ノーキン・ノーストレス
「ドベシ殿、お礼と言っては何ですが、
この剣を、お納め頂けますか?」
サスケは、『魔倉』から黒魔鋼製の剣を取り出すと、
ドベシ伯爵とサスケ達の間に置いてある、
テーブルの上に乗せた。
「うん?この剣は?」
「あの、アダマンタイトの剣には及びませんが、
私が造った黒魔鋼製の剣です。」
「ほう、サスケ殿が造られた剣ですか、
抜いてみても?」
「ええ、どうぞ」
「それでは、失礼して」
ドベシ伯爵は、サスケに断ると、
テーブルの上の剣を手に取って、
鞘から引き抜いて見た。
鞘から剣を抜いて、
剣先を天井へと向けて、それを眺めるドベシ伯爵の目には、
窓から差し込む光を受けて、
黒魔鋼独特の、黒く鈍い光を放つ、
武骨ながらも美しさを感じさせる剣が見えていた。
「これは、良い剣ですな、
手に持った瞬間にシックリと馴染みましたぞ、
うん?僅かな魔力の流れを感じますが、
これは、魔法剣ですかな?」
「はい、疲労回復と治癒の魔法を付与してありますので、
お疲れの時や、軽度の負傷を負われた時などに、
帯剣されていると回復します。」
「おおっ!それは助かりますな、
ありがたく、普段から帯剣させて頂きますぞ」
「ええ、その剣のコンセプトは、
普段使いに向いた剣ですから、
是非、普段からお使い下さい、
もし、使い込んだ末に破損でもした時は、
私が、責任を持って修理致しますので、
ドンドン使って下さいね」
「ハハハ、公爵閣下に剣の修理をして頂くとは、
恐れ多い事ですが、
それは、助かりますな」
「ええ、剣は使ってこその剣ですから、
遠慮なされずに言って下さい、
あと、その剣には、
もう一つの機能が付与してあるのですが、
その剣はドベシ殿がお使い頂けますか?」
「ええ、勿論の事、
私が使わせて頂きますが?」
「では、その剣に少し魔力を流してみて下さい。」
「剣に魔力を?
こうですかな・・・」
ドベシ伯爵は、剣に魔力を流してみた。
「ええ、それで結構です。
これで、その剣はドベシ殿専用となりました。」
「専用とは、どう言う事ですかな?」
「そのままの意味ですよ、
その剣の持つ、魔法効果が受けられるのはドベシ殿のみだし、
その剣にて、ドベシ殿を傷付ける事が出来なくなりました。」
「ほう、その様な事が出来るとは初耳ですな」
「ええ、俺のオリジナル魔法術式なんですよ、
魔法剣と言うと、高価な為に盗難に遭う事が多いそうなので、
盗んでも意味が無い様に、本人しか使えない剣を造ってみました。」
「ハハハ、それは面白い発想ですな、
確かに、個人にしか使えない魔法剣では、
盗んでも買い手が付きませんからな」
「ええ、それに盗まれた自分の剣で、
傷付けられても面白く無いですからね」
「おお、確かに武人としては、
その様な、情けない事態だけは避けたいものですな」
「ええ、その剣でドベシ殿を切り付けようとすると、
大きく反発するので、
敵がバランスを崩している内に、
反撃も出来ますよ」
「ほう、それは敵をワナに嵌めるのに使えそうですな」
「ええ、信頼の置ける側近の方のみに、
伝えておけば宜しいかと・・・」
「なる程、ご忠告感謝致しますぞ」
その日は、そのままビシバーシの街にある、
ドベシ伯爵の城にて、
歓待を受けた後に宿泊したサスケ一行は、
次の日の朝、
ビシバーシの街がある、ザドス王国を後にして、
次の目的地となっているアルビナ王国へと向かう旅路へと、
出発の運びとなった。
「それでは、これにて失礼します。
ドベシ殿、お世話になりました。」
「お世話になりました。」
「いやいや、大した持て成しも出来ずに恐縮ではあるが、
サスケ殿とは楽しい話を、色々とさせて頂いた。
奥方殿も、お気を付けて行かれよ」
「「「「お世話になりました!」」」」
「キキッ!」
「うむ、そなたらも、
サスケ殿や、奥方殿をシッカリと護るのだぞ」
「「「「はい!」」」」
「キキ~!」
「ハハハ、良し良し!」
こうして、サスケ達はビシバーシの街を後にした。
カタコトと進む馬車の御者台で、
珍しくサスケの横に腰掛けたミルクが、
サスケに話し掛ける、
「気持ちの良い、お方でしたね」
「ああ、伯父上なだけあって、
どこか、エルザさんに通ずるものがあったな」
「そう言われてみると、
確かに、サッパリとした性格などは、
良く似ていらっしゃいましたね」
「ああ、ザドス王様なんかも、
ドベシ殿と同じタイプなんだが、
ああ言うタイプの方達とは、
一緒に飲んでいる時でも、肩肘を張らないでいられるから、
とてもリラックス出来るな」
「ああ、分かる気がしますわ、
私もエルザさんと話していると、
お互いに、一国の王女であるという事を、
忘れる時がありますもの」
「そうそう、そんな感じだよな、
お互いの身分を、気にしないで付き合えるって感じ」
「サスケさんは英雄と成られてから、
中々(なかなか)、その様な方々(かたがた)と出会える機会が無かったので、
余計に、そう感じたのかも知れませんね」
「ああ、そうかもな、
ライさん達とも、暫く会ってないからな、
アルビナ王国の次には、
ライさんのマッスル王国へと向かう予定だから、
今から、楽しみだぜ」
「はい、本当に・・・」