シムラ
「お頭、時間です。」
「う、う~ん、ママあと5分だけ・・・」
「誰がママですか、ネタは良いから早く起きて下さい。」
「お約束ってヤツじゃん、一度やってみたかったんだよ、
俺の母親は、昼過ぎまで寝てても何も言わなかったからな。」
「それは、かなりの放任主義の方ですね。」
「放っておかれると自分で起きる様になるから不思議だよな。」
「そんなもんですかね・・・
では、お頭、後はお願いしますね、くれぐれも静かにお願いします。」
「あ~、熱湯風呂的なアレな。」
「熱湯風呂が何かは分かりませんが、静かに番をして下さい。」
「ハイハイ、お休み。」
「「お休みなさい、お頭。」」
「さて、また寝ずの番だな、焚火を消えない様にしてっと・・・」
サスケは、焚火の横に置いた丸太に腰掛けて、
炎が小さくなった焚火に小枝をくべた。
「・・・・・・・・・。」
周囲を夜の闇が包み込んで、
静寂の中に焚火のパチパチという音が響くのみだ。
サッ!
サスケは、後ろから視線を感じた様な気がして、
素早く振り返って見るが、当然そこには誰も居ない。
「まあ、そうだよな・・・。」
サッ!
サスケは、丸太に座ると見せ掛けて、
再び素早く振り向いて見るが、やはり誰も居ない。
「おかしいな・・・
俺の頭の中には、誰かが『サスケ、後ろ!後ろ!』って教えているのが、
聞こえていたんだがな。」
サスケは、丸太に腰掛けながら、たまに後ろを振り向いていたが、
良い方法を閃いた。
「そうだ、いちいち振り向くのも面倒だから、
鏡でも作ってみるか、『造形』『加工』『研磨』」
サスケは、『魔倉』から鉄と銀を取り出して、
鉄で姿見の様な形を作って、表面に銀でコーティングを施した。
「よしよし、これを正面に置けば、
いちいち振り返らなくて済むぞ。」
サスケは、時どき焚火の様子を見ながら、
正面に置いた鏡に映った自分と向き合っている。
「俺って、こんな顔だったかな・・・」
サスケが、右手を上げると、同じ様に鏡の中のサスケも上げている、
何度かフェイントを入れながら確かめて漸く安心したようだ。
「大丈夫みたいだな・・・あっ!」
焚火の炎の揺らぎが造り出した影が、
背後で何かが動いた様な錯覚を作り出したのだ。
サスケは、サッ!と背後を振り返ってキョロキョロと探してみるが、
特別、変わったものは見られなかった。
「ふうっ、気のせいか・・・うわっ!」
サスケは、背後に異常が無いのを確認して、
焚火に向き直った際に、鏡に映った自分に驚いたのだ。
「何だ、俺か。」
「お頭、さっきから何か騒がしいんですけど・・・」
「す、すまん、気を付けるよ。」
「お願いします。」
「いかん、いかん、何もしていないと余計な事を考えてしまうから、
暇つぶしにポエムでも考えてみるかな。」
変なテンションになっているサスケは、
『魔倉』から自作のノートと筆記具を取り出して、
心の命じるままに書き始めた。
「ふう、俺の心の慟哭が表現された作品に仕上がったな、
一つ朗読してみるか、
ミルキィ、あなたを思うと俺の心に細波が起きる、
忍びは常に心を空にせねばならぬのに、
今、あなたは幸せに暮らしているのだろうか?
辛い思いをしているのでは無かろうかと考えてしまうんだ、
出来る事なら、あなたの傍で、ずっと守っていたかったけど、
今の俺は、遠い星空の下で、あなたの無事を唯祈る事しかできない、
ああ、ミルキィ、君に逢いたいよ、ミルキィ、ミ・ル・キ・ィ~!」
「「「「「「「「うるさ~い!」」」」」」」」
「す、すまん、思わず気持ちが高まってしまったんだ。
以後、気を付けるよ。」
「ご主人さま、私が話し相手になりましょうか?」
いつの間にか、スクルが馬車から降りて来ていた様だ。
「子供が夜更かしするのは感心しないぞ。」
「もう、私は子供じゃ無いです。」
「この国じゃ15歳で成人なんだっけ?
じゃあ13歳のスクルは、そこそこ大人扱いされてるのか?」
サスケは、鏡を『魔倉』に仕舞い込むと、
正面の丸太にスクルを腰掛けさせた。
「ご主人さまの国では15歳じゃ無いんですか?」
「ああ、俺が生まれ育った国では、20歳で成人だったんだよ。」
「20歳になるまでは何してるんですか?」
「大概は学校で勉強しているな。」
「学校って貴族様が通っている、あの学校ですか?」
「ああ、俺の国では貴族じゃなくても通えたんだ。」
「は~、そんな凄い国も、あるんですね。」
「スクルも学校に行きたかったか?」
「いえ、友達も皆、小さな頃から働いていましたし、
早く一人前になって、お母さんを助けたかったから、
考えた事もありませんでした。」
「そうか、行かない方が普通だもんな。」
「ご主人さまも通っていたんですか?」
「ああ、この国に来るまでは通ってたな。」
「学校って楽しかったですか?」
「いいや、俺は全然楽しく無かったな、
いつも、ここから逃げ出したいってばかり考えていたんだ。」
「そうですか、じゃあ今の生活は、いかがですか?」
「まあまあ、気に入っているかな。」
「それは、良かったです。
私も、あなたを選んだ甲斐がありました。」
「それって、どう言う・・・」
サスケは、突然、睡魔に襲われて、寝入ってしまった様だ。
「・・・頭、・・て・・さい・・お頭、
起きて下さい、お頭!」
「う、う~ん、あれ俺、寝ちゃったのか?」
「ダメじゃないですか、お頭、
寝ずの番が寝ていたら、魔獣が来た時に危ないですよ。」
「ああ、ごめんごめん、スクルと話していたら、
いつの間にか寝ちゃったみたいだ。」
「何を言ってるんですか?
スクルなら、冒険の話が聞きたいと言っていたんで、
昨日の夜から、私たちの馬車で一緒に寝ていましたよ。」
「えっ!?夜中に起きて来てたろ?」
「いいえ、私の隣で寝ていたから、置き出したら気付きますもの。」
「じゃあ、あの会話も夢だったのか?」
サスケは、ふと足元に落ちているポエムノートに気付いて拾い上げた。
「何じゃ、こりゃ~!」
サスケが綴った魂の詩に、赤ペンで△が書いてあって、
下の方に『30点次回に期待する。』と書いてあった。




