御用達
「なんだこりゃ?
また、馬鹿デカい石窯だなぁ。
まさか、ピザを焼く為だけに、
こんなもんを造ったんじゃないんだろ?」
「ええ、このピザは、ライさんが懐かしいと思うと考えて作っただけで、
この石窯の本来の使用目的は、こっちの料理です。」
サスケは、『魔倉』から昨日の残りの塩釜焼きを取り出しながら、
ライに言った。
「何だ?その料理は。」
「ライさん、塩釜焼きって知ってますか?」
「おう、確か魚のタイとかスズキを塩で包んで焼くやつだよな。」
「ええ、その認識で大体合っています。
今回は、それをマッドパイソンでやってみたんですよ。」
「マッドパイソンて、地球のバッファローみたいのだっけ?」
「ええ、大雑把に考えれば、そんなとこですね。」
「へ~、そんなデカいもんに、どうやって火を・・・
ああ、だから石窯なのか。」
「ええ、効率良く熱が対流して、
むら無く焼くにはコレかなって考えて造ってみたんですよ、
昨日の残り物で悪いんですが味見してみて頂けますか?
今、温め直しますんで、少々お待ちいただけますか。」
「ああ、温めるなら俺が『レンジ魔法』でやるからいいぜ。」
ライが肉に両手を翳して無詠唱で魔法を発動すると、
肉がジュージュー言い出した。
『チ~ン!』
「温まったから、みんな喰おうぜ。」
「ライさん、今の『チ~ン!』って音はどこから・・・?」
「ああ、不思議だよな、
実は俺にも、どこから聞こえるのか分からないんだよ、
多分、神様のジョークなんじゃないか。」
「ああ、こっちの世界って何か、
ちょこちょこネタが入ってたりしますよね。」
「女神フェルナは真面目な性格らしいから、
他にジョーク好きな神様とかが居るんじゃないか。」
「ああ、ありそうですよね。」
「サスケくん、この料理美味いわね!
肉の中にも色々入っていて楽しいわ。」
「ああ、それに外側の肉は、肉厚で一見火が通って無い様に見えて、
その実、絶妙に火が通っているな、
塩加減も絶妙だぞ。」
「ありがとうございます。
リーナさんと、エルザさんに、そう言って頂けると自信になります。」
「この、塩加減は自然に付いたもんなのか?」
「ええ、塩で包んで焼くから、
塩辛くなりそうなんですが、そうでも無いんですよね。」
「こう言う、豪快な料理は見栄えも良いから、
観光客に受けが良いかもな。」
「ええ、俺も、そう思ったんですよ。」
「後は、郷土料理っぽいのも欲しいとこだな。」
「それも良いのが、ありますよ、
もともと村で食べられていた料理なんですが、
地面から出ている高温の蒸気で、
食材を蒸した『地蒸し料理』って言うのがあるんですよ。」
「ああ、日本の温泉地とかにも、
そういうのがあったよな、
肉とか野菜とか蒸すやつだろ。」
「ええ、そうです。」
「良いんじゃねえか?
温泉の大露天岩風呂と、石窯料理と、地蒸し料理を売りにして、
宣伝すれば、結構、客が呼べると思うぜ。」
「ええ、俺も、そう思うんですが、
一応、念を入れてライさんにお願いしたんですよ。」
「俺は、温泉の人気が出るなら、
俺の名前を使うのに全然問題無いんだが、
それ程の効果があるのか?」
「ええ、こっちの世界での、
勇者の名がもたらす影響力はバカにならないんですよ、
俺が、今、暮らして居るピロンの街だって、
300年前に勇者イチローが冒険者になった街ってだけで、
未だに肖ろうって冒険者が訪れるんですから、
ここも、勇者ライお気に入りの温泉って宣伝させて貰えれば、
世界中から勇者マニアが、やって来ると思いますよ。」
「そんなもんかね~、
でも、それだと一回来たら終わりになっちゃうんじゃねえか?」
「ええ、大体は、そうなると思いますけど、
リピーターになってくれる人も居ると思いますんで、
そう言う人は、温泉や料理を気に入ってくれた人だろうから、
固定客になってくれると思うんですよね。」
「それもそうか、全員がリピーターになったら、
この村のキャパじゃ無理があるもんな。」
「ええ、若者の流出防止や呼び戻しに始めた事なんですけど、
みんなが村に留まったり戻って来たとしても、
人手が足りなくなるでしょうね。」
「それだったら、
いっその事、一大温泉地にしちゃえば良いんじゃないの?」
「いいえ、リーナさん、
ここの村の良さは不便さも含めてなんですから、
余り開けてしまっても良く無いんですよ。」
「そうだぞリーナ、ここが秘境の秘湯じゃ無くなったら、
俺の興味も無くなるだろうからな。」
「そうなると、ライと、またここに一緒に来て、
この料理が食べられなくなっちゃうのか、
それは、残念だから、
やっぱり、この村は、このままの方が良いね。」
「そう言う事さ。
って訳だから、サスケ、宣伝するのも程々にな。」
「ええ、その辺は、様子を見ながら調整する様にしますよ、
取り敢えず、最初はルクシア共和国の冒険者ギルドから、
ライさんの噂を広めて見ようかと思っています。」
「そうだな、国内の連中の方がリピーターには成り易いだろうからな。」
「ええ、俺も、そう思います。」
「そう言えば、
さっき食べた塩釜焼きに使われてたマッドパイソンって魔獣の肉が、
最近、俺の国にも『ピロン焼肉のタレ』って言うのと、
一緒に入って来たんだけど、
あれってやっぱりサスケが造ったのか?」
「ええ、例の襲撃騒動のお蔭で、
ピロンの街に、大量の肉が在庫になったんですけど、
美味しく大量に消費するならヤキニクかな~って思ったんですよ。」
「おお!やっぱりそうか、
良く、あれだけの味を再現出来たな、
ウチの連中も、みんな肉が好きだから週一でヤキニクを食べてるぜ。」
「それは、ありがとうございます。
ライさんには、今後もお世話になりますから、
良かったら、これを持ってって下さい。」
サスケは、『魔倉』から何本かのビンを取り出しながら言った。
「おお!『ピロン焼肉のタレ』の辛口と甘口も造ったのか、
俺は辛い方が好きだし、
子供たちは甘い方が良いから助かるよ、ありがたく頂いていくぜ。」
「ええ、どうぞ召し上がって下さい。」




