破壊と再生
「はいよ!モツ定3つね、アツアツだから注意して食べるんだよ」
フェルナリア皇国の城下の街にある食堂の、おばちゃんが、
トレイに乗せられたモツ煮定食を運んで来て、
サスケらの前へと並べた。
「ここの料理が、どれもアツアツなのは知ってるから大丈夫だぜ」
サスケが、そう、おばちゃんに返事を返す。
「あんたに、言ってるんじゃ無いよ!
そちらの、お嬢さんと、おチビちゃんに言ったのさ、
大体、あんたのツラの皮の厚さから考えれば、
どんな熱いもんでも平気な顔してカッ込むだろ」
「顔で食べるんじゃねぇんだから、ツラの皮は関係ないだろ!」
「クスクスクスクス」
「キキ~」
「ホラホラ、そんな事はどうでも良いから、
料理が冷めないウチに食べなよ」
「どうでも良いって・・・まあ良いか、
熱いから気を付けろって言ったり、冷める前に食べろって言ったり、
色々と注文が煩いけど、
ミルク、チビリン、食べようぜ、いただきま~す!」
「はい、いただきます。」
「キキッ!」
「おお~っ!コレだよコレ!
この味は、この店に来ないと味わえないんだよな」
「本当に美味しいですね!
内臓を使っているのに、全然臭みとか無いんですね」
「キキキ~!」
「チビリンも、ちょ~美味しいってさ」
「そうかい、そうかい、そうやって素直に美味しいって言ってくれるのが、
食堂をやってると、一番嬉しい言葉だよ」
「前に通っていた頃は分からなかったけれども、
このモツ煮込みって、色んな魔獣の、色んな部位が使われてるみたいだね」
「おや、あんた暫く見ないウチに、
随分と舌が肥えたみたいだね、
仰る通りに、この煮込みにはシモフーリボアやマッドパイソン、
それとホロホロ鳥のモツがミックスされているのさ」
「料理の秘密を教えちゃっても良いのか?」
「な~に、こんなのは秘密でもなんでも無いさ、
仕入れ先の肉屋に聞けば、直ぐにでも分かる事だからね、
要は、それらの材料を使って、
如何に調理をするのかが、店の秘伝なのさ」
「なる程な~、煮込む際に丁寧に灰汁取りをして、
臭みを消すのにジジャ草とシナモ草を使っているのは分かるんだけど、
モツの組み合わせの割合や、味付けの仕方が分かんないもんな~」
「食べただけで、それだけの事が分かれば大したもんさ、
そうだね~、あんた、中々料理の事が分かっている様だから、
この店秘伝のモツ煮込みのレシピを教えてあげても良いかね~」
「えっ!?そんな大事な事を教えちゃっても良いのか!?」
「ああ、実は調理場で調理をしているウチの主人と、
近々、この食堂を畳もうかって相談しててね、
この店の味を受け継いでくれる人が居るってだけでも嬉しいのさ」
「ええ~っ!?
見た所、お客さんも多いみたいだし、
繁盛してるみたいに見えるけど、
何で店仕舞いを、しなきゃならないんだ?」
「お客さんは変わらず来てくれているんだけど、
肝心の、料理に使う材料が手に入らなくなってきてるのさ、
あの、『魔王熱』の騒ぎがあった所為で、
国内の流通が滞っていただろ?
地方で、野菜や肉を扱っている生産者の連中も、
そのまま、腐らせちまう訳にも行かないもんだから、
多少、関税の分は損をするものの、
他国へと向かう商人へと、売る様になっちまったんだよ」
「この国の現状は、そこまで酷い事になっていたのか・・・
皇都でさえ、そんな状況なら、
地方の都市では、もっと酷い事になってるんだろうな」
「ああ、旅の行商人の話では、他国と領地を接している街や村では、
併合して貰えないかを企ててる所が、少なく無いって話だよ」
「長い事、暮らして来た国を好きで捨てる筈は無いんだし、
余程の、窮状に耐え兼ねてって事なんだろうな、
こりゃ、早急なテコ入れが必要な様だな・・・」
「ハハハ、まるで、あんたが何とか出来そうな口振りじゃないのさ」
「分からないぜ、タダの遊び人だった俺が、
ミルクみたいな嫁さんを連れて帰って来たんだ
次に顔を出す時は、この国を建て直した功労者として、
現れても不思議じゃ無いだろ?」
「ハハハ、違い無いね!
あんたが、あんなにキレイな娘さんを、
嫁さんに出来たなんて奇跡に比べれば、
この国を、昔みたいな豊かな国へ戻すなんて、なんて事は無いよね」
「そう言う事だよ、
近々、新しい国王も生まれるみたいだし、
もう少し、頑張って、この店を続けてみた方が良いんじゃ無いのか?」
「国王だって?この国で生まれるんだから皇帝じゃ無いのかい?
まあ、それはどっちでも良いか・・・
でも不思議だね、あんたにそう言われたら、
何だか、何とかなりそうな気がして来たよ、
私らも好きで、この店を畳みたい訳じゃ無いんだから、
もう少し頑張って様子を見てみる事とするかね」
「ああ、期待して待っててくれよ!」




