新規格
「じゃあ俺達は、これで失礼します。
先程、お話した通りに、
明日の朝、タナーカの街を発ちますから、
サリエさんの準備を整えて置いて下さい。」
「サリエさん、また明日ね」
一通りの話し合いを終えたので、
サスケとミルクは、別れの挨拶をした。
「態々、ご足労を頂きまして、ありがとう御座いました。サスケ様、ミルク様、
娘に準備はシッカリとさせて置きますので、
明日は、お願いします。」
「娘を宜しくお願いします。」
「明朝は、間違い無く遅れない様に、
宿の方へと伺いますので、
宜しくお願いします。」
挨拶を終えたサスケとミルクは、
『マジカルショップ・マユツバ』を後にした。
「明日、この街を出る事だし、
この足でピッカリーさんにも、
挨拶して来ても良いか?ミルク」
「ええ、ご一緒致しますわ」
「あの、オッサンはホントに・・・」
ピッカリーの店へと着いたサスケの視線の先には、
店の看板の下に板が継ぎ足されていて、
『英雄と業務提携しました。』と書かれていた。
「まあ、サスケさんが技術提供したのに、
間違いはありませんからね」
「そりゃ、そうなんだが、
ピッカリーさんの腕前なら、誰かの名前に乗っからなくても、
十分に売れると思うんだけどな」
「だからじゃ、ありませんか」
「どういう事だ?」
「優れた腕を持った職人という方達は、
その、お客さんも一流の方達ばかり思われがちだと思うんですよ、
だから、ピッカリー様は態と世俗的に見せる事で、
その垣根を低くなさろうと、されているのでは、
ありませんか?」
「なる程な、確かに、
あの、チャラい看板を見たら、
若い冒険者なんかでも店に、入り易いか・・・」
「ええ、そうだと思いますよ」
「そういう事なら、まあ、
宣伝に使われたところでも、構わないかな」
「はい、ライ様達も、
同じ考えでいらっしゃるのだと思いますわ」
「それもそうか、ピッカリーさんが売り上げを上げる為だけに、
あの看板を店に掲げてるんだとしたら、
真っ先に、娘のリーナさんからクレームが入りそうだもんな」
「私も、そう思います。」
「良し!これはこれで良しとして、
ピッカリーさんに挨拶に行くとするか」
「はい」
サスケとミルクが、
ピッカリーの、店の入り口のドアを開けて中へと入ると、
店番は誰も居なく、
奥の作業場からカンカンと金属を打つ音が聞こえていた。
「こんちは~、ピッカリーさん居ますか?」
「御免下さいませ」
サスケらは、店の奥へと声を掛けてみる
「おう!その声はサスケさんと、ミルクさんかのう、
今、この作業を終わらせてから行くから、
ちょっと待っててくれぞい」
作業場の方から、ピッカリーの返事が返ってきた。
「はい、分かりました。」
「ここで、お待ちして居ります。」
2人が暫く、そこで待っていると、
作業場の方から、剣と革鎧を手にしたピッカリーが、
やって来た。
「いらっしゃい、お二人さん、
これらを作っていたもんで、手が離せなくてのう、
待たせて済まんかったぞい」
「いえ、どうぞ、お気になさらずに、
鍛冶仕事が、途中で止められない事は、
十分に承知していますから、
それはそうと、ピッカリーさんが手にされているのは、
もしかして・・・」
「ああ、さっそくじゃが、
あの、剣と革鎧を作ってみたんじゃ、
技術発案者として、出来栄えの方を確かめてくれるかのう」
ピッカリーが、その手に持った
剣と革鎧を、差し出しながらサスケに言った。
「ええ、喜んで拝見させて頂きます。」
サスケは、受け取りながら、
そう告げると、
革鎧の方を店のカウンターの上に置いてから、
剣を鞘から抜いて、
剣先を天井に向けて掲げて見た。
「どんなもんじゃ?」
「ええ、流石はピッカリーさんですね、
俺が、付け焼刃で打った剣とは、
段違いの出来栄えです。
俺が打った剣は、同じ材質の黒魔鋼製の鎧なんかを切ったら、
刃毀れするか、折れるかだと思いますけど、
この剣なら、刃毀れ一つしないで切れますね」
「まあ、そうじゃろうな」
「正直、ピッカリーさんの、
その腕前に感動する反面、
自分の腑甲斐無さが悔しいです。」
「な~に、サスケさんは、
まだまだ若いんじゃ、その発想力と気概さえあれば、
直ぐに、ワシなんか追い越すぞい」
「はい、いつの日か、
そう成れる様に、今後も精進致します。」
「うむ、そうじゃな、
それで、次に革鎧の方の出来は、
どうかのう?」
「はい、拝見させて頂きます。」
サスケは、剣を鞘に納めて置くと、
次は革鎧を、その手に取った。
「革は、この辺りでは割と一般的に使われとる、
鋼殻トカゲの物を使ってみたんじゃよ」
「そうなんですか、
この革鎧の出来も良いですね、
思ってた様に、軽くて、
しなやかなんで、使い心地が良さそうです。」
「うむ、そうか、それは良かったぞい、
それで、その鎧には、
お主が言っていた通りに、心臓に当たる部分に、
薄く伸ばした黒魔鋼の板が入って居るんじゃが、
その、加工中に一つ気が付いた事があってのう、
黒魔鋼の板を薄く伸ばす際、あの剣を作る時の様に、
板に焼きを入れると、その強度が増す様なんじゃよ」
「そうなんですか?」
「うむ、あの剣を打っていて気が付いたんじゃが、
黒魔鋼は、普通に打つよりも、
焼きを入れた方が、より強度が増す様じゃったんじゃ、
そこで、革鎧に入れる薄い板を作る際に、
普通に打って薄く伸ばした物と、
焼きを入れた物の強度を確かめてみたところ、
焼きを入れた方が、かなり強いという結果になったんじゃよ」
「それは、凄い発見ですね」
「うむ、お蔭で、
より薄い板でも、同じ強度を出せる為、
それ程の軽量化が図れたという訳じゃな」
「やりましたね、ピッカリーさん」