ハンターウルフ
『鳥の骨亭』に行って朝食を摂り、
昼飯用のお弁当を作って貰ったサスケは、
鍛冶に使う材料を探しに出掛ける事にした。
街の出口にある門の所で、
警備していたジョイケルに聞いてみた。
「おはようございます、ジョイケルさん。」
「おお、おはようサスケ。」
「ジョイケルさんに、お聞きしたいんですけど、
この辺で鉱石が出るか、昔に出ていた山ってありますかね?」
「そんな事調べてどうするんだ?
まあ、どうでも良いけどよ、
街から東に20キロ程行った場所にタナボタ山って山があるんだけどよ、
そこで、昔、良質の鉄が採れたって聞いた事があるな、
全部、掘り尽くしちゃって今じゃ廃坑になっているがな。」
「そうなんですか、ありがとうございます。
俺は趣味で鍛冶の真似事をやってるんで、
少しぐらい鉱物が出ないかと思いまして。」
「そうなのか、何か出ると良いな、
大した魔獣は居ないと思うが、気を付けて行けよ。」
「はい、気を付けて行ってきます。」
サスケは『俊足』の魔法を使ったので、
20キロ程離れたタナボタ山に1時間で到着する事が出来た。
途中で気配察知に魔獣の反応が何度かあったが、
今日の目的は魔獣狩りでは無いので、やり過ごした。
「よし、最初は大まかに鉱石で『感知』と、
う~ん、割と地下深い所に何かあるみたいだな。」
サスケは『採掘』の魔法をつかって地下の鉱石を掘り出してみた。
「これが鉱石なのか、『抽出』『結合』
よし、何本かインゴットが出来たぞ、
『鑑定』・・・ふ~ん、黒魔鋼って言うのか、
魔力との親和性が高く、
この金属で作った剣は魔力を通すと切れ味が増す。か、
こりゃ、なかなか良さそうな金属だな。」
サスケは、その後も鉱石の採掘を続けて、
黒魔鋼の他にも、鉄、青銅、琥珀金なども入手出来た。
「廃坑って言う割には、結構掘り残しがあったな、
地中の感知魔法を使える人が居なかったのかな?」
考えていたより沢山の収穫があったサスケは、
ホクホク気分のまま、昼食を食べる事にした。
『鳥の骨亭』の特製弁当を平らげてから、
『魔倉』に入れてあった熱々のお茶を飲んでいると、
常時展開してある『気配察知』に、
複数の魔獣と、数人の人らしき反応があった。
「こりゃ、魔獣の襲撃でも受けているのか?
冒険者仲間だったら、助けて恩を売っとけば良い事あるかな、
よっしゃ、いっちょ腹ごなしに行ってみるか。」
サスケは気配を辿って行ってみる事にする。
山を下りて、平地に出ると、
遠くの方で土煙が上がっているのが見えたので、
「あっちの方か、よし『俊足』」と唱えて追いかけ始める、
段々近づいてくると、状況が分かり始めて来た。
逃げる馬車と、護衛らしき傭兵が乗った4頭の馬、
それを追う30匹程のハンターウルフが見える、
ハンターウルフは一匹では大した強さでは無いのだが、
群れで狩りを行う習性があるので、
群れの数によっては大きな脅威になるのだ。
「馬車の荷台が檻みたいになってるから奴隷商人の馬車か、
傭兵たちはソコソコやるようだけど、
あのハンターウルフの数じゃ、狩られるのは時間の問題だな、
まあ、冒険者じゃないなら見捨てる事にするか。」
サスケは山に帰って、他に目ぼしい物でも探そうとしたが、
ピタッと立ち止まって振り返った。
「まてよ、こう言う場合は、
馬車の檻にカワイ子チャンが乗ってるパターンが考えられるよな、
一応、確かめてみるか、『望遠』っと・・・えっ!?
何で、あいつらが奴隷になってんだ!?」
サスケが、すぐさま馬車の後を追い始めると、
『俊足』の効果で、みるみると近づいて来た。
「よし、ハンターウルフを少し減らしておくかな、
奴隷商の護衛なんてしてるから、こんな目に遭うんだぜ。」
サスケは、懐から手裏剣を取り出すと、
傭兵たちが乗っている馬の脚へと投擲する、
馬ごと転倒した傭兵たちにハンターウルフが殺到していった。
「よしよし、大分減らせたな、
後は奴隷商と交渉してから始末するかな。」
サスケは走るスピードを上げて、馬車の横に並んで、
馬車を操っている奴隷商に話掛けた。
「おい!」
「なっ、何だお前は!?
何で馬車と同じ速度で走れるんだ!?」
「それは、俺が優秀な冒険者で、速く走れるスキルを持ってるからだ。」
「冒険者が何の用だ!」
「あんたが、ハンターウルフから助けてくれっていう、
依頼をするんじゃないかと思って駈け付けたんだ。」
「うちには傭兵たちが居るから必要ないな。」
「その傭兵たちなら、もうハンターウルフにやられちまったぜ。」
「何!?」
奴隷商は馬車の後ろを見て確かめると、
そこには傭兵たちの姿は無く、8匹のハンターウルフが追いかけて来ていた。
「一体、いつの間に・・・」
「これで、分かったろ、
どうだ依頼をするかい?」
「依頼をするとして、報酬はどうするんだ?」
「後ろの馬車に乗っている奴隷を戴く。」
「ばっ、馬鹿を言うな!
こいつらは優秀な戦闘奴隷だぞ、
おいそれと、お前なぞにやれる筈が無いだろう!」
「命あっての物種だろ、別にあんたがハンターウルフに食われてから、
奴隷だけ助けても良いんだぜ。」
「それは・・・しかし・・・」
奴隷商は逡巡している様子だ。
決心し易くしてあげようと思い、
サスケは奴隷商に気付かれないように、
馬車の車輪に向けてクナイを放った。
ガガッ!と音を発てて車輪が欠けて、
バランスが悪くなった馬車はガクンと速度が落ちた。
みるみる近づいて来るハンターウルフを見て、
奴隷商も、ようやく決心が付いたようだ、
「わ、分かった!
奴隷を渡すから助けてくれ!」
「よし、契約成立だな。」
サスケは馬車の御者台に飛び乗ると、
契約用の用紙を取り出して内容を記載して、
奴隷商にサインと血判を押させてから懐に仕舞った。
「じゃあ、ハンターウルフを始末するから、馬車を止めろ。」
「と、止めて大丈夫なのか?」
「ああ、ハンターウルフぐらいなら100匹居ても楽勝だぜ。」
余りにもサスケが自信たっぷりに言うので、
奴隷商も信じたようで馬車を止めた。
「よっ!」
サスケは、掛け声と共に御者台から飛び降りると、
クナイを投擲して4匹仕留めて、
残り4匹は忍者刀で瞬殺した。
「まさか、一瞬でとは・・・」
奴隷商は、
傭兵たちが、あれ程苦労していたハンターウルフを瞬殺したサスケを見て、
その力量に感じ入った。
「よし終わったぜ、約束の奴隷たちは戴くからな。」
「はい、分かりました。
私は、ラッスンの街で奴隷商を営んでおりますカモネーギと申す者です。
まだ奴隷がご必要でしたら、その際は、ぜひお声掛け下さい。」
カモネーギは、サスケの実力を垣間見て、
味方に付けた方が得になると判断した。
「分かった。
俺はピロンで冒険者をやっているサスケだ、
奴隷は、おいおい増やしていく予定なんで、
その内、尋ねて行くと思う。」
「サスケ様ですね、お待ちしております。」




