新たなフラグ・・・・?
イチの登場により、暗雲が立ち込めていた合宿の雰囲気は明るさを取り戻しつつあった。特に料理のグレードが上がったことで、部員たちはより活発になっていく。そんな夕方、焚火の番を任された時子とナタリーはぼんやりと炎を眺めていた。
「・・・まさか、先生に奥さんがいたなんてね・・・。」
「・・・先輩、その話、もう5回目です・・・。」
「・・・・・あんまりにも衝撃的でね・・・。」
「先輩、もしかして、先生のこと好きだったんですか?」
「それはないわー。」
「ですよねー。」
「小田原先生って、結婚できそうにないタイプだなーって思ってたから。」
「あー・・・。なんかわかります・・・・。」
「でしょー?」
失礼な会話が途切れると、2人の前方に重たそうな女子1人では重たそうな段ボールを抱えたサヨが通りがかった。
「・・・・ちょっと、手伝った方がよさそうね・・・。ナタリー、焚火頼んだわね。」
時子はサヨの元へと走っていく。その様子をやはりぼんやりと眺めていたナタリーの隣に1つの影が現れる。
「・・・隣、いいかしら?」
「・・・・どうぞ。」
そうつぶやくナタリーの隣にアリアは腰かけた。
「ちょっと、話をしたくてね?」
「そう、ですか。」
「・・・別に怖がることはないって、言っても無理な話なんでしょうけど・・・少しぐらい、そうね・・・私の話が終わるまでは、信じてほしいのだけど。」
「・・・・怖いとか、思ってないです。」
ナタリーは手をぎゅっと握った。その姿はどこか無理をしているようにアリアには映る。
「できるだけ、手短に話すわね。」
「・・・・。」
「あんたは何も悪くないわよ。」
「・・・なんの、話ですか・・・。」
「私を呼んだこと。サヨが自分のせいで犠牲になったと思ってるでしょ。」
「・・・言い出したのも、本を手に入れたのも私ですから・・・・。」
「儀式ってのは、ただ道を作ることでしかないのよ。」
「え?」
「ただの通り道。扉を開いて、その道をたどるかどうかは、呼ばれたものの自由なの。」
「・・・あなたが、答えなかった可能性もあるってことですか?」
「その通りよ。」
「・・・・・。」
ナタリーは少し悩んでいた。自分のしたことでサヨに迷惑をかけてしまったと、思っていた。これでは、自分が悪いのか、わからなくなってしまう。しかし、サヨたちに声をかけたのは自分だ。その事実は変えようがない。
「・・・ごめんなさいね。」
「・・・。」
謝らないでほしい。アリアを見つめるナタリーの目はそう訴えていた。
「言いたいのは、それだけよ。」
立ち去ろうとするアリアにナタリーは問いかける。
「どうして、召喚されたんですか?」
「・・・さあ、なんか寝てるのも飽きちゃったのよ。」
背中越しに手を振り、アリアは去って行った。焚火がぱちぱちと音を立てる。残されたナタリーにやるせなさだけがのしかかってきた。
「なーちゃん。」
「・・・サヨ先輩。」
見上げた先にはよく知っている顔があった。私に笑いかけるのはどうしてなんだろう。あの日から少しだけ怖かった笑顔。いつも私が振り回してしまっている顔。それでも、先輩はいつも笑ってくれる。
「なーちゃん?どうしたの?」
隣に座ったサヨにナタリーは抱きついた。
「・・・。」
「?なんかあった?」
「・・・先輩は・・・。」
「ん?」
珍しくまじめな顔で、思いをぶつける。大きな声で。
「先輩は、私のことどう思ってますか!!!」
そう、本人に他意はない。ただ、言葉の問題である。
「はい?」
サヨは目をぱちくりさせる。
「どうなんですか!」
「え、えっと、ちょっと待ってね・・・!い、いきなり言われても、あの・・・・!」
ナタリーはサヨが照れている理由がわからなかった。ただ、答えを待っている。そこへ、飛び込んでくるのはもう1人のトラブルメーカー。
「ちょっとナタリー、そういうのは場所とか時間とか考えた方がいいと思うんだけどー?」
「と、時子先輩・・・!」
「?なんのことですか?」
時子はなぜかにやにやしている。サヨはなぜか顔を真っ赤にしている。
「だってねぇ・・・私のことどう思ってますか・・・って実質告白してるようなものじゃないの。」
「え?え?」
それを聞き、ナタリーの顔は一気に真っ赤になる。
「ちが・・・そういう意味じゃなくて・・・・あの・・・私は・・・・。」
「そ、そうだよね・・・・あ、えっと、あの・・・。」
なんとも言えない空気が2人の間に流れる。
「あらー、違ったの?私はてっきり、いつの間にか2人がそういう関係になってたのかと。」
「なななな・・・・なんですか・・・!そういう関係って!」
「説明しましょうか?」
「いりません!」
「時子先輩っ、あ、あんまり、なーちゃんをいじめちゃだめですよぉ・・・・。」
「サヨも顔真っ赤じゃない。もしかしてまんざらでもなかったり?」
「ど、どうしてそうなるんですか・・・!」
「もー!時子先輩の夕飯わさび仕込んでやるーーー!!!」
たまらずナタリーは逃げ出す。
「あ、置いてかないで、なーちゃんっ!」
なぜか追いかけてしまうサヨ。
「逃げたわねー。それにしても、わさびて・・・・。」
嵐が去り、時子は焚火の前に腰かける。
「マシュマロとかあったかしら・・・?」
一方、逃げ出した2人は、山の中へ入っていた。
「はあ・・・・。」
「な、なーちゃん、元気だして・・・。」
「違うんですよぉ・・・そういう意味じゃないんですよぉ・・・・。」
「う、うん、わかったから・・・ね?」
半泣き状態のナタリーの背中をさすりながら、サヨは走ってきた道を戻っていた。
「あの、このタイミングでいうことじゃないのかもしれないんだけど、私、なーちゃんのこと・・・。」
「・・・え?」
「妹見たいだなって思ってるよ。」
いつもと同じはずの笑顔。なぜか今は少し意地悪に、ナタリーは感じた。