来々軒
食事会の翌日となり、
サスケたちは、再び温泉の源泉予定地を訪れていた。
「よ~し、パイプは埋設したし、
岩風呂も完成した事だから、さっそく温泉を掘るとするか。」
「お頭、温泉て地下の深い所にあるんですよね、
そんなの、どうやって掘るんですか?」
「ああ、通常はパイプを何本も繋ぎながら、
段々(だんだん)と深く掘って行くんだが、
俺の場合は、魔法でお湯の通り道を造ってやる形だな。」
「井戸みたいに汲み上げるんですか?」
「いや、中には、そういう温泉もあるんだけど、
大概は地中で高温になっている為に、
高い圧力が掛かってるから、
通り道を造ってやるだけで噴き出してくるんだ。」
「そうなんですか、勝手に噴き出すなんて不思議ですね。」
「湧水だって勝手に湧き出している所があるだろ、
あれだって地中で圧力が掛かって、押し出されて来てるんだぜ。」
「あ~、アタイ、見た事があります。
夏は冷たくて、冬は暖かいんですよね。」
「あれは、人が、そう感じるだけで、
本当は湧水の温度は一定で、
空気の温度が上がったり下がったりするから、
その気温に体が慣れた人が錯覚してるんだぞ。」
「へ~、そうなんですか、
同じ温度なのに暖かく感じたり、
冷たく感じたりするなんて面白いですね。」
「そうだな、人ほど周囲の環境に左右される、
生き物は居ないだろうな。」
「そうですね、動物とか魔獣は過酷な環境に強いですよね。」
「ああ、その分、人は知恵を使って対応するのさ、
寒い時に温泉に入ったりしてな、
さあ、温泉を掘るから少し離れていた方が良いぞ。」
「「「「分かりました。お頭。」」」」
「はい、サスケさん。」
「キキッ。」
サスケは、皆が離れたのを確認すると、
源泉用に掘った穴に飛び降りて、
魔力を腕に集中し始める、
必要な量の魔力が高まった時点で、魔法を発動した。
「燃えろ!俺のソウル!
サスケ、ライライ拳!!」
サスケが、地面に向かって拳を放つと、
ヒジの辺りまでズボッ!と埋まって、
一瞬の静寂の後、ズズズズと地響きがし始めた。
「来たかな?」
サスケが呟くと同時に、
サスケが地面に開けた穴からブシュ~!とお湯が吹き上げた。
「あち、あち、あちち!」
サスケは、急いで穴から飛び出した。
温泉は、穴に見る見るうちに溜っていき、
それが、パイプが埋めてある高さまで達すると、
パイプの中へとザァ~と流れ込み始めた。
「どれどれ、『鑑定』っと、
温度は90度ぐらいか結構高いな、
泉質は、ちゃんと弱塩泉だな。」
「サスケさん、どうですか?」
「ああ、温度も水量も申し分ないな、
泉質も狙い通りだから、
後は、岩風呂の方の温度が丁度良くなる様に調整するだけだ。」
「お頭、細かい温度の調整って、どうやるんですか?」
「通常は外気に晒すとか、パイプを水の中に通したりするんだが、
それだと調整が難しいから、
今回は俺が造った『冷却』の魔法を付与した魔石でやる事にするぞ、
これなら、村の人でも簡単に調整できるからな。」
「さすが、お頭ですね。」
「お頭、村の為に、ありがとうございます。」
「礼を言う必要は無いぞ、
これは、俺が温泉に入りたくて始めた事だからな。」
「皆さん、サスケさんは、そう言う事にしたいみたいなので、
お礼は言わなくて良い様ですよ。」
「分かりました。ミルクさん。」
「いつもの照れ隠しですね。」
「いや、そう言う事じゃ無くてだな・・・まあ、良いか。」
「お頭、ここは、これで完成なんですか?」
「いや、最後に、これを被せるから、
みんな、手伝ってくれるか。」
サスケは、『魔倉』から網の様な物を取り出した。
「お頭、それはネットですか?」
「ああ、源泉を、このままにして置くと、
落ち葉や、枯葉が入り込んでパイプが詰まっちゃうんだ。」
「なる程、その為のネットですか、
あれ!?お頭、このネットから強い魔力を感じるんですが、
何で出来てるんですか?」
「おお、良く気付いたな、
これは、特殊な繊維で編んだ網なんだが、
網に、魔獣が近寄らなくする魔法とか、
破れない様に状態保存の魔法が付与したかったんで、
錬金術士ギルドに相談に行ったんだが、
ブラッククロウラーって言う魔獣に、
ミスリルの粉を混ぜた餌を食べさせると、
魔法が付与しやすくて強靭な糸が採れるそうなんだ、
この網は、その糸で作ったもんなんだよ。」
「何か、説明を聞いていると、
えらく高価な網の様ですね・・・」
「ああ、今回、領主様に収める魔法剣一本分の値段だな。」
「100万ギル!?」
「お頭、そんな高価な網じゃ盗まれちゃうんじゃないですか?」
「いや、魔法が付与してあるのには気付くかもしれないけど、
網の材質までは分からないだろ。」
「そうですね、まさか、こんな場所に、
それ程、高価な物が置いてあるとは思わないでしょう。」
「それも、そうか。」
「盗んだところで、売れるとも思わないしね。」
「言えてる、言えてる。」
源泉の方が一段落したので、
サスケたちは大露天岩風呂の様子を見る為に、
村へと戻った。
「まだ、岩風呂の3分の1ぐらいしか溜ってないな。」
「でも、こうやって足を入れると気持ち良いですよ。」
「ホント、ホント。」
「何か、普通のお湯と違ってヌルヌルしてる感じがしますね。」
「私は、もう少し温い方が好きかな。」
「チビリン、泳ぎ上手いな~。」
「キキキ~!」
ミルクたちが、岩風呂の縁に腰掛けて、
足だけ温泉に浸けている、
チビリンは、温泉の中をス~イス~イと泳いでいた。
「そうか、足湯も良いな。」
「お頭、足湯って何ですか?」
「体全体で浸かるんじゃなくて、
今のミルクたちみたいに、足だけ入れる大きさの温泉もあるんだよ。」
「へ~、その方が獣人には向いてそうですね。」
「岩風呂に入ってくれない人でも、
足湯なら入ってくれるかな?」
「ええ、寒い季節なんかは喜ぶんじゃないでしょうか。」
「確かに足を浸けてるだけなのに、
体がポカポカしてくるな。」
「じゃあ、大露天岩風呂が軌道に乗ったら、
村の広場にでも作ってみるかな。」
「その時は、また、私たちにも手伝わせて下さい。」
「おう、色々と獣人ならではとかのアドバイスしてくれよ。」




