幕間3
フェルナリア皇国の皇帝カムリ8世は、
娘のミルキィ姫に告げた。
「ミルキィよ、お前とクロマーク公の挙式が1か月後に決まったぞ。」
「あれ程、取り止めて下さいと、お願い申し上げたのに、
お聞き届け頂けなかったのですね。」
「此度の結婚は、我が国が再び世界に名を馳せる為の、
第一歩だからな。」
「昔のお父様は、国民の暮らしをより良くするために頭を悩ませる、
尊敬できる方でした。
でも、今のお父様は国土を広げる事に夢中になっていて、
国民の声を聴かれていないと思います。」
「お前の方が分かっておらんな、
国土を広げて、国の力を強める事が、行く行くは国民の幸福となるのだ。」
「周辺諸国との、いざこざの所為で国民は疲労して、
農作物や生産物の生産性が低下しております。
今は外に目を向けるのではなく、国内の強化を図るべきではないでしょうか?」
「国民が疲労して働けないのならば、
亜人共を捕まえて来て働かせれば良いのだ。
亜人共が多く暮らす国を支配すれば、タダで働く労働力が手に入るぞ。」
「何と言う事を仰るんですか!
そんな事をすれば、我が国の守り神でいらっしゃる、
女神フェルナ様の罰が下りますよ。」
「我が国の危機に、何の慈悲も与えて下さらぬ女神が、
どれ程のものだと言うのだ。」
「女神様が慈悲を与えて下さらないのは、
お父様の行いが女神様の御心に反しているからでは御座いませんか?」
「何を言うのだ、勇者召喚は元々女神フェルナが始めた事だぞ、
勇者の力を世界統一に利用すると言う点でも、
勇者が統一するか、我が国が統一するかの違いだけだ。」
「特定の国が世界を支配するのは、大きな歪みを生むと思いませんか?」
「私が世界を手中に収めれば、
今より理想的な世界に出来ると確信しておるぞ。」
「お父様は、己の望みの所為で正常な判断が出来なくなっておられるのです。
世界を正しく導くには、
この世界に柵を持たない者でなくてはならないと、
私は思います。」
「それは、勇者の事を申しておるのか?
大体、お前も最初は勇者サブローの力に、
疑問を持っていたではないか。」
「ええ、最初はそうでした。
でも、それは私がサブロー様の一部しか見ていなかったからですわ、
サブロー様を理解する努力をして見れば、
そのお力が見えて来るのです。」
(そう、私が初めてサブロー様をお見かけしたのは、
勇者召喚されてから一週間程過ぎた辺りだったわね・・・)
「姫様!姫様!
筆頭魔術師のマネイタルネン様が勇者召喚に成功されたそうですわ!」
ミルキィ付きの女官であるマリィが声を弾ませて部屋に入って来る。
「マリィ、廊下を走ったりしたら、また女官長さまに叱られるわよ。」
「だって、勇者様が皇国に顕現されたんですよ、
これを走らずに、いつ走るんですか!」
「うふふふっ、マリィは勇者様の物語が好きですものね。」
「姫様、好きではなくて、大大だ~い好きです!」
「そう、それじゃ勇者様に、お逢い出来るのが楽しみね。」
「はい!と~っても楽しみです。
それに勇者様は、姫様の旦那様になられる方ですもん。」
「それはまだ分からないわよ、
勇者様が私を気に入って下さらないかも知れないし。」
「そんな事はありえませんよ、姫様ほどお綺麗な方を気に入らなかったら、
勇者様に嫁げる人はいません。」
「あら、分からないわよ、
勇者様がマリィを気に入って、お嫁さんにしたいって仰るかもよ。」
「わ、わ、わ、私なんかが気に入られる筈が無いですよ!
皇帝陛下も、勇者様と姫様のご結婚を望まれている事ですし。」
(そう、お父様は私と勇者様の結婚を望まれている、
特に昨年、跡継ぎとなる長男、私にとっての弟が生まれてからは、
その態度が顕著となった。)




