旅立ち
フェルナリア皇国の皇帝より、
直ちに巨大な像を破壊せよとの命令が下された。
その巨大さゆえ、下手に下部を破壊すると倒壊して、
周囲の建物に被害が及ぶ恐れがある為、
飛行魔法が使える者が上部から破壊してゆく事となった。
順調に1週間程で上部半分ほど破壊したのだが、
次の日の朝には元通りになっていた。
同じ様な事が5度繰り返された段階で、
魔法使いの心が折れたのか、行方不明になってしまった。
苦肉の策で、巨大な袋を作って像に被せたのだが、
朝になると股間の部分だけ切り抜かれていて、
皇帝を激怒させた。
最終手段として、周囲の住人を避難させて、
下部を破壊して倒壊させる作戦を決行する事になったのだが、
決行当日の朝に像が消え去ってしまった。
「ヴィン爺が、程々にしておけって言うから、
この辺で勘弁してやるぜ、
『言霊魔導』の良い練習になった事だしな・・・」
サブローはヴィン爺の指導の下に修行を進めて、
現在はシーフの上位職であるニンジャマスター、
錬金術や鍛冶などの生産職の上位に中るアルカナマスター、
そして、『言霊魔導士』スピリチュアルマジシャンになっていた。
「サブローよ、
もう、お主はワシを超える程の使い手になっておるのう、
あとは広い世界へと飛び出して経験を積んだ方が良いぞい。」
「え~、俺は、
ヴィン爺と、ここで暮して居る方が楽しいんだけど・・・」
「お主が、さらに成長するには、
いつまでも、ここに居る訳には行かないぞい。」
「それは、分かっているんだけどさ・・・」
(ふむ、サブローは皇国に裏切られた経験から、
少し臆病になって居る様じゃのう・・・
これは、荒療治が必要かも知れんな。)
ある日、サブローが修行から帰って来ると、
ヴィン爺が床に就いていた。
「あれ、ヴィン爺、具合でも悪いの?」
声を掛けてみるが返事が無い・・・
「ねえ、ヴィン爺・・・ヴィン爺!」
サブローはヴィン爺に近づいて見て、
すでに呼吸をしていない事に気が付いた。
「ヴィン爺!ヴィン爺!」
サブローは、ヴィン爺の体をユサユサと揺さぶってみるが、
返事は帰って来なかった。
ふと枕元を見ると、手紙が置いてあるのに気付いたので取り上げて見る、
『サブローよ、お主がこの手紙を読んで居る時、
ワシは既に、この世には居らんじゃろう、
だが悲しむ事はないぞ、ワシはもう十分に満足して居るのじゃ、
ワシは、今まで蓄えた知識や技術を、
誰にも伝えられぬまま人生を終えると思っておったが、
最後になって、お主という最高の弟子に出会えたのじゃ、
もう思い残す事は一つも無いぞい、
だからサブローよ、お主は悲しむ事無く、
ワシの弟子として胸を張って生きて欲しいんじゃ、
今まで、本当にありがとうのう、
これからも、頑張るんじゃぞい。
我が最高にして最後の弟子サブローへ、ヴィンセント・オナルダスより』
サブローは、流れる涙を拭って顔を上げた。
「分かったよヴィン爺、
俺はヴィン爺が天国でみんなに自慢できるような、
凄い男になると誓うぜ、
今まで、本当にありがとう・・・」
サブローは、旅の支度をすると小屋を後にした。
サブローが旅立ってから30分程過ぎた頃、
ヴィン爺がムクリと起き上がった。
「ふむ、『仮死』の魔法は上手く働いたようじゃのう、
こうでもしないと、あ奴は独り立ちせんからのう。」
その時、小屋のドアがガタガタと音を立てた、
「いかん、また帰ってきおったか。」
ヴィン爺は再び死んだ振りを始める。
「いや~不味い不味い、
ヴィン爺を、そのままにして行っちゃうとこだったぜ、
ちゃんと埋めてやらなきゃな・・・」
死んでいる筈のヴィン爺の額に冷や汗が流れた。
ヴィン爺を埋めた土の山をポンポンと固めて、
その上に墓石替わりにヴィン爺を模した石造を置いた。
「じゃあ、ヴィン爺、今度こそ本当のお別れだな、
偶には墓参りに来るから待っててくれよな。」
サブローが旅立ってから15分後、
ヴィン爺の墓がボムッ!と弾け飛んだ。
「殺す気か~!」