ビリビリマスター
「ミルクから、ライさんが日本に居た頃は、
大学生だと伺ったんですが、
その若さで、どうして亡くなったんですか?」
「ああ、向こうでの俺は筋トレが趣味だったんだが、
その一環で、荒川の土手で走り込みをしていた時に、
落雷の直撃を受けて死んだんだよ。」
「へ~、落雷でですか、それは運が悪かったですね、
でも、珍しい亡くなり方ですけど、
偶にニュースで聞きますよね。」
「おう、でも、そのお蔭で、
この世界では貴重な雷魔法を身に付けて、
生まれ変われたんだから、
運が悪かったのか良かったのか分からんな。」
ライは、手からパチパチと火花を出しながら言った。
「ちょ、ちょっとライさん、
電気風呂だけは勘弁して下さいね。」
「ハハハ、分かってるって、
そう言えば、電気風呂で思い出したんだけど、
俺は、こちらの世界で初の雷魔法使いって事なんだが、
実際には勇者イチローが使おうと思えば使えたらしいぞ。」
「それって、300年前に居たって言う勇者イチローの事ですか?
何で使わなかったんでしょうか?」
「それが、日本に居た頃に電気風呂に入ってから、
電気が怖くなったかららしいぜ。」
「へ~、意外とビビリだったんですね、
何か、今までは伝説上の人物って認識だったんだけど、
少し身近に感じられる様な気がします。」
「今の話を聞いて、何かに気付かないか?」
「えっ、何にですか?」
「勇者イチローは、それ程、昔の人物じゃ無いって事だよ。」
「あっ!?そう言えば、
電気風呂に入って、電気が怖くなったって言ってましたよね、
結構、昔から電気風呂があったとしても、
300年前って事は考えられませんもんね。」
「ああ、俺は、
勇者イチローは俺たちと、そう違わない時代から、
こっちに来たんじゃないかって考えているんだ、
日本と、こっちの時間の流れが大きく違っているのか、
神様の仕業じゃないかと考えている。」
「なる程ね、通りで、
昔のアーティファクトと呼ばれている魔導具の中に、
やけに近代的な物が含まれてると思った訳ですよ。」
「だろ?俺の国にある、遠い場所に転移出来るアーティファクトなんて、
もろロープレっぽい発想だもんな。」
「えっ!?そんな凄いもんが、あるんですか?」
「ああ、でも思ったより使い勝手が良くないモンだぜ、
行きたい場所に、あらかじめ出口を置いてこなきゃならないし、
その出口から出た者しか帰れないんだ。」
「え~と、それは自由に、あちこち行けるって訳じゃなくて、
かなりの制約があるって事ですか。」
「そう言う事だな、俺の国にある魔導具は、
姿見の鏡の形をしてるんだが、
5か所にしか行けないんだ。」
「それは、決まった5か所にしか行って来い出来ないって事ですか?」
「そうだ、俺の国の鏡から行った者しか帰れないんだ。」
「それは、便利な様に思える一方、
使い方が限られて来る魔導具ですね。」
「ああ、だから俺も緊急時にしか使わない様にして、
普段は、今回みたいに龍籠を使ってるんだ。」
「なる程、そうなんですか、
でも、その魔導具は気になるから一度見せて頂きたいですね。」
「おう、全然オッケーだぜ、
俺には魔導具の仕組みはチンプンカンプンだけど、
錬金術士の才能があるサスケなら何か分かるかもしれないからな、
そう言えば、サスケがエルザに持たせてくれた、
治療薬や魔力回復薬のお礼がまだだったな、
俺の国には、まだ錬金術士ギルドが無いから助かったよ。」
「いえ、エルザさんには、
ミルクや師匠の護衛をして頂きましたので、
感謝の印としてプレゼントしただけですよ。」
「おう!そう言えばサスケの師匠って有名人なんだって?」
「ええ、俺も知らずに師事してたんですが、
世界的にも有名な人だったらしいんですよ。」
「その人物がサスケの才能を見出した訳か。」
「ええ、もっとも、
フェルナリア皇国は勇者が欲しかっただけだったんで、
俺の事を、碌に調べもしないで、
戦士や騎士の訓練をさせていましたからね。」
「そうだったんだ、
俺の場合は冒険者ギルドで調べて『魔法拳士』だったんだが、
サスケの適正職種って何だったんだ?」
「シーフの上級職の『忍者』と、『錬金術士』です。
それと、こっちの世界では師匠しか使えなかった、
『言葉魔法』ってスキルにも適性があった様です。」
「何だ全然違うじゃんか、
皇国もバカな事をしたもんだな、
サスケの適性を伸ばしていれば、
今頃、どれだけ国が潤っていたか知れないのにな。」
「でも、ミルクへのやり方を見れば分かる通り、
皇国の在り様は俺とは合わないと思うんで、
遅かれ早かれ国を飛び出していたと思いますよ。」
「それは言えてるな、
俺も、あそこに転生しなくて良かったよ。」
「それも、そうですね。」
「「ハハハハハッ!」」
「そう言えば、物は相談なんだが、
ウチの国に錬金術士ギルドが整備されるまでの間、
何とか、治療薬や魔力回復薬の都合を付けて貰えんもんかな?」
「おっ、グッドタイミングですよライさん、
師匠がウチに暮らす様になったし、
ウチのメイドが師匠に弟子入りしたんで、
薬品関係がダブついて来てたんですよ、
ピロンの街で懇意にしている業者の人が居るから、
格安でマッスル王国に送って貰う様に話しておきますよ。」
「おお!それは、ありがたい話だな、
でも、価格は適正なもんで構わないぞ、
ウチの国で獲れる魔獣は素材が高値で売れるから、
金は腐る程あるんだよ。」
「素材が高いのは、その魔獣を狩れる程の腕を持った冒険者が、
そうそう居ないからでしょ?」
「ああ、今回、ポラリちゃんの学校入学に合わせて、
S級冒険者で、
俺たちの友人であるブラッディ・ベア夫妻が、
ウチの国へ引っ越して来たから、
『魔の森』の魔獣を狩れる冒険者は、他の国には居ないだろうな、
まあ、サスケたちなら、その内狩れる様になるだろうがな。」
「ライさんに、そう言って頂けると嬉しいですね、
ウチのパーティーは実力が付くまでは『命を大事に』で、
行こうと考えていますから、
『魔の森』挑戦は、大分先になりそうですが。」
「それで良いのさ、
『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』さ。」
「そうですね。」




