つながらない・・・・?
※ホラー要素注意!
合宿の楽しい雰囲気は小田原が熱で倒れたことで暗い影が差し始めていた。
「先生、大丈夫でしょうか・・・。」
「学校では病欠どころか、風邪をひいているところすら見ないもんね。」
「みんな、そろそろミーティング始めるわよ!」
「楽しみですねぇ・・・うふふ・・・。」
1、2年生が心配する中、3年生の時子とメムはいつもの調子で活動を始める。
「とにかく私たちだけでも活動しないと。せっかくの合宿だもの。」
とはいえ、オカルト同好会の活動は夜になってからが本番、昼間はミーティングだけすることになる。ミーティングをしている間、部員が交代で小田原の看病をし、夜にはアリアに任せて、夜の山小屋を探検するということになった。朝食の時間に小田原を看に行って戻らなかったアリアは時子に首根っこをつかまれたままうつらうつらとしていた。
「夜になったら、ちゃんと先生の看病お願いね?・・・・聞いてるのかしら?」
「きーこーえーてーまーすー・・・。じゃあ、昼間は寝てても大丈夫よね・・・?」
「かまわないけど。」
時子はアリアを離した。体を引きずるように女子部屋へと帰っていく。
「私とメム先輩で先生の様子看てきますね。」
「いってきまーすー。」
残った部員は少し広めの部屋へ移動した。
「それじゃあ、それぞれ調べてきた噂について報告会といきましょうか!まずは・・・・。」
山小屋にまつわる噂は多種多様であった。真夜中の廊下を移動する少女の霊から物置部屋の骸骨の話までよりどりみどりである。
「どの噂を調査しましょうか!」
「そうですね・・・。」
「廊下の少女の霊なら、もしかしたら撮れるかも?」
「物置部屋の骸骨って興味深いですね!」
「魔界に続いている踊り場とか・・・鉄板だけど面白そう・・・。」
オカルト同好会ならではの盛り上がりを見せる面々だったがいざ、夜、その場を調査するとなると足がすくむ者も出てきた。
「えーっと・・・ちょっと・・・こ、怖いですね・・・。」
ナタリーにがっしりと腕をつかまれ、サヨは身動きが取れない状態だった。その様子を見ていた時子が呆れたように言う。
「もー、怖い話好きなのに怖がりなんだからー!」
時子、サヨ、ナタリーの3人は山小屋にたった一つだけ置いてある黒電話の部屋にいた。部屋の隅っこにぽつんと置かれた黒電話は見てるだけなら安心できる。現在夜の12時、その暗ささえなければ、黒電話に対して恐怖を抱くことはないだろう。
「黒電話がこんなに怖いだなんて・・・。家の電話全部白で統一されててよかったです・・・。」
「普通は電話なんて1台あれば十分のはずなんだけど・・・。」
「あの、この部屋に出てくる霊って・・・。」
「話してなかったっけ?せっかくだし、1から聞かせてあげるわ・・・。」
「ひっ・・・。」
時子は語り始めた。この部屋にまつわる怖い話を・・・。
ある女性が、1人でピクニックでこの山を登っていた。だいぶ登ってきたところで女性は一休みしようと岩に腰かけていた。すると、どこからか悲鳴が聞こえてくる。誰か崖から落ちたのだろうか。不安になった女性は悲鳴の聞こえてきたほうへ様子を見に行った。助けが必要なら手を貸さなければと思い、近づく。幸いまだ声は聞こえてくる。崖から落ちたわけではなさそうだ。安心したのもつかの間、女性の目に2つの人影が映る。喧嘩でもしているのだろうか。とっさに近くの木の陰に隠れて様子を見る。女性は目を見張った。男が女の上にまたがっている。その手には何か握られていた。男がそれを振り下ろすと女は小さくうめいて、動かなくなる。男はさらに腕を振り下ろした。グサ、グサ・・・男の手にはナイフが握られていたのだ。あまりの光景に女性はその場から逃げようと足を後ろにやった。その時。バキッ・・・・。足元に木の枝が落ちていたのだ。女性はあわてて顔を上げた。男と目が合う。すぐに逃げなければ・・・殺される。女性は走り出した。後ろで男が女性にとびかかろうとして、転んでいた。もつれそうになる足をなんとか動かし、女性は走った。どこでもいいから、隠れる場所は・・・。必死に見渡してみるが何もない。男の足音が聞こえてくる。山の奥まで来て女性は山小屋を発見した。これ幸いにと山小屋へと逃げ込み、近くの部屋へ隠れた。部屋の中に大きなソファを見つけた女性はその影へ身を潜める。もう足が限界だった。手も震えている。女性はポケットからケータイを取り出した。助けを呼ばなきゃ・・・・。そう思った女性は画面を見て絶望する。圏外と表示されていたのだ。男に見つからずに山を下りるしかない。女性の頭に不穏な単語がよぎる。追い打ちをかけるように山小屋の扉が開く音がした。見つかったら助からない。女性は必死に息を殺した。足音が響いてくる。近づいてきた足音が少し遠ざかった。扉の開閉音がするたび、女性は心臓がつぶれそうなほどの恐怖に見舞われた。やがて、山小屋の入り口が開く音がした。女性は安堵する。ほっとして顔を上げた先に、黒電話があった。備え付けのものならば通じるかもしれない。女性は思わず黒電話に飛びついた。ダイアルを回す。1・・・1・・・0・・・・。ジジジジジジジジ・・・・。ダイアルの回る音だけが響く。受話器の冷たさなど忘れるほどに女性の顔は青ざめていく。受話器の向こうからはなにも聞こえてこない。さらなる絶望が女性を襲う。―――電話が通じない。パニックになった女性は再度ダイアルに手をかけた。ジジジジジジジジジ・・・・。しかし、電話が鳴ることはなかった。どうして通じないの。女性はなおもダイアルを回す。その後ろで男の声が静かに告げた。電話線、切ってあるから・・・。それ以来女性は山から帰ってくることはなかった。
「そして、山小屋では血塗れの女性の霊が目撃されるようになった・・・。その霊に近づくと、かならずこう言うんだって・・・・。」
時子は懐中電灯で顔をしたから照らしながら、演技たっぷりに言い放った。
「どうしてつながらないのっ!!!」
「ひゃあああああ・・・・!」
悲鳴を上げたナタリーはサヨの腕なしでは精神が持たなかっただろう。その反応に時子は満足そうに明かりを消した。
「でも、本当に現れるんでしょうか?」
「出てほしくないですー・・・・。」
「サヨはあんまりこういう話怖がらないわよね?」
「そうですね・・・小さい頃から両親とホラー映画を見ていたからでしょうか。どちらかというと、楽しくなっちゃうんです。あんまりよくないんだとおもうんですけど・・・。」
「サヨ先輩は強いです・・・。」
「よしよし・・・。なーちゃんそんなに怖いなら無理しなくていいのに。」
「うぐぅ・・・。」
「それにしても、何も起きないわね?」
時計の針は1時を指そうとしている。
「ちょっと腰が痛くなってきたかも・・・。」
ソファの影で身を潜めていた3人の前には女性など影も形も現れない。
「偽情報だったんでしょうか?」
「どうかしら・・・結構ちゃんとしたサイトだったから本物かと思ったんだけど・・・。」
ナタリーと時子があきらめて立ち上がった瞬間、サヨは確かに目にした。黒電話の前で立ち尽くす女性の後ろ姿を・・・・。