魔法
夕方になってヴィン爺が迎えに来た。
「むっ、サブローよ、どこに居るのだ?」
「ここだよ、ヴィン爺。」
「おおっ!見事な隠密じゃな、
ワシでも分からんかったぞい。」
「ああ、ある意味悟りの境地に達したからね。」
「どうしたんじゃ?」
「それが・・・」
俺は、今日の出来事をヴィン爺に語った。
「そうじゃったな、結界の解き方を教えていなかったのう、
しかし、この結界は地中までは及んでいないから、
穴を掘れば出られたんじゃがな。」
「それに気付いたのは、穴を掘って用を足した後だったんだよ。」
「なる程のう、それは済まんかったのう、
だが、隠密は身に付いたようじゃから良しとしようぞ、
それで、気配察知はどうじゃ?」
「そっちも習得したよ。」
「では、明日は次の修行に入るとするかのう。」
「うん、分かったよヴィン爺。」
次の日からの3日間で、
足音を発てない様に走る修行や、
段々と高い所に飛びあがっては、音を発てずに飛び降りる修行、
石や投剣などを的に当てる修行を積んで、
俺はシーフの職業を手に入れた。
職業を手に入れる効果は絶大で、
俺は、シーフになったとたん、
今までの修行で身に付けた技術が段違いに進化した。
「どうやら、無事にシーフに成れたようじゃのう。」
「うん、ありがとうヴィン爺。
次は、錬金術と鍛冶の、どっちをやるの?」
「いや、この前の結界みたいな事もあるから、
先に魔法を身に付けるとしようぞ。」
「やった!ついに俺も魔法が使えるんだね。」
「サブローなら大丈夫じゃと思うが、
中には使えん者も居るから、まだ分からんぞい。」
「そっか~、使えたら良いな~。」
「そうじゃのう。」
次の日から俺は魔法の修行に入った。
「まずは、そこに座って魔力を感じる事から始めるぞい。」
「分かったよヴィン爺。」
俺は床に胡坐を掻いて座った。
「魔力は臍の下から発して、体内をグルリと一周してから、
また元の場所に帰ってくるんじゃ。」
(へえ~、血流みたいなもんかな?)
「体を魔力が巡っておるのを感じ取れるかのう?」
俺は臍の下からの流れを意識してみる、
すると、何か温かいものが体を巡っているのに気付いた。
「体の中を周っている温かいヤツの事かな?」
「そうじゃ!それが魔力じゃよ。
次は、右の掌を上に向けて、
流れの一部を放出するようにイメージしてみるのじゃ。」
俺はヴィン爺に言われた通りに、
右掌を上に向けて魔力を放出するようにイメージしてみた。
「おおっ!何か手が光ってるんだけど・・・」
「うむ、サブローの魔力は質も量も十分じゃぞい、
これなら、優秀な魔法使いに成れるじゃろうて。」
「やったぜ!」
「うむ、次は外に出てやるぞい。」
「分かった。」
俺たちは小屋から外に出た。
「まずは的から作るかのう、『土壁』・・・良し。」
ヴィン爺が呪文を唱えると縦横2メートル程の、
土の壁が出来上がった。
「まずは右掌に火の玉を作る様にイメージしてみるのじゃ。」
俺は言われた通りにイメージしてみると、
右掌の上にバスケットボールぐらいの大きさの火の玉が出た。
「あの、土壁に飛ばしてみるぞい。」
「うん。」
俺は、火の玉が壁に飛ぶようにイメージすると、
火の玉は飛んでいって壁を焦がした。
「今のは、サブローのイメージが漠然としていたから、
大した威力が出なかったのじゃ、
次は火の玉を小さく収束するイメージでやってみい。」
「うん。」
俺は、火の玉が、さっきより収束する様にイメージしてみる、
すると、野球のボールぐらいの大きさの火の玉が現われた。
「また、土壁に飛ばしてみるんじゃ。」
俺は、火の玉を土壁に飛ばした。
ボムッ!
すると、今度は土壁に大きな穴が開いた。
「それで、良いんじゃサブロー、
では、何個か土壁を作っておくから、他の魔法も練習してみるんじゃ。」
ヴィン爺は十個程の土壁を作ってから小屋へと帰って行った。
俺は、ヴィン爺に言われた通りに、
氷の矢や、土の弾丸などをイメージしては土壁に放って行った。
「う~ん、やっぱり拳銃の弾丸みたいに、
少し回転を与えた方が威力が上がるかな?」
俺は、地面に落ちていた石を銃弾みたいな形にすると、
回転を加えて土壁に飛ばしてみた。
チュド~ン!
土壁は粉々に消し飛んで、後ろの立木が何本か折れていた。
大きな音に驚いたヴィン爺が小屋から飛んで来た。
「今の音は何じゃ!
これは・・・サブロー、何をしたのじゃ。」
ヴィン爺は、この惨状を見て絶句している。
俺は、地球の武器をイメージして魔法を使った事を説明した。
「なる程のう、その発想は、この世界では出てこんのう、
いいかサブローよ、お主の魔法は強力すぎるからのう、
この世界の者には決して教えてはならんぞい。」
「分かったよヴィン爺。」