旅立ちの朝
「それでは、前に話した通りに、
革鎧に黒魔鋼の板を入れる技術は、
広めても構わんのじゃな」
ピッカリーが確認をして来た。
「ええ、それで構いません、
あと剣の方は、その内、造り方に気付く者が現われるかも知れませんが、
それまでは、ピッカリーさんが信用出来る人だけに、
して置いて下さい。」
「うむ、分かったぞい」
「では、そろそろ失礼します。
明朝、マッスル王国へと向かいますので、
ここで、お別れとなりますが、
色々と相談に乗って頂きまして、ありがとう御座いました。
とても、勉強になりました。」
「お世話になりました。」
「うむ、こちらも若い衆の、
自由な発想力で刺激を与えて貰い、
中々に楽しい時間を送れたぞい、
ライやリーナ達に、宜しく伝えてくれるかのう」
「はい、分かりました。」
そして、サスケとミルクは、ピッカリーの店を後にして、
宿へと戻った。
タナーカの街で迎える最後の夜、
サスケ達は、宿泊している『馬の骨亭』のシェフである、
テツジーンのご馳走に舌鼓を打つと、
明朝の出発に備えて、早めに就寝した。
そして、迎えた翌朝、
サリエは予定通りに、
時間に遅れる事無く『馬の骨亭』へと顔を出した。
「お早う御座います。サスケ様、ミルク様、皆さん」
「おう、お早う」
「お早う御座います。サリエさん」
「「「「お早う御座いま~す!」」」」
「キキ~!」
「荷物は馬車に積み込めば宜しいでしょうか?」
「おう、後ろの荷台の空いてる場所に、
適当に積み込めば良いぞ、
うん?今朝は一人なのか?」
「はい、父と母には、
家から出る時に、別れの挨拶を済ませました。」
「そうか、じゃあ荷物を積み終えたら、
皆と一緒に、馬車に乗り込んでくれるか」
サスケが、馬車の御者台に登りながら言う
「サスケ様が、馬車の操車を為さるんですか?」
「ああ、偶には馬を動かさないと、
勘が鈍るからな、
俺は貴族に成ったとはいえ、
現役の冒険者でもあるのだから、
馬に乗ったり、馬車を操ったり出来なきゃ失格なんだよ」
「なる程、そういう訳ですか」
サリエは、納得すると馬車へと乗り込んだ。
「そんじゃ、出発するかな」
「はい、出発進行!」
「キキッ!」
サスケの出発の言葉に、
先に御者台へと乗り込んでいた
タンポポとチビリンが返事を返した。
「お早う御座います。」
サスケは、街の入り口で警備に当たっている兵士に、
声を掛けた。
「ああ、お早う御座います。
もう、お帰りなんですか?」
兵士は、偶々であろうが、
サスケ達が、この街を訪れた時と、
同じ人物が勤めていた。
「ええ、この街での予定を、
全て終える事が出来ましたので」
「そうですか、
この街は如何でしたか?」
「人々や、お店などのバラエティーが豊かで、
楽しい一時を過ごさせて頂きました。」
「そうですか、それは良かったです。」
「では、お世話になりました。
これで、失礼します。」
「ええ、お気を付けて、
お帰り下さい。」
こうして、サスケ一行は、
アルビナ王国にある、タナーカの街に別れを告げて、
次なる目的地の、マッスル王国へ向けて出発した。
「サスケ様、マッスル王国へは、
何をする為に向かわれるのですか?」
馬車の中からサリエが質問して来た。
「ああ、マッスル王国のライ国王は、
俺と同郷なもんで懇意にして頂いているんだよ、
奥方のルクレツェア様も、ミルクの幼馴染だしな」
「そうなんですか、ライ国王様と仰ると、
『雷撃の勇者様』ですよね、凄いですね、
そんな、お方とお知り合いなんて・・・」
「ああ、勇者って言うと、
何か、恐れ多い感じがするかも知れないけど、
ご本人は、至って気さくな良い人だぞ、
それから、サリエが魔導具を造るのに、
雷魔法が付与された魔石が必要だったら、
ライさんに頼めば、優先的に融通してくれるぞ」
「ホントですか!?
それは、とても嬉しいです!
雷魔法の魔石は品薄なので、
中々手に入りにくいんですよ」
「まあ、そりゃそうだろうな~、
この世界で雷魔法が使えるのは、
今のところ、ライさんしか居ないんだからな、
その内、暇が出来たら、
発電機でも造ってみて、魔石に電気がチャージ出来ないかを、
調べてみるかな」
「サスケ様、ハツデンキというのは何でしょうか?」
「ああ、発電機っていうのは、
電気を作り出す道具だな、
ちなみに、雷も電気の種類の一つだ」
「雷を作れるんですか!?」
「いや、雷ほどの大きな力は生み出せないけど、
魔導具に必要な程度なら作れるぞ」
「雷魔法の魔石を、魔導具に使う場合は、
その強い力を、如何に小さくするかが、
何時も問題となりますので、
それは、却って好都合ですね、
サスケ様、そのハツデンキを造られる際は、
是非!私にもお手伝いさせて下さいね」
「お、おう、分かったよ」