街道の鷹
「お頭、馬車や食料の準備が整いました。」
館の作業場で何かを造っていたサスケに、
サンが声を掛けた。
「おう、そうか、
俺も、ちょうど今、終わったところだ。」
サスケは造り終えた物を持って、皆の方へやってきた。
「何か造られていたのですか?」
「ああ、館の護衛を造るのが間に合わなかったから、
ダンミーツたちの安全の為にな。」
「なる程、それもそうですね。」
サスケは、ダンミーツたちに居間に集まって貰った。
「俺たちは、クエストで何日か街を空ける事となったので、
お前たちに、これを渡しておく。
サンたちの分もあるから、付けてくれるか。」
「「「「はい、お頭。」」」」
「「「「分かりました。ご主人さま。」」」」
「指輪ですか?」
「まあ、婚約指輪ですか?」
サスケが皆に渡したのは指輪だった。
「ち~が~う~、それは物理攻撃と魔法攻撃を無効化する魔導具だ。」
「ええっ!?こんな小さな物で、それ程の効果が?」
「ああ、急いで造ったから効果は1か月程しか無いが、
取り敢えずは十分だろ。
それと、お前たちの隷属の首輪を外すぞ。」
「まあ!それは、何故ですか?ご主人さま。」
「その指輪には、首輪と同じ隷属効果があるんだよ、
俺は前から隷属の首輪のデザインが気に入らなかったんだ。」
「では、これから奴隷商に行って解除するのですか?」
「いや、解除なら俺が出来るから問題ないぞ。」
「えっ!?ご主人さまは、隷属魔法が使えるのですか?」
「いや、隷属魔法って言うのは、
一種の呪いだから『解呪』で解けるんだよ。」
「それは、存じませんでした。
では、白魔法使いの方なら解けるのでしょうか?」
「実力があれば解けはするが、
隷属魔法を掛けた者の魔力を上回らなければならないから、
解ける白魔法使いは一握りしか居ないと思うぞ。」
「ああ、隷属魔法使いは毎日の様に使っているから、
レベルが高い者が多いですものね。」
「そう言う事だ。
じゃ、お前たちの首輪を外すぞ『解呪』×8」
「取れました、お頭。」
「何かスッキリするわね。」
「首がスースーする。」
「ありがとうございます。ご主人さま。」
「館を警備する、ゴーレムウルフを造るのが間に合わなかったから、
今回は、チビリンが残って守ってくれるか?」
「キキッ!」
「そうか、済まないな、
魔力が上がったらチビリンの仲間と、ゴーレムウルフを造るから、
一緒に出掛けられる様になるからな。」
「キキッ!」
「よし、じゃあ出掛けるとするか、
俺たちが居ない間、館の方は頼むぞダンミーツ。」
「はい、ご主人さま。」
「ウル、ベル、スクルも頼んだぞ。」
「「「はい、ご主人さま。」」」
馬車に乗って街の入り口に来ると、ジョイケルたちが警備をしていた。
「何だ、昨日、街に帰って来たかと思えば、
もう出掛けるのか?」
「ええ、ブタヅーラ村に厄介な魔獣がでたらしいので、
早めに対処した方が良いと思いまして。」
「そうなのか、あの村は美味しい野菜を作るので有名だから、
被害が大きくなる前に対処してくれると助かるな、
頼んだぜサスケ。」
「はい、ご期待に添える様に頑張ります。」
「でも、無理は禁物だからな。」
「分かりました。
では、行ってきます。」
サスケたちはピロンの街を後にした。
「今回は急ぎの旅なので、これを使うぞ。」
「その袋みたいのは何ですか?お頭。」
「これは、馬用の身体強化魔導具だ。
これを、馬の足に履かせると身体を強化すると共に、
地面を蹴る際の衝撃を吸収してくれると言う優れものだ。」
「そうなのですか、分かりました。
今、馬車を停めますね。」
御者を務めていたロリーが、
馬車を道の横に寄せて停車した。
リンとジュリーが馬の足に魔導具を履かせていった。
「お頭、終わりました。」
「こっちも終わったよ。」
「よし、出発するぞ、
ロリー、最初はゆっくりと走り始めて、
徐々に速度を上げて行ってくれるか。」
「はい、お頭。」
最初は、普段通りに走り始めた馬車だったが、
次第に、ありえない速度を出し始めた。
「こ、これは、凄い速さですね、お頭。」
引き攣った顔のサンが話し掛けて来た。
「そ、そうだな、馬車も重量を軽減したり、
振動を抑えているから、相乗効果があるのかな?」
周りの景色が流れる様に過ぎて行き、
道の脇に立つ木々が、
馬車が通り過ぎた後に、大きく枝を揺らしているのが見える。
「ロリー、ちょっと飛ばし過ぎじゃないか?
もう少し速度を落とした方が・・・」
「ぃぃぃぃぃやっほぃ~~~~!」
「まずい!ロリーのキャラが変わってるぞ!?」
「どけ!どけ!道を開けなさい!弾き飛ばすわよ!!」
「うわ~!前の馬車にぶつかる~!」
「お爺さん、避けて~!」
「3年前に亡くなった、
お婆ちゃんが川の向こうから、おいでおいでを・・・」
「生きてるって素晴らしい・・・」
普通に行けば2日掛かる道程を、わずか3時間で走り抜けた馬車は、
もう少しでブタヅーラ村が見えてくると言う辺りになって、
ようやく、その速度を落とした。
「鷹の血が騒いでしまいまして、抑えが利きませんでした。
申し訳ありませんでした。お頭。」
「いや、かなりのスリルだったが、
その分、早く到着したから結果オーライだな。」
「ロリーに、こんな一面があるとは知りませんでした。」
「子供の頃から、大人しかったもんな。」
「でも、いざと言う時の度胸は元々あったよ。」
「まあ、俺が前に居た国でも、スピード狂って居たからな。」
「お頭。村が見えました。」
「あれが、ブタヅーラ村か、男はオーク似って事だから、
女はゴブリンにでも似ているのかな?」
「と思うでしょ、でも違うんだよな~。」
村の入り口が近づいたので、
馬車を停めて徒歩で向かう事にする。
夕暮れが近づく村に、
村人たちが、思い思いの方向に歩いているのが見える、
遠目では見えなかった村人の顔が段々見えて来た。
「えっ!?どう言う事!?」
「やっぱり、そう思いますよね。」
「男は確かにオークそっくりなのに、
何で女は、みんな美人なんだ?」
ブタヅーラ村の女性たちは、気品が漂う美女ばかりだったのだ。




