フラグ・・・・・?
「ただいまー」
アリアは明るくガラガラと入ってきた。
「あら、アリアちゃん、おかえりなさい。」
「アリアさん、一体どこに行ってたんですか?しばらく帰ってきませんでしたけど・・・・・。」
アリアの手に紙袋が握られているのを見て、サヨは少し不安そうな表情を浮かべた。
「あの、そ、それは・・・・・。」
「ん?あー、これね、ちょっと借りてきたの。昔馴染みがこっちに住んでてね。」
「昔馴染み、ですか・・・・?」
「サヨ、部屋借りるわよ?」
「え、はい。構いませんけど・・・・。」
(アリアさんの、昔馴染み・・・・・。その人って一体何年生きてるんだろう・・・・・?)
「アリアちゃん、いろんなところにお友達がいるのねぇ。羨ましいわ。」
「そ、そうだね。」
「そういえば、合宿の準備はもうバッチリなの?」
「うん。バッチリ。」
「いいわねぇ。お母さんも行きたいなぁ。みんなで怖い話とかするんでしょう?」
「うん。あとは夜中に散策とかしてみようかって」
「楽しそうね。ホラー映画観たりは、しないの?」
「さすがに機材を持っていけないよ。」
「あら、そうなのね。」
この母にしてこの娘あり。親子揃ってホラー大好きなサヨは明日の合宿に向けて、心が踊りまくっていた。
「一応荷物の確認してこようかな。」
「忘れ物しないようにね。」
サヨが自分の部屋へ入ろうと手を伸ばすと中から何やら声が聞こえてきた。おそらくあの2人だろう。何を口論しているのか、サヨは扉を開いた。
「どうしてそうなるのですか!」
「だーかーらー!何回も言ってるじゃない!」
やはり、隙間女とアリアが何やら言い争っている。端から見たらアリアがタンスに向かって怒鳴っているように見えるが。
「あの、どうかしたんですか?」
「マスター!この女狐に言ってやって下さいまし!!」
「な、何を?」
「女狐って何よ!この引きこもり!」
「ちょっと、2人とも落ち着いて下さい!」
「ですが!」
「とりあえず何があったか、説明してください。ね?」
サヨが諭すと隙間女は観念したように説明し出した。
「そこの吸血鬼が、平然と荷物をマスターの鞄に入れていたので気になって訪ねたのでございます。そしたら、あろうことか!合宿についていくと!申したのでございます!!」
「なるほど・・・・・はい?」
「信じられますか?マスターの許可も無しに!マスターの合宿についていくだなんて!しばらく戻らずにお国にでも帰ったのかと思っていたら!!なんなんですの!マスターに何をなさるおつもりですか!!」
「だから!サヨは私の契約者なの!契約者からそうそう離れるわけに行かないんだってば!」
「え、でも、アリアさん、しばらく昔馴染みの家に行ってたんですよね?それは大丈夫なんですか?」
「この町の中ぐらいは平気よ。でも、その合宿?ってやつは町からも離れるんでしょ?あんたか、私を呼び出したあの、ナタリー?とかいう子、どちらかが残ってるなら問題ないんだけど、どっちも離れるとなると、問題なの!」
アリアは手をブンブンしながら訴えた。
「何が問題なんですか?」
「何がって言われると、あれだけど・・・・。とにかく離れられないのよ。」
「どうだか。どうせマスターに近づいてあれやこれややるつもりなんでしょう!破廉恥な!!」
「はれんち?って何よ?なんであんたよくわからない言葉使うわけ?」
「あの、アリアさん、ついてくるのは構わないんですけど・・・・先生や部員たちにはなんと説明すればいいんですか?」
「ま、マスター!?連れていくんですの?」
サヨの返答に隙間女はすっとんきょんな声をあげた。
「そうねぇ、親戚のお姉さんとか、さすがに無理があるか・・・・。留学中の学生とかどうかしら?」
「学生らしさの欠片もありませんわ。」
「失礼な!」
「でも、他にいい案もないと思う・・・・。」
「マスターがそうおっしゃるなら。」
「あんたのそのマスターになんでも従う姿勢、どうかと思うわ。」
「なんでも従ってはいませんわ。マスターが危ないことをしそうになれば止めますもの。」
「ふーん?」
「と、とにかく、そういうことにしましょう。あ、でも、アリアさん、荷物は分けて持っていきましょうね。2人分はさすがに・・・・。」
サヨはタンスの中からしばらく使っていなかった鞄を取り出し、アリアの荷物をその中へうつしだした。
「はーい。」
和気あいあいと荷造りを済ませると、時刻は8時を回っていた。
「マスターそろそろ寝た方がよろしいのではなくて?」
「そうですね。」
「何時起きだっけ?」
「7時には起きないとですね。」
「えー、そんなに早いの?」
「そういうものです。」
「日本人真面目すぎ。」
「ほらほら、早く寝ないと、マスターが寝不足になってしまいますわ。」
「はいはい。私も寝るわよ。」
アリアはそういいながら、サヨのベッドに横になった。きちんともう1人寝られるようにスペースも空けて。
「それじゃあおやすみなさーい。」
「おやすみなさい。」
サヨが電気を消してベッドに入った。
「・・・・・・・ちょっとお待ちなさい。吸血娘、あなた、なぜマスターの隣で寝ていますの?」
「ん?この部屋ベッド1つしかないじゃない。」
「そうですけれど、あなたがマスターの隣で寝る必要がありまして?」
「ベッド以外でどこで寝ろっていうのよ?」
「地べたで寝ればよろしいではありませんか。ね?マスター?」
「はあ?」
「えっと、私は別にかまわないかなーって・・・・。お泊まり会とかこんな感じでみんなで寝ますし。」
「なっ!!」
「ねー?かまわないわよねー?」
アリアがサヨの腕に抱きつき、挑発するようにタンスを見やる。そして、その結果・・・・。サヨは2人に挟まれて寝る羽目になった。
(なんだか、お姉ちゃんと妹が同時にできたみたいだなぁ・・・・。こういうのも、悪くないかも?)
家族が増えたようで少し幸せを感じるサヨなのであった。そして、翌朝・・・・・。
「サヨー!起きなさーい!」
「むにゃ・・・・。んー、今何時?」
7時に目を覚まし、サヨは学校へ急いだ。後ろから日傘を持ったアリアが追いかける。
「さ、サヨ、待って、早い!」
「ごめんなさい!でも、早く行きたくて!」
「走らなくても!いいじゃないの!!」
「それもそうですけど・・・・!」
学校へつく頃にはアリアの体力は底尽きていた。
「も、もう無理・・・・。」
「大丈夫ですか?」
サヨがアリアを気にかけていると、校庭の方からナタリーがかけよってきた。
「サヨせんぱーい!あれ?」
「あ、なーちゃん、おはよう。」
「おはようございます。先輩、あの、その人・・・・。」
「ああ、大丈夫だよ。あの、アリアさん、そんなに悪い人じゃないから。」
「・・・・でも、なんで・・・。」
「なんか、契約者と離れちゃいけないんだって。なーちゃん、ちょっと手伝ってくれる?」
「あ、はい。」
ナタリーと2人でアリアを起こし、校庭まで連れていく。既にサヨ以外の部員が揃っていた。
「全員揃ったわね。あとは先生が車を持ってきてくれるのを待ちましょうか。」
「はーい!」
小田原が車を持ってくるまでの間にサヨはアリアを部員たちに紹介した。ひとまず留学中の学生ということで。
「日本文化に興味があるらしくて・・・・。どうしてもついて来たいって・・・・。」
「留学生さんですかぁ。いいと思いますよぉ。」
「外国の怪談とか聞きたいです!」
「美人・・・・。」
アリアに対し、皆それぞれの反応を見せる。
「そうねぇ、いいんじゃないかしら。我が部もついに国際交流かぁ・・・・。」
時子はなぜか目頭が熱くなっている様だった。部長から許可が出たこともあり、アリアはそのまま、合宿へ行くことになった。
「うちの部員に、手出しとかしないわよね?」
時子はこっそりアリアに耳打ちした。
「えぇ、そのつもりよ?」
「なら良かった。それじゃあ、保護者としてよろしくね、アリアさん。」
「こちらこそ。」
合宿へ向かう車の中は、とても賑やかだった。少し狭かったが。サヨは、楽しそうなアリアを見て、なんだか嬉しく感じた。合宿は良いものになる。そう確信していた。