エピローグ
青い空が広がる世界で、僕の心は灰色だよ。
したい事、欲しい物、叶えたい夢、そんな『欲望』が僕には無い。
例えば、お腹が減ったから何か食べたいというのも、一種の『欲』なんだと思う。けど僕には、それすらも欠落しているんだ。食事は生きるために仕方なく行う、儀式のようなものだとさえ思っているね。そうそう、儀式といえば、僕は毎日欠かさずにしている事があるんだけどさ、君も一緒にやらないかい。なに、簡単な儀式だよ。
「実に充実している、私は幸せだ」
ほら、こうして空を見上げて言うんだよ。何の感情も無しにね。意味は特にないさ。言っただろう、僕にとって食事と儀式は同じもの。強いていうならそう、生きるためかな。なんて、思ってもないようなことを口にすると、なんだか詐欺師にでもなれそうな気分になるよ。吐き気がするね。充実なんて僕の一番嫌いな言葉だ。そんなもの自分の自己満足でしかない。リア充なんていう人種もいるけれど、そんなもの自身を可愛がっているだけじゃないか。馬鹿馬鹿しい。何だい、何か言ったかい。
「え、別に若々しい教え子達に、嫉妬なんてしてないさ」
いわゆる、灰色の僕の生活には割と満足しているしね。いや、本当に嫉妬なんてしてないって。君案外しつこいね。ウザイよ。まぁいいけど。幸せは人それぞれなんて言う人がよくいるけど、そんな事を言えるのは、生ぬるい幸せに足を浸して満足しているような奴らだよ。僕みたいに、足すらも浸せないカラカラな冷たいものしか持っていない奴らは、不平等こそが幸せだと思っているよ。
「平等な世界に、幸せはない」
その表情を見る限り、納得してくれたようだね。安心したよ。やっぱり君は僕の大事な友人だ。ん、何を笑ってるんだい。まあいいけどね。ああ、そうだった、ちょっと聞きたいことがあったんだ。人って死んだら何処に行くと思う。天国とか地獄とか、他にも無とかさ。色々あるだろ。それを俺に聞くかって言われてもね。君くらいにしか聞けないんだよ。今からその答えを知る予定の君にしかね。
「今から君は、平等な世界に行く」
やっとサヨナラだね。長いようで短い1年だったよ。
この1年で、ほんの少しだったけど高校生の青春に触れることが出来たし、君の心残りも解決できた。少しだけ心が若返った気がするよ。灰色なりに、退屈しのぎな1年になったさ。そのお陰で生徒に慕われちゃったのは、かなりの迷惑なんだけど、まあ、そのうち静かに離れていくだろうね。そんなものだよ、教師って存在は。
何嬉しそうな顔をしてるんだい。ムカつくね。
ほんとに憎めないよ、君の事は。
今日は天気が良い。
素敵な命日になるね。
まぁ、もう君は死んでいるだけどさ。
「さようなら____」