幕間16
「お~寒っ寒っ、
こっちは異常無いよ」
「春先とはいえ、
まだまだ、朝晩は冷えるわね、
こちらも、異常無しだわ」
サスケ不在のコウガ領は、コウガの街にて、
街の外周を囲っている防護壁の上で、
警備に当たっていたサンとリンが、
お互いに異常が無いかの確認作業をしていた。
街の警備を担当している兵士達は居るものの、
サスケの不在中に、
師匠のヴィンセントや、ダンミーツらに何かあると、
問題となるので、
サン達や、レッドらは自発的に警備に当たっていた。
「しかし、お頭達の活躍で、
国通しの垣根が低くなってからと言うものの、
平和過ぎて、暇だよね」
リンが、この世界シエラザードの夜空に浮かぶ、
2つの月『光月』『闇月』を見上げながら、
サンに向けて話し掛けた。
ちなみに、2つの月の名前の由来は、
その見た目に起因するもので、
光月は白く、闇月は蒼く輝いている
「あら、平和で結構じゃないのよ」
リンの目線を追う形で、
同じく、2つの月を見上げながらサンが言葉を返した。
「平和なのは良いんだけどさ、
アタイら忍びの者は、
乱世にこそ活躍の場があると思わない?」
「フフフッ、暇なのは今の内だけよ、
これから、お頭は益々(ますます)大きくなって行かれる方だから、
それに伴って、配下の私達も忙しくなるわよ」
「それもそうか、
じゃあ、貴重な暇な時間を楽しんだ方が良いのかな?」
「ええ、そうしなさいな」
「そうだ!
今、月を見てたら思い出したんだけどさ、
前に、お頭と旅をしていた時に、
野営の夜番が、お頭と一緒の順番になった事があってさ、
その時、色んな話を聞いた中の一つなんだけど、
お頭が前に居た世界では、月に人が行ってたんだってさ」
「それって凄い事なの?
私達みたいな獣人は風魔法が使えないから、
分からないんだけれども、
飛行魔法が得意な人なんかは、
飛んで行けるんじゃないの?」
「うん、アタイも、
そう思ったんで、お頭に聞いてみたんだけど、
月って、空気が無いから、
魔法で飛んでいくのは無理なんだってさ」
「ええっ!?
空気が無い所に、どうやって行ったのよ?」
「空を飛ぶ船を作って、
その中に空気を溜めて行ったんだって」
「船の中の空気なんて、
直ぐに無くなっちゃうんじゃないの?」
「それがね、空気に強い力を掛けると、
小さく出来るらいいんだけど、
その、小さくした空気を沢山乗せて行ったんだってさ」
「へ~、お頭が前に居た世界って、
魔法が無いって言ってたわよね、
それじゃ、カガクとか言う技術が、
それを可能にしたって事なのかしら?」
「うん、そう言ってたよ」
「カガクって凄いわね」
「お頭は、魔法の方が凄いって言ってたけどね」
「何で?」
「カガクは道具が無いと使えないけど、
魔法は、自分の魔力を使って色々出来るからだってさ」
「まあ、確かに私達も、
魔力を使った身体強化が使えるから、
その気持ちは分かるわね」
「それでさ、さっきの話には続きがあって、
夜空を見ると、沢山の星が見えるじゃない?」
「まあ、数え切れない程にあるわね」
「あれだけの数があれば、
私達の暮らす星の他にも、
生き物が居る星があると思わない?」
「それは、そう言う事もあるかも知れないけど、
ちょっと待って、
私達も、夜空に見えている星みたいな物に、
住んでるって言うの?」
「そうなんだってさ、
地面を見てると、平らな場所に立ってる様に思えるんだけど、
実際には、月みたいに玉の形をした
大きな地面の上で暮らしてるんだって」
「そんな形をしていたら、
上に居る私達は良いけど、
反対側に居る人達は、
空に向かって落ちて行っちゃうんじゃ無いの?」
「玉の中心に向かって引っ張られているから、
大丈夫なんだってさ、
それと同じ様に、空気も地面の近くにあるんだって」
「へ~、そうなの、
まあ、お頭が、そう仰ってたなら本当なのね」
「うん、アタイも、
そう思ったんだ、
それで、もし他の星にも生き物が居た場合、
どんな姿をしてると思う?」
「う~ん、他の星の生き物か・・・
多分、虫みたいな姿かな?」
「えっ!?
何で、そう思ったの?」
「私達の世界でも環境に合わせて色んな場所で、
色んな種族が暮らしているけど、
中には生活出来ない程に、過酷な環境があるでしょ?
そういった場所でも、虫だけは順応して暮らしてるって、
聞いた事があるのよ」
「凄いよサン!
お頭の、暮らしてた世界でも、
他の星に、生き物が居たとしたら、
虫に似てるのでは?って言われていたんだってさ」
「やっぱり、考える事は、
世界が違えど一緒なのね」
「うん、あとネタ的な扱いらしいんだけど、
根強い人気があったのが、
タコ型の生物なんだって」
「タコって、
海に居る、あのタコの事?」
「うん、前に、
お頭がタコヤキって料理にして食べさせてくれたけど、
美味しかったよね」
「私は、食べさせる前に、
材料の姿を見せて置いて欲しかったわ」
「ああ、そう言えばサンは、
材料となったタコを見せられて、
悲鳴を上げていたわね」
「あの様なグロテスクな生き物が、
あの様な美味に変わるのだから、
料理というものは、奥が深いですね」
「それは、アタイも同感だな」
サンとリンが、その様な会話を交わしていた翌朝、
コウガの街から、
5キロ程離れた場所にある湖『ユーマ湖』にて、
サン達の同僚であるジュリーが釣り糸を垂れていた。
まだ早朝である為、
湖には、ジュリー以外の人影は無い、
何故、ジュリーがユーマ湖へと釣りに訪れたのかと言えば、
この湖で獲れるマス科の魚『ユーマ・トラウト』を使った
チャン・チャカ・チャン焼きを、
どうしても食べたくなったからだ、
チャン・チャカ・チャン焼きとは、
淡水に暮らす魚としては規格外に大きな、
ユーマ・トラウトを見たサスケが、
3枚に下したユーマ・トラウトと野菜を、
味噌ベースの味付けで蒸し焼きにした料理で、
密かにコウガの街の、名物料理と成りつつあった。
サスケと出会う前のジュリー達の食事といえば、
肉・肉・肉・肉・野菜・肉・肉・肉・肉・魚・肉・肉・肉・肉
といった感じであったが、
サスケらと生活する様になってから、
野菜や魚も、大分、食べる様になっていた。
キィィィィィィィ~ン!
「うん?」
心静かに釣り糸を垂れるジュリーの耳に、
聞きなれない金属音が聞こえて来る
「何の音だ?」
疑問の呟きをジュリーが洩らした瞬間
ドッボ~~~ン!
何らかの大きな物体が、ユーマ湖へと飛び込み、
その余波で、大きな津波が湖畔を襲った。
「・・・・・・・・。」
ザザ~ッと波が引いていった
ユーマ湖の湖畔には、
まだ、肌寒い春先の早朝の空気の中、
折れた釣竿を握った
全身ずぶ濡れのジュリーが、ただ佇むのみであった。




