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偽界説  作者: ひうか
現実世界
10/20

知らないことが多すぎる説

 更新中 


 そうなんだ、友達はできたんだね。


「ちょちょっと待て、レノ、朝、母さんを見なかったか?」


 俺は手でソレラに待ってくれと合図を送り、レノに尋ねる。レノは突然の質問に戸惑っていたが、こう答えた。


「どっどうしたの?」


 誰からも話を聞いてないのか?知ってると思ったんだけどなぁ。


「なんか研究室に来てないみたいだぞ」


「あっ、そうなんだ」


 レノは頭をかきながらそう言った。そうなんだじゃないんだけど、一応確かめてみる。


「知らないってことか?」


 頷いてソッポを向く。そんな怪しげな態度に俺は質問を重ねる。


「レノ! 何か隠しているのか?」


「いやっ、なにも……」


「レノ?」


 レノは違う方向を見たままそう答える。語尾が少しかすれて聞こえない。何なんだ?なぜそんな態度をとるのか分からない。


「レンっ!」


 ソレラは俺を止めようとするが、俺は立ち上がり質問を続ける。


「お前は何も教えてくれないのか?」


 分からないぞ。全く何も、内容も理由も。


「そういうわけじゃ……」


「なら……」


 レノはソレラにもたれかかって泣く。俺はこうなることを分かっていた。分かっていた、けど、聞いておきたかった。また同じ繰り返し。デジャブのように俺は問い、レノは泣く。


「また、泣いて誤魔化すのかよ」


「だっ、だって……」


 レノは言いかけた言葉を飲み込む。泣いて誤魔化して俺に秘密にするのはやめてくれ。多分、その秘密は俺に関係していて、知るべき内容だと思うから。どんな内容でもいい、悲しい内容でもいいから本当のことを教えてくれないか?


 ……なんて、そんな思いは多分というか、俺のこのやり取りではこの思いは伝わってないだろうな。でも、レノに分かって欲しい。


 どうしようもない、俺はカバンを持って部屋を飛び出る。


「待って!」


 ソレラの声が聞こえたが、俺は気にせずその場を走り去った。徐々に俺を呼ぶ声も小さくなっていった。



 ―――――



 俺は家には帰らず近くの公園のベンチに座る。ここに来るまでグルリグルリと遠回りと寄り道をした。家に帰る気分じゃなかったから。今もそうだからここにいる。


「最低だな……」


 フーッと息を吐くと白い息が出て空気中に消えていく。ビューとした風を切る音が寒さを助長する。手を膝の下に置いて温めて少しでも表面積を減らしてみる。周囲は冬ということもあってとっくに暗くなっており、木の葉の揺れる音も相まってなんだか不気味な感じだ。けど、スポットライトのような街灯に照らされているこの空間は安心できる。


 そんなベンチに座りながら色々考えた。もちろん部活のことも含めて朝のこと、会った時のこと、色々と。レノを泣かしてしまったことを後悔はしていない……といえば、嘘になるかもしれないがあそこで聞いときたかったことだし、仲間外れというか、そんなふうに感じた。それに、レノの嘘泣きとはいつか折り合いをつけるべきなのかもな。


 俺の主観でしかないが、やはりレノに何かあったような気がする。ソレラが来てからなんだかおかしい。全てを偶然と語ることは思考放棄ってもんだろう。俺に不思議と優しいソレラ、校長顧問の謎の部活、レノの不可解な反応、なんらかの関係性があるはずだ。それに、何か嫌な予感も……いやっそれは、ただの杞憂かもしれない。


 ――パキッ、乾いた小枝の折れるような音が聞こえた。自分で踏んだのかと足元を見るが何もない。てことは周りに誰かいるのか?目を凝らして周囲を見るが暗くてよく見えない。この街灯があるせいで余計に。一見安心感を与える明るさも俺から見れば周りは見づらく、側から見れば強調されて俺が映るだろう。そう考えれば、俺に対して何者かの視線が向かないはずがない。


「ソレラか? レノか?」


「……うわぁ!!」


 突然、襟を右へと引っ張られた。思いもよらぬ出来事で俺は倒れる。いきなり何するんだ?という怒りよりも何が起こったのかすら分からない。感じるのは映画でよく見る『危なかったぜ!』なんて引っ張り方だ。さっきまで自分がいた所を見る。そこには30cm程度の鋭い巨骨が地面に深く突き刺さっていた。もし当たっていたら即死レベルのやばいやつだ。何故こうなったのか見当もつかないが、助けられたことは間違いない。右を見るとそこにはソレラがいた。


「なっなんで?」


 ソレラは背を低くして周囲を見渡しながらこう言った。


「また後で」


 ソレラは立ち上がって今度は右手を前に突き出し目を瞑っている。俺は邪魔にならないようにベンチの陰に隠れておく。何か気配を感じるのだろうか?何かに気づいたようにピタリと動きを止めた。クルリと後ろにターンして両手を突き出した。俺が見えたと思った瞬間、敵はもう目の前に迫っていた。


「ーーディメンションアイソレーション」


 衝突の音が響き渡り、辺りは砂埃が舞った。徐々に露わになる敵は倒れていた。衝撃は凄まじかったのだろう敵のそばにある木がポキリと折れている。俺はあっけに取られてだらしなく口が開く。魔法なのか?単に盾で防いだというよりかは、空間を歪ませたような、衝突という事象を一つ上から傍観するような……不思議な感じがした。


 敵はゆっくりと闘志を燃やして体を起こした。敵の大きさは3mを超える骨の恐竜みたいな、それ以上に牙や角が目立つ異形さだった。そいつは主に四足歩行での突進を繰り返し、頭にある二本の巨骨で敵を殺傷するのが戦い方なのだろう。


 敵は後ろに下がって距離を取る。ソレラは一歩も動かずにじっとして敵を見据えている。敵は口から鋭い骨を出して遠距離攻撃を加えるが結界の前に(はばか)られる。鋭い骨を出すといっても、時速100キロメートルはゆうに超えているだろう。


「勝てるのか?」


「次元が違うから」


 そうなんですか。ソレラはそう言って左手で結界を作ったままもう一方の手を後ろに引いた。右手付近の景色が陽炎みたく揺らいだ。


「ディメンションカット」


 そう叫んで放った魔法は敵を断ち切った。敵の断末魔すらも響き渡ることは無く。


 ……あれ、敵はどこに?折れた木々に荒れた地面、奴は確かにここにいたはずだ。まさか仕留め損なったのか?……それはないかあれほどの巨体逃げることも難しいだろうし、誰かが、なんなら俺が気づくはずだ。目の前で魔法は奴を斬ったのだから。とにかくソレラがうまくやってくれたのは間違いないだろう。死んだら消滅するような仕組みなのかもしれない。命は助かった。感謝しないといけないな。俺は立ち上がってソレラの方に歩み寄る。


「あっありがとな」


「いえ、当然」


 当然とソレラは言うけれど、来てくれなかったら本当に俺の人生は終わっていた。感謝しかない。俺は地面に横たわる敵の亡骸を指差して、


「あっあれはなっ何なんだ?」


「私達狙った敵、この世界ではないもの」


 敵だったのか、本気で俺の命を奪いにきていたのか……あんな化け物俺には太刀打ちできない。ソレラが来てくれて良かった。


「ないって……?」


 いきなり、そう説明されても納得がいかないのだが、どういうことだ?


「このこと放課後話そう思った、けどレン帰った……」


 ソレラは振り向きかえりそう返答する。ソレラの青い花型の髪留めはどこかに飛んでいっていた。髪が風でなびく少女の姿はいつもの拍子抜けた雰囲気とは違っていた。


「ごっ……ごめん」


 美しすぎるその姿は俺の目には眩しくてまともに顔を見れない。俺は公園のブランコの方に視線をやる。


「だっ誰かにみっ見られない?」


「感知はされてない、それに、見えない」


「そっそうなんだ……」


「あっあの、れっレノは?」


 レノは無事なのだろうか?俺が狙われたということはレノの命は……無事だよな?


「大丈夫、見てもらってる」


 見てもらっているのか、なら安心だ。そっと胸を撫で下ろす。たとえどんな秘密を俺に隠していようと喧嘩したとしても心配だ。それに喧嘩できるほど仲の良い人なんて他にいないしな。


 ソレラは地面に落ちた髪留めを拾って言う。


「校長室戻ろう」


 困惑して固まる俺をソレラは手を引っ張って走ろうとするが俺は踏ん張る。


「えっ? 今の時間分かってるのか?」


 多分っていうか、今学校開いてないないぞ。侵入したら警報なるだろうし。それを分かって、


「知ってる」


「ならっ……」


 ソレラは俺の言葉を遮るように言う。


「レノ会わないの?」


 会わないの?って、もちろん会ってしっかり話がしたい。この世界ともう一つの世界についても知っておきたい。知らないわけにはいかないと思う。既にもう巻き込まれているわけだし、ここで逃げても意味ないよな……心を決めよう。


「ごめん、行こう」


 俺は校長室に戻るためソレラについていった。

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