気配・・・・?
「・・・独りぼっちのお人形は、その洋館で今も、自分を捨ててしまった女の子が迎えに来るのを待っているのでした・・・・。」
「お人形の執念がすごいですね・・・。」
オカルト同好会恒例、ドキッ☆女子オンリー夜中の怪談大会でトップバッターを飾った葵は、一息ついた。
「なんだか緊張しますね・・・。話すの得意じゃないから・・・・。」
「そんなことないわよ。1年生の頃のサヨより上手だったわよ?」
時子はサヨの方を見て、ニヤリと笑った。その顔にサヨはドキリとした。
「その、あの時はほとんど初対面でしたし・・・・!ほんとに心臓が飛び出てきそうでした。」
「サヨったら途中で落ちを言っちゃって!」
「うぅ・・・・まさか、自分でもそんな失敗をするなんて思いませんでした・・・・。」
「気にしなくていいんですよ~?サヨちゃんとっても可愛かったですからぁ。」
「メム先輩に言われると尚更突き刺さるものが・・・。」
「メムっておっとりしてるのに、うちの部で一番語りが怖いからね・・・・。」
「うふふふ、嬉しいです~。喜んで頂けてぇ。それじゃあ、私が次、話しましょうか?」
「メムはオオトリでしょ!次はやっぱり、そこでうずうずしてる、ナタリーじゃない?」
「はぅっ!?うずうずなんてしてないですよ!」
「えー?ほんとにー??」
ナタリーは居心地悪そうにもぞもぞした。
「ほ、ほんとですよー!ここはやっぱり、サヨ先輩がお手本を!」
「えっ、私?あんまりお手本にならないと思うけど・・・・。」
「ほらほら、観念しなさい、ナタリー。とっておきの怖い話、してくれるんでしょ?」
「う・・・・。」
ナタリーが話すのを躊躇っていると、扉をノックする音が聞こえてきた。
「?はーい!」
「ぶちょー!大変です!先生が!先生が!」
飛び込んできたのは田乃虎屮だった。慌てているせいか、何を言いたいのかよくわからない。
「とりあえず落ち着いて!先生がどうしたの?」
「はいっ、先生が、倒れて、す、すごい熱で!」
「ええ!?」
「先生が?」
「ひとまず、私が様子を見るわ。メムたちはここにいてね。」
「わかった~。」
時子が虎屮について小田原の様子を見に行ってる間、サヨたちは部屋の中で、静かに待っていた。女子部員が不安を浮かべる中、メムだけはニコニコと笑っていた。
「先生、大丈夫なんでしょうか?」
「多分大丈夫だよぉ。」
「メム先輩は、心配じゃないんですか?」
ナタリーがメムにたずねた。
「うん。だって、先生、合宿の時いつも熱で倒れるから~。」
「はい?」
「いつも?」
「そういえば、去年も倒れてたような・・・・。」
「でしょー?いつも、最終日には元気になってるから、今回も大丈夫だと思うよ~?」
そこへ、
「サヨ~!」
なぜかボロボロになったアリアが部屋に入ってきた。
「あ、アリアさん?なんでそんなにボロボロなんですか?」
「ちょっとね。見たことない植物とかたくさんあって、テンション上がって山の中歩き回ってたらこんなことに・・・・。」
「とりあえず、着替えあるなら、着替えた方がいいですよ。シャワー浴びてきますか?」
「シャワー・・・・・?温泉とかはないの?」
「ないですね。」
「うーん・・・・仕方ないか・・・・・。多分大丈夫よね・・・・多分・・・・・。」
何やらぶつぶつ言いながら、シャワー室へ向かうアリアとすれ違うように時子が戻ってきた。
「時子先輩、先生は大丈夫なんですか?」
「うん。いつもの高熱みたい。薬とか持ってたのを飲んでもらったから、明日には引いてると思う。」
「それはよかったです!」
「あと2日だしね。みんな気を引き締めて過ごすように!」
「はーい!」
「さて、それじゃあ、続きといきましょうか!」
「おー・・・・・お?」
ナタリーの動きが止まる。
「ほらほら、ナタリー、あんたの番よー?」
「わ、わわわ!」
「なーちゃん、頑張って!」
サヨはきょどきょどしているナタリーにエールを送る。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよぉ?」
「そうそう、いつもの感じで話せば大丈夫だよ、ナタリー。」
話を終えた葵に背中を押され、ナタリーは話を始めた。オカルト同好会の夜は長い・・・・・。
翌朝ーーーー。
「起きろー!」
時子の一言で、部員たちは飛び起きた。
「わっ!?」
「なに?火事!?」
「!?!?!?」
「ふぁあー、おはよ~。」
「むにゃ、あと5分・・・・。」
メムとアリアはまったりと起き上がった。
「ふふ、みんなおはよー。さあ、朝ごはん作るわよ!着替えた、着替えた!」
「はーい・・・・。」
「まだ6時・・・・。」
「厳しいなぁ・・・・。」
「むにゃ・・・。」
女子部員が朝食作りをしている間、男子部員の2人は小田原の様子を見ていた。
「なあ、カメラなんか撮れてるかな?」
「・・・さあ。」
「あーあ、もっと台数あればなぁ。」
「・・・・高いからね。」
「そうだよなー。」
「部長たちに言わなくてよかったの?」
「なんか映ってたら、言うかな。」
「そっか。」
虎屮と竜夫が話していると、そこへ、アリアがやって来た。
「入るわよー?」
「はーい?」
「先生の調子は?ご飯食べれそう?」
「寝てるのでわかりませんね。」
「そう。あんたたちはご飯食べてきなさい。私が見てるわ。」
「え、でも・・・・。」
「いいからいいから。私、朝弱くてね。」
2人を追い出し、アリアは小田原の顔を覗き込んだ。青白い顔は赤くなっていた。
「なーんか、変な感じなのよねー。」
手を小田原の顔に近づけると、バチッと電撃のようなものが走った。
「いった!?」
アリアの白い指先が黒く焦げていた。ふーふーと指を冷ます。
「これはかなり強力ね・・・。古い魔法みたい・・・。」
小田原の隣に座りこむと、アリアはうつらうつらと転寝を打ち始めた。
「朝ごはん作るのも大変です・・・。」
ナタリーは飯盒を見張りながら、あくびをしていた。合宿の間は屋外でご飯を作るというルールになっていた。山奥で、もう誰にも使われていないこともあり、電気は通っていない。水は近くの川から引いているので問題はなかった。
「ナタリーは飯盒みてるだけじゃない。葵を見習いなさい。」
見事な手際で野菜を切っている葵を見て、時子が言った。
「ちゃんと、火の調節をしてますよー。」
「もう・・・お嬢様は・・・・。サヨ、そっちは大丈夫?」
「はい、えっと、大丈夫です!」
サヨは少し焦げてしまった目玉焼きを隠しながら、答えた。隣ではメムがきれいに目玉焼きを盛り付けている。
「あわてないで、ゆっくりやればできますよぉ。サヨちゃん、頑張って。」
「うぐ・・・。」
「おお、いい匂い。」
「・・・・うん。」
男子部員2人がやってきた。キャンプ用のスペースには目玉焼きと白いご飯が並んでいた。最後に時子がお味噌汁を運んできて朝食はそろった。
「いただきまーす!」
「お、おいしいです・・・。」
「サヨの目玉焼き、焦げてない?交換しようか?」
「いえ!大丈夫です、ちょっとだけですし・・・!」
「サヨちゃん、お砂糖かけちゃったから、甘―い目玉焼きになっちゃったんだよね~。」
「め、メム先輩・・・・!」
「サヨ先輩、ドジッ子ですねー!」
「飯盒眺めてただけのなーちゃんに言われた・・・!?」
「むー!おかげで白―いご飯が食べられるんですよ!」
ナタリーは頬を膨らませて抗議した。
「飯盒炊飯なら、おこげがつきものだけど・・・。まあ、おいしいのが一番か。」
「あ、葵ちゃん、厳しいです・・・!」
「ご馳走様でした。」
「時子先輩、早いですね。」
「先生たちの分、運ばないとね。」
時子は食べ終わった食器を洗面台に運ぶと、大きめのお盆に2人分の食事を載せて、運んだ。
「手伝うよ~。」
いつの間にか食べ終わっていたメムも、飲み物を持って続いた。
「先生、ほんとに大丈夫なんですかね?」
「毎回熱出してるんですよね?」
「大丈夫、だと思う。」
「でも、先生が治らなかったら帰れないですねえ・・・。」
「あ、そっか・・・。」
「高校生じゃ車の運転はできないしね・・・・。」
「先輩でもまだ免許ないだろうし・・・。」
朝食の時間がどんどん暗くなっていた。
「帰れなかったらどうしましょう?」
「さすがにそれはないと思うけど・・・。」
不安はなぜか、ぬぐえなかった。