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0.いつかの未来
熱を失っていく身体を抱きしめ、口づける。
花の香りに混ざる生ぬるい鉄の味は思っていたよりもずっとずっと甘美なものであり、愛おしさがこみ上げた。
長いまつ毛に縁取られた瞼は完全には閉じてはおらず、ぼんやりと視点の定まらない瞳が流れの止まった小川のように薄緑色にくぐもっていた。
鮮やかな真紅から闇よりも深く暗い色へと変色していくドレスに、カナリヤよりも涼やかに歌う声が完全に失われた事を知った。
誰よりも美しく、何よりも可憐で、この世の全てよりも大切で愛らしい。
うっとりと彼女の頬へと顔を寄せる。
彼女を手に入れた私はきっと、この世で一番、誰よりも何よりも幸せな男であろう。
彼女を失った私はきっと、この世で一番、誰よりも何よりも不幸な男であろう。
私は、彼女を失う事でやっと、彼女を手に入れる事ができたのだ。