ゴールドラッシュ
サスケたちの狙いは、まんまと当たり、
ヤキニクは、ピロンの街を訪れた冒険者や商人たちによって、
始めは近隣の街へと、やがてはルクシア共和国全域、
そして、近隣諸国へと広まっていった。
ピロンの街は『ヤキニク発祥の地』として有名になり、
ヤキニクの人気が上がると共に、
安価な類似品が多数発売されたが、
肉マニアの間では、
「やっぱりヤキニクは『ピロン・ヤキニクのタレ』じゃなきゃ。」と言うのが、
共通の意見であった。
三千頭もあったマッドパイソンの肉は、みるみる数を減らして行き、
在庫が500頭を切った段階で、
サスケ、モモヨ、ミンチ、レトリバーの世間で呼ばれるところの、
『ヤキニク四天王』はマッドパイソンの飼育に着手した。
親パイソンを狩る際に、
子パイソンも捕獲して、試験的に冒険者ギルドで育ててみる事にしたのだ、
そして、その試みは見事に当たり、
マッドパイソンは人を見ると問答無用に突撃してくるのに対して、
子供から飼育したパイソンは何故か大人しくて、
一般の農家でも楽に飼育する事が可能であるのが判明したのである。
地方の村々にマッドパイソンの飼育を委託したところ、
ヤキニクの付け合せとして売り出したサンチャンのお蔭で、
経済的に潤って来ていた村々は、
ギルドの委託を快く受けてくれた。
ヤキニクの爆発的ヒットに伴って、
サスケ家の、タレ造りと魔導グリル作りは多忙を極めたが、
ベルとスクルに錬金術を、
そして、サン達に鍛冶の能力を分け与えたのが大いに役立ったと言える、
もちろん、ヴィン爺ぃ達の協力も不可欠であったろう。
今では、魔力を通せば自動的に生産してくれる、
魔導機械を使った生産ラインをサスケが造り出しており、
誰かしらが付いていれば困らない状態になっていた。
ヤキニク騒動が一段落したので、
サスケは久し振りに冒険者ギルドへ顔を出す事にした。
ギルドの入り口の扉を開けるとモモヨの笑い声が聞こえて来た。
「オ~ホッホッホッ!黙っていてもガッポガッポとお金が入ってきますわ、
今ならベスボル賭博も大勝出来る様な気がしますわ!」
「それは、止めておけ。」
「あら、サスケ様、久し振りですわね。」
「ああ、ここんとこタレ造りや魔導グリル作りで忙しかったからな。」
「それは何よりですわね。」
「いいや、冒険者が副業で忙しいんじゃ駄目だろ、
クエストを熟さなきゃランクも上がらないしな。」
「あら、サスケ様ほど稼がれていれば、
冒険者を引退されても良いんじゃ無いですか?
幸いピロンの街の冒険者ギルドは賑わっている事ですし。」
「いや、俺は冒険者って仕事が気に入っているから辞めないぜ、
そう言われて見ると冒険者の数が、やたらと多い気がするな。」
「ええ、人はお金の流れに敏感ですから、
ピロンが潤っていると見れば沢山集まって参りますよ、
サスケ様のお蔭でギルドが経営している、
精肉工場も儲かっておりますので、
地方の魔獣の討伐報酬も多く出せるので助かっております。」
「そりゃ良かった。
地方の村の人達にはサンチャンの栽培や、
マッドパイソンの飼育をお願いしているからな。」
「はい、皆さんも、とても喜ばれていらっしゃいます。」
「そうか、偶には村にも顔を出してみるかな・・・
そうだ、最近クエストを受けていなかったんで、
何か良いもんが無いか見に来たんだけど、どうだ?」
「クエストとは違うのですが、
ピロンの街の領主様から、
何時でも良いから、
一度サスケ様とお会いしたいとの連絡が入っております。」
「領主様か~、貴族は好きじゃないんだけど、
俺は、この街が気に入っているから、
会っておいた方が良いんだろうな。」
「はい、その方が宜しいかと思われますわ、
私も仕事柄、時どきお会いする機会がありますけど、
ピロンの領主様は余り貴族らしくない方なので、
サスケ様が心配なさる様な問題は起こらないと思います。」
「そうか、モモヨさんが、そう言うなら大丈夫かな、
まあ、厄介ごとは早く済ませるに限るから、
この足で領主の城を訪ねてみるよ。」
「そうですか、私もご一緒しましょうか?」
「いや、ギルドも忙しいみたいだし、
俺一人で行くから良いぜ。」
「分かりましたわ。
ではサスケ様、行ってらっしゃいませ。」
「おう。」
サスケは冒険者ギルドを後にすると、
その足で領主の城を訪ねてみた。
「すいません。」
城の門番に話し掛ける。
「はい、この城に何か御用でしょうか?」
「私は冒険者のサスケと申す者ですが、
ご領主様より呼び出しをお受けして、馳せ参じました。」
サスケは冒険者カードを提示しながら説明した。
「ああ!あなたが、あの有名なサスケさんですか、
ただ今、主に取次ぎ致しますので、少々お待ち下さい。」
「分かりました。」
(あの有名って言うのは、どの有名なんだろう・・・)
暫く他の門番さん達と談笑していると、
先程の門番さんが、偉そうな感じの服を着た人を連れて戻って来た。
「そなたがサスケ殿か?」
「はい、私が冒険者のサスケです。」
「お初にお目に掛かる、
拙者は、ご領主様の下で騎士団長を務める、
カタブツと申す者である。
以後、お見知り置きの事、お願い奉り申し上げる。」
「は、はあ・・・よろしく、お願いします。」
(カタい!名前の通りにカタ過ぎるよ、カタブツさん。)
「ではサスケ殿、ご案内申し上げるので、
こちらへ・・・」
サスケはカタブツの案内で、領主の城へと踏み入れた。




