幕間8
「ライ、ミルキィさんの護衛はエルザとフローラの、
どちらにするか決まったの?」
「そうだな~、2人の実力なら、どちらでも良いよな。」
「ライ、ドゥーベさんから魔導通信が入ったんだけど、
『魔の森』の西部で魔獣を排除して、森を切り開いたら、
隣接したフェルナリアの貴族が領有権を主張してきたそうよ、
ドゥーベさん達だけでも排除出来るけど、
どう対処したら良いかの問い合わせみたい。」
ドゥーベとは、ライ達の友人であるS級冒険者で、
夫人の同じくS級冒険者であるベネトナと一緒に、
ブラッディ・ベアと言うパーティーを組んでいる。
また、魔導通信とはライが雷魔導を魔石に付与する事に成功したのを機に、
魔導具協会が開発した通信用魔導具である、
雷魔導が使えるのがライのみである為に、
ライが許可を与えた人物しか所持していない貴重品である。
「そうか・・・
いや、ここは、今後の警告の意味も込めて、
徹底的に叩いておこう、
俺とフローラの広域殲滅魔法で、一瞬で方を付ける事によって、
うちの国の怖さを分からせておいた方が良いな、
これは、周辺の貴族たちだけではなくて、
フェルナリア皇国への警告にもなるからな、
後から皇帝宛てに、貴族の手綱を握れないなら、
うちの国に併合しようかと連絡しておこう。」
「それは、かなり辛辣な警告ですわね、
私とライ様の魔法で、
敵の心に恐怖を刻んで差し上げましょう。」
「と言う訳で、ミルキィさんの護衛はエルザに行って貰う様だな。」
「分かったよ。」
「ルクアは、リーナとパサラちゃんと一緒に王都の防衛を頼めるか?」
「分かったわ。」
「任せてよ!」
「了解。」
サブローを探す旅に出る準備を整えていたミルキィは、
ひと通りの準備を終えたので、いよいよ出発する事にした。
「ライ様、ルクアさん、そしてお仲間の皆さん、
大変お世話になりました。
無事にサブロー様を見つけられたら、改めてお礼に伺います。」
「おう、サブロー君が見つかると良いな。」
「ミルキィさんも、お気を付けて。」
「ルクアの友達なら、アタイの友達も一緒だから気にしないでよ。」
「バイバイ。」
「ルクシア共和国に行く事がありましたら、
私の友人でモモヨと言う者が、
ピロンの街で冒険者ギルドの受付をしておりますので、
困った事があれば訪ねてみて下さいませ。」
「分かりましたわフローラさん、
ありがとうございます。」
「そんじゃ、行って来るぜ、ライ。」
「ああ、ミルキィさんを頼んだぞ、エルザ。」
「要人警護は慣れたもんさ。」
ライたちの中で、一番最初にS級冒険者に成っていたエルザは、
それだけ、数々のクエストを熟しているのである。
「それも、そうだな。」
「それでは皆さん、ごきげんよう。」
「ああ、またな!」
「「「ええ、またね(ですわ)!」」」
「うん。」
こうして、護衛のエルザと、付き人のマリィを伴って、
ミルキィはマッスル王国を馬車で出発した。
「ところでミルキィさん、行き先は決まっているのか?」
「はい、皇国の騎士団長様より情報を戴きまして、
皇国の南部にあるシャルムの街で、
サブローさまに似た人物が目撃されたとの事でしたので、
まずは、そこを目指そうかと思います。」
「了解した。
ヨシェア、今、聞いた通りに皇国の南部を目指してくれるか。」
「畏まりました。」
ヨシェアは、ライ達が冒険者時代から御者を勤めていて、
今では、マッスル王国の御者頭である。
マッスル王国をミルキィ一行が出発してから数日が経過して、
馬車は、目的地のシャルムの街まで、後2日の距離まで進んでいた。
「ミルキィさん、そろそろお昼になるから、
馬を休ませがてら昼食にしようか。」
「はい、分かりました、エルザさん。」
「ヨシェア、どこか川沿いで馬車を停められそうな場所があったら、
昼食にしよう。」
「畏まりました。」
程無くして馬車は停まり、ヨシェアは馬に水と餌を与えに行き、
エルザは、ミルキィ達と共に手や顔を洗ったり、
調理用の水を汲みに川に向かった。
「うん?」
ふと、川岸を見ると一人の老人が釣り糸を垂れていた。
「これは!?
ミルキィさん、マリィさんと一緒に、こちらで少し待っててくれるか。」
「はい?分かりました。」
ミルキィたちを残してエルザは老人の方へと歩みを進めた。
「ご免!私はマッスル王国の冒険者でエルザと申す者ですが、
貴公は、相当の腕前をお持ちの人物とお見受け致しますが、
どちらの手のお方かお聞かせ願えますか?」
「ほう、ワシは気配を隠しておったのだが、
よく気が付いたのう。」
「はい、確かに気配を隠されておられましたが、
上手過ぎましたね、
この辺りにおられるのが不自然な程に、
上手く気配を隠されておいででしたので。」
「ホッホッホッ、なる程のう、それは失敗じゃったのう、
無駄に警戒させる事も無かろうと思ってやったんじゃが、
返って警戒させてしまったかのう。
じゃが、心配はいらぬぞ、ワシは昔こそ皇国の飯を食べておったが、
今は隠居して、この近くの小屋で一人暮らしを送って居る、
ただの年寄りじゃからのう。」
「失礼ですが、お名前を伺っても宜しいですか?」
「ああ、良いぞい、ワシはヴィンセント・オナルダスと言う者じゃ。」
「皇国のヴィンセント・オナルダス様と言うと、
もしかして大賢者さまですか!?」
「昔は、そう呼ばれておったが、今ではタダの爺ぃじゃよ。」
「これは、大変失礼を致しました。
今、連れの者を呼んで来ますので、少々お待ち戴けますか?」
「ああ、構わんぞい。」
「エルザさん、あのご老人は、どなた様ですか?」
戻って来たエルザに、ミルキィが訪ねた。
「大賢者様だそうだ。」
「ええ!?大賢者様ってヴィンセント・オナルダス様ですか?」
「本人の話では、そう言う話だよ、
それに、私の勘じゃ本当の事を言ってると思うね、
あの老人から受ける印象は只者じゃ無いからね。」
「そうですか、
エルザさんが、そう仰るなら間違い無さそうですね、
私も、ご挨拶して宜しいでしょうか?」
「ああ、そうしたいと思って呼びに来たんだよ。」
「ありがとうございます。」
「大賢者様、お初にお目に掛かります。
私の名前はミルキィと申します。
訳あって今は地位を捨てた身ですが、
元はフェルナリア皇国の王女でありました。」
「ほう、元王女様ですか、ワシはヴィンセント・オナルダスじゃ、
ワシも大賢者の名は捨てた身なので、
ヴィン爺ぃとでも呼んでくれるかのう。」
「はい、ヴィン爺ぃ様。」
「それで、ミルキィさんと言ったかのう、
あなたは、こんな所に何をしに来られたのじゃ?」
「はい、私は婚約者で元勇者様の、
サブロー様と言う方を探しているのです。」
「ほう、元勇者様か、
その方を探し出して、どうされるお積りなのじゃ?」
「はい、まずは謝りたいと思います。
サブロー様が辛い思いをされてる時に、
お助けする事が出来なかったからです。
そして、サブロー様にお許し戴けるならば、
お傍に置いて戴けたらと思います。」
「サブロー殿は、それを望んで居られないかも知れんぞい。」
「はい、それでも私は一目お逢いして、お話したいのです。」
「ふむ、どうやら決意は変わらぬ様じゃな、
サブローのヤツめ、
これ程の美しいお嬢さんに、ここまで言わせるとは、
真に持って、けしからんヤツじゃな。」
「ヴィン爺ぃ様、サブロー様をご存じなんですか!?」
「うむ、あやつはワシの弟子じゃよ。」
「ええ!?サブロー様がですか!?」
「そうじゃ、皇国の連中は気付けなかった様じゃが、
あやつは才能の塊じゃったからのう、
単純な力で言えば、既に師匠のワシを超えて居るぞい。」
「あのサブロー様がそれ程の・・・
それで、サブロー様は今どちらに?」
「ワシの修行を終えたので、ルクシア共和国に向かったと思うぞい、
ここからルクシアまでは一本道だから、
街毎に聞いていけば何らかの手掛かりが掴めるじゃろう。」
「そうですか、分かりました。
ありがとうございます。」
「ときにミルキィさん、
ワシも久しぶりに弟子の顔を見たくなったので、
旅にご一緒させて戴く訳には、いかんかのう?」
「私は構いませんが、宜しいでしょうか?エルザさん。」
「ええ、ヴィンセント殿程の魔法使いが一緒なら、
旅路も心強いですからね。」
「では、ヴィン爺ぃ様、ご一緒しましょう。」
「ほう、宜しく頼むぞい。」




