第二話
一年の時が経った。
相変わらず、悠太は気にした様子もなく、私の家にご飯を食べに来る。
こっちの気も知らないで。
でも、変化があった。
悠太の野郎に彼女が出来た。
二年生の後輩らしくて、凄く可愛くて、私とは全然違うタイプの子だった。
受験生なのに、何を考えているんだと思う。
これはただの嫉妬でしかないのは、わかっているんだけど。
だから、せめてもの反抗として、
「明日から、もうご飯作ってあげないから。」
「ええっ!?なんでよ!」
「彼女につくってもらいなよ。出来たんでしょ?」
「そんなの気にしなくてもいいのに。」
「私が悠太の彼女に恨まれるでしょ。私が困る。」
「彼女そんなこと気にしないって。」
「兎に角、もう作らないから。」
悠太の顔は絶望一色だ。
してやったり。
失恋の恨みは深いのだよ。
私があの日、どれだけ泣いたかもわかってないくせにのこのこと食いにきやがって。
今迄は作らない理由がなくて、胸が痛んでも、我慢して作っていたけど、彼女が出来たならと皮肉ながらに解放された。
其れからと言うもの、私は悠太の事を忘れようと避けるようにした。
土日には、悠太が家に押し掛けてくるが、帰れと押し返した。
「ま、まじで作ってくれねぇのかよ…。」
私はズキンッと痛む胸を抑えながらも、頭を振り、其れを消す。
お母さんに悠太のお母さんから伝わったのか、「悠太君になんでお昼作ってあげないの。」と問いただされた。
私の想いはお母さんにバレているので、正直に事の顛末を話した。
すると、「辛かったね。」と其れだけいって、きつく抱き締めてくれた。
胸にググッと色々込み上げて来て、ぶわっと盛大に泣いた。
その間も何も言わずに抱き締めながら背中や頭を撫でてくれた。
一頻り泣いた後、私は、もう悠太の事は忘れると決意して、悠太と同じの近所の高校でなく、三駅離れた少し遠い高校を志望校に変えた。
其れを、担任に話すと、曰く、
「頑張れ、お前の成績なら行けないことはない。」
との事で、私は受験勉強も理由にして、話し掛けてくる悠太をあしらい、避ける。
放課後や休日はたまに息抜きで、友達と遊んだり、後の大半は図書館で勉強して過ごした。
夏休み。
図書館にいつもの如く、勉強道具の入ったカバンを持っていつもの一角の机に座る。
担任曰く、もう安心だ、この実力なら落とさなければ、確実に合格圏だそうなので、最近は以前のように気を張り詰めて、夜中までみっちりやることもなく、一日に二、三時間程度に留めている。
ふと、一区切りついて、シャーペンを置き、周りを見渡すと斜め奥に、悠太がいた。
なっ、なんで。
あぁ、偶然か、まぁ流石に悠太でも受験生だしな、偶には図書館でも勉強するか。
そういう事にして、今日は勉強を終えて帰宅した。
然し、次の日も、その次の日も、図書館で勉強する悠太がいる。
その顔はだるそうに勉強している訳ではなく、真剣そのものだ。
焦っているようにも見える。
だ、大丈夫なのかな悠太、近所の高校って底辺なのに、そんなに勉強やばいのかな。
教えて、、いやいや、私はもう悠太の事は忘れるんだ、何の為に勉強してると思っているんだ。
胸がチクッと痛む。
其れを振り切り、春は自分の勉強に専念した。
帰り道。
今日の夕飯は何にしようかな、何て考えながら歩みを進める。
突然、肩を掴まれた。
薄暗くなる時間帯だったので、変質者の類かと思い、驚きながらも、身構えながら振り向くと、其奴は、悠太だった。
「・・・な、なに。」
「・・・いや、春、お前、志望校、地元じゃ無いって。・・・なんでだよ。」
「・・いや、何でって、悠太には関係ないじゃん。そんな事より、焦ってるみたいだけど、塾行ったほうがいいんじゃないの?」
「・・・あ、あぁ・・。」
そう言って、早足で帰路に着く。
何なんだ、悠太は。
もう悠太とは、ほとんど話していない。
私から避けているのだから当然だ。
其れにしても、どうして悠太が私の事なんかきにするんだ。
どうでもいいか。
地元の高校に手こずるようじゃあ何方にしろ関係ないし。
十一月。そろそろ秋も終わりに近づき、冬を迎える。そして二学期も終盤、私は担任からもっと上の学校も全然いけると太鼓判を押される位に学力が伸びていた。
このままキープすれば、殆ど三駅離れの学校ではトップレベルだと。
でも、私の家は一般家庭で高い交通量はキツかったのもあるし、何より私自身、長時間の通学は嫌だったので遠慮しますと言っておいた。
そして私の友人、茜も私と同じような口で、でも秀才型ではなくて、天才型。
ただ、上昇志向がなくて、勉強そこそこ、あとは遊び中心と言った感じ。
それでも地域の模試では一位なんだからびっくりというもの。
閑話休題。
休日、私は親友であるその茜と遊び、少し休憩しようと、私のお気に入りの喫茶店で、休憩していた。
「良いでしょ、ここの喫茶店。」
「うん。いいね、ここ。コーヒーだけじゃなくて、紅茶とか、抹茶とか、すっごい色々種類があってびっくりした。」
「うんうん、私のオススメは、デザートだけど、この、抹茶パフェ。他の店の抹茶パフェとは格が違うの。」
「へぇー。じゃあそれにしようかなぁ。料理人志望の春のオススメは侮れないからね。」
「私はもう一つの、オススメの、抹茶カステラ頼むから、割り勘して2人で食べない?」
「いいね、それ、乗った。」
「飲み物はどうする?」
「そこは春に任せる。」
「茜が好きそうなのは・・・これかなー。これで。」
店員に声を掛けて注文する。
因みに頼んだのは、アメリカンコーヒー。
抹茶とか紅茶が充実しているのに何故アメリカンコーヒーなのか。
と思うかも知れないが、春もびっくりするほど酸味がなくてスッキリしたコーヒーだった。
スイーツと食べるには最適だと思ってこれをチョイス。
「へぇー。確かに、これは美味しいや。」
「でしょ。」
お互いにスイーツを食べては感想を言い合う。
そう、私達が仲が良くなった共通の話題は、食だ。
一応茜はケーキが好きで、わたしが料理人を目指していることに感化されて、パティシエになりたいと思っているらしい。
まぁそれはさておき。
「・・・私達余裕だよねー。あと四ヶ月もすれば入試だってのに、遊んでて。」
「・・・まぁ、良いでしょ。茜は上昇志向ないし、私はちょっと頑張りすぎて疲れちゃったよ。」
「そだねー。私は、地元の高校は流石にやばいから隣町のとこにしたけど、別に賢くなりたいわけでもないしねー。パティシエに学力はあんまり必要ないし。留学するにしても外国語だけできれば良いし、私、既に何ヶ国後かいけるし。まぁ、楽しいのが一番だよー。春ももっと気楽にね。」
「うん。そうするね。ありがと。」
気があう友達といると、やはり癒される。
ここ最近、悠太の事と、受験勉強で、気が立っていて、落ち着くこともなかったと思い出した。
茜と一緒の学校で良かったな。
なんてしみじみと思った。