ピロン攻防戦
ガチャッ!
エルザが冒険者ギルドの入り口の扉を開けると、
深夜ではあるが、既にカナリの人数に上る冒険者たちが集まっていた。
「済みません。」
ミルキィは、取り敢えず受付の女性に声を掛けてみた。
「はい、何でしょうか?」
「こちらに、モモヨ様と仰る方がいらっしゃると伺ったのですが・・・」
「はい、モモヨは私ですが、どちら様でしょうか?」
「あなたがモモヨ様ですか、私はミルキィと申しますが、
友人のフローラさんに伺ってモモヨ様をお尋ねしました。」
「まあ!懐かしい名前ですね、私とフローラは幼馴染で、
一緒に冒険者パーティーを組んでいた事もあるんですよ。」
「フローラと幼馴染って一体何歳「年齢が何か!?」
い、いえ、何でもありません。」
「私は回復魔法が使えますので、何かお手伝いが出来ないかと伺いました。
この子はマリィと言いまして、私の侍女です。
こちらは、この街まで護衛に付いて来て下さったS級冒険者のエルザさんで、
この方は、この街で冒険者をされているサスケ様の、
お師匠様であるヴィンセント様です。」
「まあ!S級冒険者の方と、サスケ様のお師匠様ですか、
今の街の状況を鑑みますと、まさに天の助けです。」
「それで、どんな状況なんだい?」
エルザが訪ねた。
「はい、ピロンの街へと大量の魔獣が押し寄せておりまして、
魔獣の種類はマッドパイソンで、その数はおよそ3千頭程と見られます。」
マッドパイソンと言う魔獣は、
頭の頑丈で巨大な角と、強靭な脚力に依る突進力を合わせ持つ、
厄介な魔獣で、討伐には上級冒険者が推奨されている。
「マッドパイソンか厄介だな、
それで街の防護壁は持ち堪えられそうなのかい?」
「今のところは何とか持っていますが、
数が数ですので時間の問題かと・・・」
「この街に上級冒険者は何人いるんだい?」
「それが、普段、この街の周辺には、
せいぜいシモフーリボア位までの魔獣しか現れませんので、
上級冒険者となりますと、
クエストで街を出ておりますサスケ様のパーティー位しかおりませんで、
あとは皆、低・中級冒険者になります。」
「そうか、低・中級では直接当たるのは危険だね、
せめて広範囲の攻撃魔法が使える魔法使いがヴィン爺ぃさんの他に、
もう一人居れば助かるんだがね。」
「それでしたら、私が使えますが・・・」
「えっ!?モモヨさんは魔法使いなんですか?」
「はい、冒険者時代は魔法で攻撃しておりました。」
「広範囲魔法が使えるとなれば、優秀な魔法使いだと思いますが、
それが何でギルドの受付に?」
「はい、私は魔力は強かったのですが制御が苦手でしたので、
味方にもカナリの被害が出ていまして、
ギルドマスターに、死者が出る前に引退する様に言われたのです。」
「そ、そうなのですか・・・
まあ、練習はされたのでしょうから仕方がありませんね。」
「いえ、味方が痛がっている顔を見るのが大好物でしたので、
魔法の練習は全然しておりませんでした。」
「そのギルマスさんはナイス判断でしたね!!」
「では、冒険者ギルドの作戦としましては、
防護壁や街への出入り口は、ご領主様の兵が守っておりますから、
冒険者の皆さんは魔獣の討伐に当たって頂きます。
討伐の手順ですが、
まず私とヴィンセント様が魔法で一撃を加えた後、
エルザ様を先頭に、冒険者の皆さんに打って出て頂く形となります。」
「エルザ様、それで宜しいでしょうか?」
「ああ、私はマッドパイソン程度なら囲まれなければ問題ないよ。」
「そうですか、それでは宜しくお願い申し上げます。」
「そう言えば、この街のギルマスに挨拶しておきたいんだけど、
どこに居るんだい?」
「申し遅れました。
私が、この街のギルドマスターを務めておりますモモヨ・ホルスタインです。」
「えっ!?モモヨさんがギルマスなのかい?」
「はい、先代のギルマスは、主に私の言動が原因で心労が祟りまして、
『俺の苦労を思い知る為に、次はお前がギルマスをやれ!』と言い残されて、
田舎に療養に行かれました。」
「あんた色々と凄いな。」
「まあ、そんなにお褒めにならないで下さい。」
「褒めてねぇ!」
いよいよ、魔獣討伐作戦が決行となる、
まずは、防護壁にハシゴを掛けてモモヨとヴィンセントが登り、
壁の上から魔法での攻撃となる。
「それでは、行くぞい『氷撃』『氷柱』」
ヴィンセントが唱えると、魔獣たちへと大きな氷の玉やツララが降り注いだ。
「私も行きます。
『敵対者よ苦痛に苦しむ輪舞を踊れ岩杭!』」
モモヨの詠唱で、先が尖った大きな岩が降り注いだ。
「痛てっ!痛てっ!」
「うわっ!うわっ!危なっ!」
魔獣たちと一緒に、防護壁を守るジャイケルたちも逃げ惑っている。
「よし!行くよ!」
「「「「「「「「「「うおおおおっ!」」」」」」」」」」
エルザの掛け声に呼応して、
冒険者たちも雄叫びを上げながら街の門から出て行った。
ドガッ!ガシッ!ザシュッ!
魔法で余りダメージを受けなかったマッドパイソンを狙って、
エルザが攻撃を加えていく、
その他の冒険者たちは魔法で動きが鈍ったものに止めを刺していった。
ガシュツ!ドシュッ!
冒険者たちの討ち洩らした魔獣をジョイケルたちが倒している、
その様子を見ながら、防護壁の上で指揮していた領主が側近に話掛けた。
「あの者の活躍は目覚ましいのう、あの兵は何と申す者だ。」
「はっ!あの者は門を警備しているジョイケルと申す者です。」
「此度の騒ぎが収まったら褒美を取らそうぞ。」
「はっ!畏まりました。」
エルザたちの活躍もあって、
戦いは程無くして終わりを迎える、
最後のマッドパイソンの首を切り飛ばしてエルザが声を上げた。
「私たちの勝利だ!!」
「「「「「「うおおおおおっ!!」」」」」」
「「「「「「やった~~~!!」」」」」」」
エルザたちが冒険者ギルドに戻ると、
ミルキィたちが出迎えた。
「みんな、終わったぞ!」
「お疲れ様でしたエルザさん。」
「お怪我はありませんか?」
「さすがはS級の戦いぶりじゃったのう。」
「ああ、私は無傷だよ、
ミルキィさんたちも、ここで治療していたんだから、
お疲れさんだね。」
「はい、サスケ様が造られたという中級治療薬もありましたので、
死者を出さずに済みましたわ。」
「あの規模の魔獣の群れを相手にして、
死者ゼロは大したもんだな。」
「本当ですね。」
「さて、本当は一眠りしたいところだけど、
高値で売れるマッドパイソンの角を切り落としてから、
美味しさで人気が高い肉を腐らない様に保存しなくちゃならないから、
もう一働きだな。」
「私とマリィもお手伝い致します。」
「ワシの魔法を使えば解体は楽じゃぞい。」
「サスケ様の館に巨大な肉保存庫があるので、お借りしましょう。」
多数の魔獣による、ピロンの街への襲撃は、
人間側の大勝利のうちに、その幕を閉じた。




