棚から大賢者
「サスケ様の館にある保管庫に1000頭分、
肉屋さんに500頭分のマッドパイソンの肉を預かって頂きましたが、
まだ、あと半分の肉の保管先が決まりませんわね。」
モモヨがマッドパイソンの肉の保管先に頭を悩ませている。
「ギルドの倉庫は駄目なんですか?」
マリィが訪ねる。
「ええ、ギルドの倉庫は角で一杯になってしまったわ。」
「じゃあ、ワシが魔法でギルドの地下に保管庫を造ろうかのう。」
ヴィン爺ぃが提案した。
「ええ!?その様な事が出来るのですか?」
「うむ、造作も無い事じゃ。」
ヴィン爺ぃは、モモヨたちと冒険者ギルドから外に出ると、
入り口を設ける場所を尋ねる。
「地下への入り口は、この辺で良いかのう。」
「はい、大丈夫です。」
「それでは、やるかのう。『掘削』×10
『硬化』×10、『保存』×10
この位の広さがあれば十分じゃろう。」
そこには、マッドパイソンの肉を余裕で収められる広さの、
地下保管庫が出来ていた。
「何と言う魔力の強さと、制御の精確さなのでしょう。
いったい、サスケ様のお師匠様は何者なのですか?」
「え~と・・・」
モモヨに尋ねられたミルキィは、
困った様にヴィン爺ぃの顔を見ている。
「この街に住んでる連中は信用出来そうじゃから、
話しても構わんぞい。」
「宜しいのですか?」
「うむ。」
「それでは、話させて戴きますが、
この方は大賢者のヴィンセント・オナルダス様です。」
「えっ!?あの大賢者様ですか!」
「そうです。」
「道理で凄い魔法を使われる訳ですね、
サスケ様が規格外な訳にも納得行きました。」
「あやつの規格外さは、ワシ以上じゃがな。」
「そんなに変わらないと思いますよ。」
モモヨの言葉に周りの連中もコクコクと頷いている。
「ヴィンセント様、冒険者ギルドにお言葉を残して頂けませんか?」
モモヨが色紙を差し出しながら聞いた。
「モモヨ様それは・・・」
ヴィン爺ぃが嫌がると思ったミルキィが嗜めようとする。
「良いぞい。」
「ヴィン爺ぃ様、宜しいのですか!?」
「うむ、ワシが書いた本人と分からなければ問題無いからのう。
どれ、色紙を貸しなさい。」
ヴィン爺ぃはサラサラと筆を走らせてから、
モモヨに色紙を手渡した。
「ありがとうございます。大賢者様。」
モモヨが色紙に目を落とすと、
そこには、『大賢者参上!ヴィンセント・オナルダス』と記されていた。
「普段はヴィン爺ぃと呼んでくれるかの。」
「はい、ヴィン爺ぃ様。」
そのやり取りを見ていた、
他の連中も色紙を持ってきて、
ヴィン爺ぃにサインをお願いしたので、
街のあちらこちらの店で、
『大賢者は一日にして成らずじゃ!ヴィンセント・オナルダス』や、
『犬も歩けば大賢者に当たる。ヴィンセント・オナルダス』等の、
色紙が飾られた。
ヴィン爺ぃが造った地下保管庫に残りの肉を運び込んだミルキィたちは、
ようやく、サスケの館に戻って休む事が出来た。
ピロンの街を、多数の魔獣が襲撃した後に鎮圧された、
あくる日の午後、
領主の城に、街の門を防衛していたジョイケルが呼び出された。
「頭を上げよ。」
「はっ!」
領主の言葉で、平伏していたジョイケルが顔を上げる。
「此度の戦いにおける、
そなたの働きは、目を見張る程に見事なものであった。
我が兵に、そなた程の武人が居るとは知らなかったぞ。」
「恐れ多くも御領主様、この度の私めの働きは実力には有らずに御座います。」
「どう言う事だ?」
「はっ、実は知人に造って貰いました、この剣の力なのです。」
「その剣の力だと?」
「はい、この剣は材質こそ唯の鉄ですが、
数々の能力が付与してあるので、
私の様な凡人でも、疲れ知らずに戦えたのです。」
「ほう、それ程の名工なら、
私にも紹介して貰いたいものだな。」
「この剣を造った者は本職の鍛冶師ではありません、
ここピロンの街で売出し中で、
冒険者ギルドでも出世頭のサスケと申す者です。」
「何!?冒険者が造ったのか!?」
「はい、サスケは剣だけではなく、
中級治療薬や魔力回復薬も造って街の店に卸しております。」
「ほう、此度の戦いでも、
大勢が救われたと言う中級治療薬もサスケが造った物であったか、
それ程の逸材が、我が町に居ったとは幸運であったな。」
「はい、私もそう思います。
そして、言葉を交わしていて感じたのですが、
サスケは自由を好むと思われる気質ですので、
恐れ多いながらも、
御領主様が、抱え込まれ様となさると臍を曲げる恐れが・・・」
「その方!御領主様に失礼であろう!」
ジョイケルの言葉を聞き咎めた家臣の者が怒声を上げた。
「よいよい、冒険者には、その様な気質の者が多いのも確かだな、
その方が言いたい事は良く分かったから、
サスケの扱いには注意を払うとしよう。
ジョイケルよ、よくぞ伝えてくれたな。」
「はは~っ、勿体無きお言葉。」




