山小屋
「まずは下準備からだな・・・」
サスケは、人里離れた山奥に居た。
忍者刀を構えると、
スパスパと周りの木を伐り始める、
忍者刀の刀身は70センチ程なのだが、
1メートルを超える太さの木を造作もなく切り倒している、
しばらく作業を続けると、縦・横50メートル程の空間が出来た。
「伐採は、こんなもんで良いかな、
仕上げは魔法で『整地』っと、よし更地になったな、
次は建物か・・・
伐採した木を『乾燥』『加工』『建築』っと、魔法便利過ぎだろ。」
サスケの目の前に、4~5人は暮らせそうな山小屋が出来ていた。
「よし、準備の方は出来たから、捕まえて来るかな。」
ルクシア共和国から、フェルナリア皇国へと続く街道を、
一人の男が歩いている、
男は健脚の持ち主の様で、その歩みには少しの乱れも見られない、
その、乱れの無い足取りが唐突に止まった。
男が進んでいる方向に立ち塞がる者が居たからだ。
「あんたが、ホラレーさんで間違えが無いか?」
「ああ、確かに私の名前はホラレーだが、
貴公の顔に見覚えは無いと思うが違うか?」
「いいや、違わないぜ、俺とは初対面だ。
俺はサスケって言う冒険者だ、お初にお目に掛かる。」
「その、サスケ殿が、私に何の用かな?」
「実は、バビントン伯爵から伝言を頼まれてな。」
「バビントン伯爵?申し訳ないが、
そのような人物に聞き覚えは無いな。」
「なかなか上手く惚けたが、
伯爵の名前を聞いた瞬間に、目の鋭さが増したぜ。」
「ほう、サスケ殿は優れた観察眼をお持ちの様だ、
失くすのには惜しいお方だな。」
ホラレーは懐から短剣を取り出すと、
サスケに向かって構えた。
「俺を消すのは、かなり難しいと思うぜ。」
「そうかな?」
ホラレーが、突然、消え去った。
いや、余りにも高速で移動した為に消えた様に見えたのだ。
ホラレーが移動しながら、手に持った短剣をサスケに向かって投擲すると、
サスケの腹部に突き刺さった。
それを確認したホラレーは、
止めを刺すべく、懐から2本目の短剣を取り出すと、
サスケの後ろに回り込んで、
その喉笛を掻き切る、
「何!?」
ホラレーは、その異様な手応えに驚きの声を上げると、
サスケは、短剣が刺さった丸太へと姿を変えた。
「馬鹿なっ!?」
「シーフとしては中々だが、俺に傷を負わせるのは無理だな。」
「ぐうっ!」
ホラレーは背後からの声に、驚いて振り返ろうとしたが、
首に衝撃を感じて意識を手放した。
「よし、無事に確保完了っと、では山小屋まで『転移』」
サスケは、ホラレーを連れて山小屋に魔法で跳んだ。
「う・・・うん、ここは・・・?」
「お目覚めの様だな、ホラレーさん。」
「貴公は・・・サスケ殿だったな、ここは何処なのだ?」
「説明は無駄だから省かせてもらうぜ、『催眠』」
ホラレーの目から意思の光が消えた。
「ホラレーさん、幾つかの質問に答えて貰うぜ。」
「・・・はい。」
「お前の雇い主はバビントン伯爵か?」
「違う。」
「違うのか?では誰だ。」
「カムリ8世陛下だ。」
「何!?どう言う事だ?」
「私の仕事はバビントン・ボビンバン伯爵と、
ラッスンの街の領主オークシャ・テリア子爵とのやり取りを、
皇帝陛下にお伝えする事だ。」
「なる程、2重スパイって事か。」
「そうだ・・・」
「オークシャの手紙を出せ。」
ホラレーは、パンツに手を入れると手紙を取り出した。
「何て場所に隠してるんだ!?病気とか無いだろうな?」
「インキンタムシです。」
「アホかっ!『滅菌』『清浄』『消臭』こんなもんで大丈夫かな?」
サスケは人差し指と、親指で手紙を摘まんでクンクンと匂いを嗅いでいる。
「オークシャとバビントンは何とも無かったのか?」
「2人とも感染しました。」
「グッジョブ!!
良い仕事をしたホラレーさんのインキンは癒してやるぜ『完治』っと、
よし、俺が山小屋を出たら、ホラレーさんはしばらく猟師に職替えだぜ、
狩りや生活に必要な物は、全部揃っているから元気にやってくれよ。」
「サスケ殿が山小屋を出たら、私は猟師・・・」
「じゃあ、またな~。」
サスケが山小屋のドアを閉めた瞬間、
夢から覚めた様にホラレーはハッ!とした。
「うん?私は何をしていたんだ・・・
まあ良いか、晩飯でも狩りに行くかな。」
ホラレーは、弓と矢を携えて山小屋を後にした。
サスケはラッスンの街へと戻ると、
真っ直ぐ『豚の骨亭』へと向かった。
「ただいま~。」
「「「「お帰りなさい、お頭。」」」」
「「「「お帰りなさいませ、ご主人さま。」」」」
「領主の手紙は、ちゃんと手に入れたぜ、
そっちは、どうだった?」
「さすが、お頭です。
こちらの方は、怪しい行動をする料理人が2名ほど居りました。」
「よし、料理人は明日にでも尋問してみるか、
まずは手紙の中身からだな、封蝋がしてあるみたいだけど、
やっぱり壊さない方が良いのか?」
「はい、証拠品として扱うには、
偽造を疑われない為にも壊さない方が良いですね。」
「サンが、そう言うなら間違え無いな、
よし、『貫通』で良いかな?」
サスケが唱えると、封筒を貫通して手紙がポトリと出て来た。
「どれどれ・・・これは・・・。」
「お頭、いかがですか?」
「サン、これを読んでみろ。」
「・・・これは!?ルクシア共和国の今年度と来年度の、
他国との貿易予算と予算案ですか?」
「そうだ、それを知っていれば、
ルクシア共和国との貿易を優位に進められるからな、
領主は、そう言った情報を皇国に売り渡していたんだろうな。」
「とんでもない背信行為ですね。」
「そうだな、封蝋付きの封筒もある事だし、
後は、この手紙を誰に託せば良いかだな・・・」
「それに付きましては、私に心当たりがあります。グワッツ!」




