もう一つの世界という本物の世界に行かされる説
ちょっと待ってはくれないか?今、思考停止中だから……あっ、えと、ん?……そうだ、冗談だな?きっとそうだろう!世界で一人とか、な?
「冗談はやめろよ、マジにしてしまうだろ」
俺はハハハと笑って冗談に応える。いやー、ボケがいたらツッコミがいないとなー。
「何度も言いたくない、レンは調律者」
いやいやまさか、まだ冗談を言ってるんだな。ここはもう少しのってやらないと。やっぱりノリって大事な気もするし。
「どっどこに根拠があるんだ」
「ある文献書いてた名前の記号が似てる」
記号?あー、漢字ね。それが似ていると言いたいのか。まあそういう時もね、あると思う。けど、
「おっ俺じゃないと思うぞ」
「いえ、レン触れた時微かに何か感じたの、懐かしい何か」
「うーん」
割とマジなのか?これは、冗談じゃないのか?懐かしいって初見だと思うんだけどなー。てか、触れただけで分かるとは天才か!
「はっ初めて会ったのってさっ最近だよな?」
「そう…………なの?」
「えっ、おっ俺に聞かれても……」
「そう」
うん?そう頷いて謎に納得されてもですね……とりあえず、俺が調律者だって所は理解せねば話は進まない気がする。仮にそうだとしても、調律者って何するの?
「そっそれで、なっ何をするんだ? 調律者って?」
ソレラは質問には答えてくれずに端的に答える。
「こっちの世界に来て」
強引に来てって言われても見ず知らずの所に行くのはちょっと……憚られるなー。謎の職業?か知らないけど調律者とか言われても説明なしにはいけないな……何をするのかも分からないのに。それに今は親のことも少し心配だし、妹のレノもいるし。だいたい、そんな話信じられるか?
ソレラには悪いけど、
ここは……
「ごっごめん、断る。色んな理由でそれは無理だ」
「えーー!」
意外にもそう驚きの声をあげたのはレノだった。それと相反してソレラは一切表情を変えない。俺の言動を予測していたのだろうか?
「私や学校のことなら心配いらないよ、大丈夫! あたしも行くから」
レノは心配するなとウインクしてみせる。お前も行くのかよ、それはそれで問題なのだが……
「でも、それだけじゃ……」
「親のこともあっちの世界で手掛かりが見つかるよ〜」
俺の心配事が良く分かったな、流石妹だ!だけれど、あっちの世界、つまり、本物で見つかるのか?
「そんな訳ないだろう、根拠はあるのか?」
「それはないけど……」
「それなら無理だ」
根拠がないのなら行くことはできないな。もし、アニメや漫画の通りならすぐ行くぞっていう展開なのかもしれない。あんまり知らないけどさ。いざ、実際に起こるとやはり自分の命がかわいいもんで行くなんて返答は簡単にはできない。だいたい滅ぶ危機に瀕してるんだろそんなところには行きたくありません。
校長がいきなり立ち上がった。どうかしたのか?俺を説得しようとするのなら諦めてくれ。
「これを見たまえ」
そう言って紙を一枚差し出す。
「なんだ? ただの入部届けじゃないか」
どんな紙かと思えばびっくりさせないでくれ。退学の書類かと思ってしまったじゃないか。ヒヤッとさせないでくれ。
「それがどうかしたのか」
「ここだ、ここ!」
この部に入ったものは校長と部長のいかなる命令も従うこと!
いやはや、驚いた断る権利すら俺にはないのか……いかなるって酷いな!まあ、それはいいとしてサインしてしまったのだったな。過去の自分を悔いるしかない。騙された。
「嫌なんですが……」
「大丈夫だ! 定期的に帰って来てもらっていい」
定期的にか……でも、嫌だな。
「そういう問題じゃないのですが……」
「そうか分かった、では、進学取り消しの書類を取ってこようか」
「え……?」
あー、姑息な手段を……仕方ない、か。これは承諾しか道はなさそうだ。俺は深く嘆息し、やれやれということで了承することにした。
「分かりましたよ、やりますよ……少しだけですが」
多分だけど、俺が世界で一人の存在なら圧倒的な力で敵をバンバン薙ぎ倒せるだろう。学校居ても暇なだけだし……多分大丈夫だな、死なないよな?
「そうか、手間が省けるな」
本当に進学取り消しはやめて下さい。苦労して出した願書なのに。願書は……
「あっ、もしかして願書の右上にあったあのマークはもしや……」
「いい所に気づいたな、こちらの住人でないという隠語というかそういうものなのだよ」
「そうなんですか」
やっぱりあのマーク怪しいと思った。こういった方向のものだとは思いもよらなかったことだけど。
「では、気を取り直して最初の任務を与える」
なんだ?いきなり。さっそく活動か?怠いなぁ。
「それは……わしのメガネを探してくることだ!」
「え……?
メガネ?えっと……見間違いじゃないよね?明らかに校長の鼻の上にはメガネがある。まさかかけてることに気づいてないのか!いやっそれはないだろ、でも一応聞いておいた方が、
「いやっ、かけてますよね?」
かけているのに、探してこいとは……というか、最近、意味の分からん事を言うやつが多すぎる。もう一つ世界があるとか、なんとかとか。
「あのなぁ、レン君よ」
「はい、校長?」
「これは予備の 茶色 のメガネだ! 前の黒ではない!」
校長は茶色という言葉をしっかりと強調して伝えてくる。いやいや茶色も黒色もあまり変わらないと思うのだが……遠くから見て見分けのつく人いる?
というより、メガネのために命を危険に晒すのか?それはちょっとないなー。どこの勇者とか冒険者がメガネのために異世界に行くんだ?
もし、俺が調律者となり有名になった暁には「この天上 孿という調律者はメガネから冒険が始まったぞ〜」なんて後世に伝えられることになる。恥ずかしいたらありゃしない。ただし、今そんな道理を校長に説いたところで意味がなさそうなのでやめざるを得ないが……。
「返事はまだかね?」
「わっかりました〜」
「分かった」
なんで、二人はそんなに返事が早いんだ?後世にメガネで始まった冒険者!とか言われたいのか?本当によく分からん、いっそネタであってほしい。
「仕方ない……いきますよ」
三人はようやく納得してくれたかと安堵の顔を浮かべる。そんな安心されてもな、はぁー面倒くせぇ。
「おぉ良かった、では三人とも頑張れよ!」
えっ?他人事みたいに言って、まさか校長は行かないのか?完全なる人任せじゃねえかよ。
「やった〜〜! 旅行だ〜」
あー、さっそく元気なのが一人いる。テンション上げ上げで元気に溢れているし。なんでそんな喜べるのか本当に教えてくれ!
それに、死ぬかもしれない未知のところにいくのだし、間違っても旅行ではないだろ。もう少し緊張感というか恐怖を多少は持ってほしいのだが、
「レノ! 下手したら死ぬ、だから気をつけて」
「うん、任っせろ〜!」
駄目だコイツ、全然分かってないな、任せてなどはおけない。この調子ではこいつに頼ることは危険そうだな。
「ちゃんとやってくれよ」
「大丈夫だよお兄ちゃん!」
そんな嬉しそうに言われてもな。ソレラは校長に向き合う。
「校長、例の場所へ」
校長はうむと頷く。いよいよ本物に行くのか、
「説明するより、行った方が分かるだろ、色々と。あと、丸山で構わん」
丸山って言うんだ、初耳だな。いつも手紙はきちんと親には渡しているが、見たことはない。別段気になることは書いてないしな。校長は鍵のかかった部屋を開けて、暗がりた階段を降りていく。おっと、俺もついていかないと。あまり使われてないのだろうか?地下室独特の陰湿な空気が充満している。……左を向くと扉があった。どういうことか聞いてみる。
「丸山さん、どういうことですか?」
「丸山と呼ぶな! お前は校長だ!」
「なっ……」
言い返すと昨日の二の舞にしかならないので辞めておく。まったく、恐ろしい。だいたい呼び方なんて校長でも丸山でもなんだっていいんだが、退学さえならなければ。俺は気を取り直して聞きたかったことを訊く。
「校長、この先に?」
この少し古びれた扉の先に世界が繋がっているのか?もっと魔法や魔法的なもので移動すると思っていたのに……
「そうだ! 出入りする場所固定されている。であるからにして、ここを毎回通ってもらうからな」
「は……はぁー」
つまりは校長に俺らの同行を監視されるようなものではないか!まあ顧問だし、生徒管理は大切か。無理矢理で行かされるけど、魔法が沢山存在する世界に行けることに多少の楽しみは感じるな。スーハーと大きく深呼吸して校長に言う。
「行ってきます」
決意新たにさあ行くぞ、俺はそう心に呟いてからゆっくりとドアを開ける。
……おやっドアを開けただけでは転送はされないのか。今の決意が空回りしてしまった。本物の世界の光景ではなくて、ただ黒や紫の渦巻きやモヤモヤがあるだけだ。うーん、こんな色合いだと行く気が失せてきたな。やめとこうかなと足を一歩引く。
「お前はいつも遅い、早く行け!」
「うわぁぁぁっと、っとーー」
校長は怒ったようで俺の背中を思いっきり押して心の準備なしにもう一つの世界に送り込んだ。
ーーーー
そうだ、こんな感じで本物の世界での旅行?冒険?が始まったのだったな。カタッと物を机に置く音が響く。そういや、始業式が始まって二日目でいきなり異世界に行くことになったんだ。少しゆっくりしてから続きをするか。コーヒーでも煎れて飲むとしよう。確か一言目に発する言葉は「ぐはっ」だったはずだ。
――――
「ぐはっ」
本物の世界で一言目に発する言葉はこれか……俺は地面に打ち付けられつつ到着したようだ。想像していた晴れ渡る空とは打って変わって闇に覆われている。暗い雰囲気に溢れる荒野にはいくつかの枯れ木が一生懸命根っこを伸ばして生きている。オアシス的要素は今のところ見当たらないばかりかあちこちから紫の煙が流れてくる。どこから来てるんだろう?いやー見るからにここで生きていくのは楽ではないだろう。むしろ危険すら感じる。
いやっこんな話聞いていないぞ。俺は死にたくないぞー!さっそく文句を言ってやろうと二人を探すが、姿はなかった……いやっ待って。知らない土地に置いてかないでくれる?
「ソレラーー! レノーー!」