレラというのか、どこかで聞いた名前と似た響きだな。えっと……どこだっけ?んー頭をフル回転させるが出てこない。まあいいやその内思い出すだろう。
「あと、敬語はやめろ、理由はさっき言った通り来てもらってるんだから」
敬語ばっかり使って逆に失礼なことをしてしまったようだ。
「あっはい、まっ誠に申し訳ございません」
うっ、言った瞬間気づいた。また使ってしまった。
「えっとーすみません」
こんな風に言えばいいかな?合ってる……よね?多分……アレラは立ち止まって俺に言う。
「お前にどんな過去があったかは知らんがオドオドし過ぎだろう、もっと胸を張って生きろ」
「そっそうですよね……」
的確なアドバイスに俺は納得する。アレラの言葉は本当に的確で俺には確かに辛いそんな過去があった。いつまでも気にしてる場合ではないとは分かっているのだけどな。胸を張ってか……
「まあ、私もあまり言えた身ではないが、分かっていると思うが少々偉そうな口調でな……よく誤解を生んできたものだ」
「そっそんなことないですよ、あっアレラさんの言葉は的確で優しいと思いますよ」
会ったばかりでよく分からないけど、この言葉に偽りはない。俺的にはズバッと核心を貫いた少し偉そうかもしれない言い方の方が伝わりやすくて優しいと思う。むしろ嬉しいぐらいだ。
「そうか、ありがとう」
アレラは少し照れているのか視線を泳がせる。当たり前だけど、女子っぽいところもあるんだな。アレラはかっこいくて優しい理想の人なのかもしれないな。結構美人だと俺は思うし……って、
おいっ俺、なんでそんなこと考えてんだ。
「お〜い! おっ兄ちゃ〜ん」
「この声とこの発言はもしや……」
声のする方向にはソレラとレノが手を振って待っている。茶色いマントまで着てぬくそうじゃないか、それ欲しいぞ。焚き火があるから野営でもしていたのかな?天然の高台と人工の壁により安全そうな場所だ。さっきみたいに襲われにくいだろう。にしても、ほんの数十分離れただけだが久しぶりに会う気分だ。やっぱり死にかけたからかな。俺は手を振り返す。
「おーレンくん、二人が待ってるぞ」
俺は走って二人の元へ向かうため階段を上る。二人の無事を確認する。特に怪我はないみたいで良かった。一応確認しておくか、
「だっ大丈夫だったか二人とも」
「あったりまえだよ〜バシバシこのレノちゃんが魔物を倒しちゃったよ☆」
舌をペロっと出して笑顔で答える。なんだ最後のセリフの星は!それは、可愛いアピールなのか?早く消せ!まあ、無事なのは良かったけど。
「おーそうなのか、後半は嘘じゃないのか?」
「本当だよ〜」
本当ならどうやって倒すんだ。ほとんどソレラが倒したんじゃないのか?重いもの持てなくいくせに、別段俊敏性もあるわけでもないだろ?魔物なんて倒せないはずだ。
「レン……」
「ソレラか……ぶっ無事で良かったな」
「こちらのセリフ」
確かにそうだな。運良く助かっただけで、死にかけたからな。俺が死にかけてる間、レノが言うように魔物を倒していたのだろうか?怪しさしかないから聞いてみないと、
「なっ何してたんだ?」
「レノと魔物倒しつつ探してた、レノ強い」
危険を冒してまでわざわざ探してくれたのか。ここらは魔物とか出るんだな、襲われなくて良かった。探してくれたとは感謝の気持ちで一杯だ。しかし、先程から一つ引っかかる。
「あっありがとう……れっレノ強いのか?」
「うん」
まさか、レノが強いなんて。どうせまた戯言、冗談、嘘だとは思っていたのだが……どう強いんだ?物理的にか魔法的にか、しか方法はないよな。物理的には筋肉ないだろ。魔法的にも使えるわけないだろう。どう考えても信じられないけどソレラが嘘つくわけも……なんてたって、今そこらを駆け巡ってはしゃいでいるんだぞ。本人に直接聞いてみるか。
「なあっレノどうやって倒したんだ?」
すると、レノは立ち止まって自慢げにこう言う。
「ババーンのドーンよ!」
……あっ、駄目だ聞く人間違えた。この人は語彙力皆無なんだった。ソレラにもう少し詳しく聞いた方が良かった。いやー時間の無駄だった。俺はその場を立ち去ろうとすると、レノは俺の手を掴み。
「ちょっと、なに聞く人間違えたって顔してるの」
「おぉ、よく分かったな」
なんだ分かってるんだったらしっかり答えてくれよ。一応知りたいんだから。レノは今から何かをしでかす雰囲気を出して下を向く。また何かが始まるみたいだ。帰っていいか?レノは無駄にマントをバサっとさせてかっこをつける。
「レノの魔法を喰らいたいのか!」
「ちょっと落ち着け」
こいつ、もしや中二病でも発症したのか?もしそうならスタスタと歩いて帰らしてもらうからな。まだ魔法が使えるだけ普通の中二病の人よりマシかもしれないが。あと、喰らいたくないです。
「勝手に中二病と決めつけるな〜」
こいつ思考でも読めるのか!なんで分かるんだ。だとしたら、喰らいたくないことも読み取れ!うっその手に溜めているエネルギーの塊みたいなものを俺にぶつけようとしてないよな?それは死ぬから違うよね?本当にゆっくりさせてね、頼みますよ。
「やめろー」
俺は両手を合わせてお願いするが、俺の願いは払われて代わりに魔法を唱える。あいつアホか巨大な炎の球を作り上げている。俺を殺す気か!俺は驚きながらも身構える。
「ボンボカファイヤー!」
「ウゲェー」
無駄な振りかぶりの間に俺は右に転がり避ける。甘いなもっとしっかり狙わないと、俺がかわしたその球は岩にぶつかって砕かせる。あの岩絶対硬いと思うのに粉々とは……凄い威力だ。当たっていたら間違いなく即死だったな。ここからでも熱が伝わってくる。あったかい、芋でも焼けそうだ。
「殺す気か!」
「まだ上手にコントロールできなくてやり過ぎちゃった」
「この……」
テヘッと笑顔で誤魔化す。いや、誤魔化しきれていない、バレバレだ。少し痛い火の玉程度をぶつけるつもりだったのだろうが、それはそれで問題だぞ。そもそも、コントロールできないならするな!あー、もっと文句を言ってやろうと思ったがもういい。心の中だけにしておく。そんな気力すらない。こっちでもあっちでも疲れたし、我らの地球に居れば今は寝ている時間だろう。けれど、本当に魔法が使えるとは……
「なんで使えるんだ?」
「えー知らない、なんとなく。レンも使えるでしょ?」
はっ?こいつなんとなくで使えるとは……なんらかの特訓や継承的なものじゃなくてか!才能というものか?レノが使えるなら俺も使えるはずだ。ソレラに聞かないと、えーと、ソレラは焚き火の前に座っているな。俺も近づき座る。
「なっなぁ、ソレラ俺の魔法を教えてくれ」
「え? そんなのはない」