スライバー
領主の城の中をカタブツの案内で暫く進むと、
ひと際豪華な扉の前で立ち止まり、
コンコン!とノックをしてから、カタブツは部屋の中へと声を掛けた。
「お館様、サスケ殿をご案内申し上げました。」
「うむ、そうか、中へ入って貰え。」
「はっ!」
カタブツはガチャッ!とドアを開けると、
サスケに部屋の中へと入る様に促した。
「失礼します。」
サスケは一礼してから部屋へと入った。
「うむ、その方がサスケか。」
「はい、この街で冒険者をやらせて頂いておりますサスケです。」
「そうか、私はピロンの街を中心とするピロン領の領主、
オークス・スライバー・ピロン伯爵である・・・」
「は、はあ・・・」
そこにはルクシア共和国の他の街の領主達に漏れる事なく、
オークに似た人物が立っているのだが、
目元や口元がキリリッ!としてカッコ良く、
オーク似なのにカッコイイという矛盾に、
サスケは居心地の悪い違和感を覚えた。
(こういう人こそ、あの決めゼリフを言えば良いのに・・・)
「・・・と、私はオーク顔で、そう言った。」
「言うんかい!」
「うん?どうしたのだサスケよ、
冒険者ギルドのモモヨが、
こう言うと、サスケに受けが良いと言っておったんだがなぁ。」
(あの馬鹿、また余計な事を・・・)
「伯爵様は、モモヨさんと親しいのですか?」
「私の事はオークスと呼べば良いぞ、
うむ、モモヨは私の愛人だからな。」
「えっ!?」
「何を驚いておるのじゃ?
モモヨから、サスケが生まれ育った国では、
親しい友人の事を愛人と言うと聞いたのだが・・・」
(あいつ、領主との会談が終わったら、
その足でギルドに行って、絶対ぶっ飛ばす!)
「い、いえ、正しくは親しい友人は親友と申しますので・・・」
「そうであったか、親友か、中々良い響きの言葉だな。」
「はい。」
「さて、では此度の本題へと入るが、
マッドパイソンの襲撃の際に多大なる協力をしてくれた人物らが、
そなたの関係者と聞いてな、それに相違ないか?」
「はい、私の婚約者と、その護衛、そして私の師匠です。」
「そうであったか、
その功績に加え、そなたが考案したヤキニクと申したか?
新しきピロンの名産品を作りだし、
我が領に多大なる利益をもたらしてくれたそうだの、
その働きを高く評価し、ここに報奨を与えるとする、
サスケよ受け取るが良い。」
「オークス様、誠にありがたきお言葉ですが、
どれも、私一人の功績ではございませんので・・・」
「うむ、分かっておるぞ、
他の者へも、その働きに応じて褒美を与えておる。」
「それでしたら、ありがたく頂戴いたします。」
「うむ。」
サスケは、オークスから報奨が入った、
ジュエリーケースの様な箱を受け取った。
「さて、話は変わるのだが、
先の襲撃事件で、街の門を警備しておるジョイケルと言う者が、
活躍したので褒美を取らせたのだが、
本人が言うには自分の実力では無く、
サスケに造って貰った剣のお蔭だと申しておったのだが、
それは事実なのか?」
「はい、確かにジョイケルさんには、
私が造った、補助魔法が付与された剣を差し上げましたが、
活躍したのはジョイケルさんの頑張りだと思います。」
「うむ、私も、そう考えたのでジョイケルには、
ちゃんと褒美を与えたぞ、
そこで、相談なのだが、ピロン領の防衛力を上げる為に、
ジョイケルの物と同等の鉄剣を100振りと、
私を含めた指揮官用に黒魔鋼製の剣を10振り、
造って貰えんだろうか?
それと、剣を造る際のお願いなんだが、
高性能の剣で反乱でも起こされては困るので、
私に敵対心を抱く者には使えんようには出来んかの、
鉄剣は一振り100万ギル、黒魔鋼の剣は一振り1000万ギル出すぞ。」
「はあ、私もピロンが好きなので剣を造るのは構いませんが、
原材料集めから始めますので、
3か月程の期間を頂いても構いませんでしょうか?
1、2か月目で鉄剣を30振りと、黒魔鋼剣を3振りずつ、
3か月目に残りの剣を納める形にしたいのですが、どうでしょう?
反乱の防止機能については考えてみます。」
「それは構わぬが、原材料なら、こちらでも用意できるぞ?」
(原材料は魔法で出せるから問題無いんだが、
余り早く造り上げても怪しまれると思うからな・・・)
「いえ、造るからには納得の行く物を、お納めしたいので、
原材料の選定から自分で行いたいと思います。」
「ふむ、職人というのは、そういうものらしいからな、
分かったぞ3か月の納期で、お願いするぞ。」
「はっ!承りました。」
サスケが帰った後のオークスの部屋に、
カタブツがノックをしてから入って来た。
「お館様、件の人物の人柄を、どう見られましたか?」
「うむ、私が見たところ、
あやつは裏表の無い、真っ直ぐな心根の持ち主だな、
世間の悪意には敏感な様に見えるが、
何分、まだ若過ぎるからな、
その辺は、私たち大人が本人に疎まれない程度に、
カバーすれば良いであろう。」
「大きな力を持った子供ですか、
懐に抱え込むには危険もあると思われますが・・・」
「サスケは、既に我が領へ、
多大な貢献をしてくれているからな、
多少の問題事は甘んじて受け入れようではないか、
それに、私は、あの者がこれから何を成していくのか楽しみなんだよ。」
「はぁ・・・お館様の悪い癖がまた出ましたな、
分かりました。
あの者の行く末は、拙者も気になりますゆえ、
目を配る事と致しましょう。」
「いつもすまんな、カタブツよ。」
「いえ、自ら進んで、お館様の為に働こうと誓った、
この身の上ですから、
これも本望であります。」




