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偽界説  作者: ひうか
もう一つの世界
13/20

謎過ぎてよく分からない説

 うーん、返事が返ってこないなー。どこ行ったんだ?謎の世界に俺を一人で置いてかないでくれよ。俺の今の状況は何一つ武器もなく制服の格好のまま一人でここにいるんだよ。これで、どうやって危機を凌げばいいんだ?拳か?ただでさえ、こっちの世界も冬を迎えているのか寒くてあまり動きたくないのに。


 どこか安全な場所に避難しようと、周りを見渡してみる。が、辺りは薄暗い荒野が広がっていて、所々に申し訳程度の痩せた木があるだけだった。これでは、どっちにいけば良いかすらも分からない。魔物的なものが出てこられても困るので早く避難しないとっ……


 うわっと……突然、地面が揺れ始めた。


「えっ?ちょっ待……」


 なんだ?もしやさっそく魔物のお出ましか?さっきからフラグを立てた通りに起きてるじゃねぇか。


 ゴゴゴッ


 地面の揺れはますます早くなる。クソッ要らぬことを考えてる場合じゃないな。そして、文句言ってる場合でもない。急いで逃げないと、ヤバイぞこれは、俺の中の本能的なものがそう訴えかけている。想像しているより酷いことが起こるのかもしれない。

 俺は急いで音と反対の方向に走って逃げる。


「待っ……て」


 何なんだ、この忙しい時に?俺は止まるわけにはいかないので、走り続ける。悪いけど自分の命が危ないので助けてやれないぞ。俺は少しの後ろめたさを感じながらやはり走り続ける。


「待て……」


 先程の声音(こわね)とは違って低く響く。止まるべきではないと思ったが、好奇心が勝ったのか、俺は立ち止まって振り向いてしまった。


 目の前には無数の岩が重力に反して浮き上がって俺を狙っていた。鋭く尖る先端が明らかに俺一点に絞られている。これは、振り向いた方が良かったな。状況が分かったとしてもどうすればいいんだ?前に続いてるこの細い道を通って逃げるしかなさそうだな。


 そういや、さっきの声の主はどこにいるんだ?確かあの岩の方から聞こえた気はするけど……あっ、岩のインパクトが強すぎて気づかなかったがその下には何か黒い点が見える。なんだ、あれは?人か?よく見れば、地面に子供が(うずくま)っているのが分かった。


 その子は黒い装束を(まと)い手を頭に当てて|いるようだ。ただでさえ距離があるのに、黒いフードを深く被って下を向くので顔がよく見えない。代わりにフードから薄いピンクの髪が漏れているのは見える。髪の長さ的に女の子か……さっきの声は、あの子なのか?迷子?それとも……


 そうして見ていると、その子は手を上げて、振り切った。


 ――耳を劈くスピードで岩を飛ばす、って俺の方ーー!アワワと固まっていると俺には当たらず、針の穴を通すようなコントロールで退路に落下した。


 細い道は岩で塞がれて、その横には高い崖があって登れない。当たらなくて良かったが、逃げ道は無くなってしまった。ちょっと待って俺こっちに来てすぐなんだけど……とりあえず、下手に刺激しないようにジッとしておくか。


「こっち来て」


 えっ?今度の声はさっきと違って優しい声音だったが、優しいがゆえの怖さを感じる。しかし、呼ばれたのでここは進むしかない……刺激したらダメだよな。ゆっくりと距離を縮める。俺はいったい何をしてるんだろう。


「走っ……て」


 うっ、走れときたか。仕方なく俺は走る。従うしかないのだ。俺は近づくたびにその子から強い瘴気(しょうき)を感じる。クッ前に進むのもやっとになってきたぞ……なんとか歩みを続けてじわりじわりと距離を詰める。


 後、数メートル……後、少しで着きそうだ。俺は手で周りの紫の霧を払って少しずつ進み続ける。ようやく到着間近という時にその子は手をこちらに伸ばしてきて、俺の左手を掴んだ。


「えっ?」


 えっと……どういう状況なんだ?強制的に俺の右手はその子に奪われて、手の甲を握られた。ピクリとも動けないまま、何をするのだろうと眺めていると甲がピカッと赤く光った。


「イタッ! アツイアツイーー!」


 俺の悲痛な叫びを完全に無視してただただ俺の手に何かをする。熱さは痛みからのなのか、温度的になのかよく分からない。しばらく痛みに耐えていると、ようやく終わったのか手を離してくれた。「いきなり何をしてくるんだ!」と、文句を言いたいところだがその言葉はグッと呑み込む。


 手を見ると、小さな刻印が入っている。どういう原理なのかは分からないが、黒の文字や模様が刻まれている。文字が入っているが、読めそうにない。はっきり言って謎であり、見覚えも思い当たる節もない。なぜ、こんなことをされたか?この文字の意味とは?全てが分からない。


 あーもう、あまり考えるのも面倒くさいのでやめよう。この子の手にも同じ傷があるのか?実際に確認してみると、同じ形のものがあった。俺は手の甲に、この子には手の平にある。丁度触れてた場所同士。まだ小さな刻印で良かったものの大きかったら目立っていただろう。銭湯とか入れなくなってしまう……


 まあ、謎の刻印を押されてしまったことに戸惑いがあるが、とりあえずこの子の名前を聞いておくか。


「きっ君は誰なんだ?」


「私の名は……アロ……だった」


「……だった?」


 じゃあ今はいったい?いや、聞き間違いなのかもしれない。でも……思案しているとその子は更に言葉を重ねてこう言う。


「あなた達に責任があることを忘れないで……もう()められない」


 どういうことなんだ?何の話だ?だいたいこんなところで何してるんだ?


「えっ? あっちょっ」


 パキッ


 地面が割れ始めた。


「こっここは危ないよ」


「大丈夫」


 速く逃げないと、その子を連れていこうとするが。その子は助けをまるで拒むように転がる。


「おいっ!」


 俺の叫び声も虚しくその子は割れ目へと落ちていった。

 一言をその場に残して……


「私を救ってね」


 ……突然の流れで何が何なのかさっぱり分からないが、速く逃げないと俺まで死んでしまう。その子が無事であることを祈ってここを立ち去るとしよう。


 といっても、さっき道は岩で塞がれたからな。どこか違う道が……


「わぁぁぁぁ」


 とうとう、足元の地面が崩れてしまった。俺は滑り落ちながら横目で掴めそうなものを探す。あれだ!この淵は掴めそうだ。なんとか片手でその崖の淵を掴み落下を免れる。両手で持ち直し安堵の息を漏らす。下を見ると鋭く尖った岩が俺に向かって伸びていた。危ないところだった。


 しかし、日頃から運動もしていないこの鈍った四肢を動かして登れるのだろうか?足で崖を蹴って勢いをつけ、体を上げようとするが……


「うぬぬぬ」


 答えはNOみたいだ。全く上がれそうにない。そればかりか、ジッとしてるだけでも長くは持ちそうにない。

 もし、このまま…………それは嫌だな。


 あっ自分の持ってる岩にヒビが入り始めた。なぜこうも不運が続くのだ?やめてくれー!文句を言おうも言うことは聞いてくれず無情にもだんだんと岩が傾き始めた。


 今回こそは俺の人生は本当に終わったなー。だから行きたくなかったんだよ。まあ、死んだところで誰も気づかず悲しまないだろうけど。レノがいるか……でも、もういっそ落ちてしまった方が楽かもしれないな。


 このまま無事でもみんなに笑われて馬鹿にされるだけなんだからな。存在意義がないよな、俺は落ちたほうが良いのかもな。


 とうとう重みに耐えかねた岩が落下して俺も滑り落ちる。


 俺は死を恐れて目を瞑る。最期の瞬間はやはり恐ろしい。






 ……あれ?いつまでたっても何も起きないぞ。もう、地獄についたのだろうか?恐る恐る目を開ける。


 手!


 手が、知らない手が自分と……知らない人が俺の手を握って助けてくれていたのだろう。まだ、俺に死は早いみたいだ。そうなんだ……


 うん?視線を手から顔に移すと金髪の長い髪を携えた……あ、この人俺の苦手な女性じゃないか!しかも手を握られて……違う意味で死にそうだ。一刻も早く登って手を離さねば、その思いのおかげで登れなかった崖を俺はあっさりと登る。ゆっくりとしたいところだが。とりあえず、感謝しておかないと、


「あっありがとう」


「なーに、気にするな。お前はレンだな?」


 そう言って笑顔で話しかけてくれるが、この人を俺は知らないのだが……改めて見てみる。その人は金髪の髪がカールして肩にかかっていて、比較的動きやすい服装をしている。が、その服装は高そうなものが付いているので高貴な方なのだろう。目が黄色だからこの世界の人の高貴な方のはず。

 もっとへりくだって聞く必要があるな。


「ごっご機嫌うっうるわしゅう」


 と、俺は頭を下げる。自分でも何を言ってるかよく分からない、非常に不安定な精神状態だ。さっきは二回も死にかけて、今度は女性で高貴な方が目の前にいるとは。


「ハハハ、遠慮するな」


 そう言って俺の肩をバシバシと叩く。優しい方で良かった。少し安心する。


「確かに私はここらの偉いさんだが、君のことは優遇しなくてはならない。むしろ、こちらが頭を下げるべきだ」


「そっそうなんですか……あっ頭をあげて下さい」


 偉いさんだったことは間違いなかったのか……そういえば、俺は一応調律者としてこの世界に来ているのだったな。こちらの世界ではありがたれるみたいだ。


「なっ何で名前とかしっ知ってるんですか?」


「ソレラ達から聞いたからね、二人とも心配してたよ〜それもまるであなたの彼女のように」


「そうなんですか……」


 やっぱり心配させてたか。迷惑かけていたか……って、


「なっ何言ってるんですか!」


「アハハ、今気づいたか。まあ良いではないか、早く会ってやれ」


 からかわれてしまった。純粋な男子中学生にこの人はよくもそんなことを……そもそもこの世界には中学生という制度がないかもしれないな。なんにせよ、焦ってしまったではないか。もし、ソレラが少しでもそう思ってくれているのならそれは嬉しいけどさ。


 俺はあれこれ考えながら黙ってその人に付いていくことにした。それに、今の俺には考える力はなかった。




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