封印された召喚者
「当時、何者かによって召喚された
勇者候補のイチロー様が目立った活躍をし始めていたのだが、
活動拠点がフェルナリア皇国であった事から、
皇国が召喚したのでは?との意見が多く囁かれていたのだ
そして各国は、皇国に遅れてなる者ぞとばかりに、
勇者候補の召喚を行い、
我が国によって召喚されたのがサイゾウ殿であったそうだ。」
「しかし、そなたらも知っての通り、
サイゾウ殿の職業がシーフ職であったのが悲劇の始まりであった
当時から、我がザドス王国は傭兵国家として名を馳せて居り、
その戦術は、正面から当たり、
それを撃破するのが誉とされていた事から、
速さを基調とした
奇襲攻撃を主とするサイゾウ殿の戦術が、
受け入れられる筈も無かったのだ。」
「次第にサイゾウ殿は孤立して行き、
有力な貴族の中には、
召喚そのものを無かった事として、
サイゾウ殿を謀殺してはとの、
強硬論を唱える者も少なからず居った様だ。」
「当時のザドス王の意見は、どうだったんですか?」
当時の貴族達の、余りにもの身勝手な振る舞いに、
憤ったサスケは尋ねずにはいられなかった。
「当時のザドス王としては、
自らの国が勝手に召喚しておいて、
その様な扱いは有るまいと思って居ったのだが、
このワシ程の武力を有して居らなかった当時の王は、
有力な貴族達に意見する事が出来なかったそうだ。」
「そうなんですか・・・」
「サイゾウ殿も身の危険を感じて居ったのであろうな、
そうした心の隙に入り込んだのが魔族であったのだ
サイゾウ殿に、安全な場所を提供する代わりに、
ザドス王国を内部から崩壊させる手引きを迫り、
これに、サイゾウ殿が了承したと聞いて居る」
「サイゾウ様が、自分から魔族に味方する筈なんか無い!」
「タンポポ、怒る事は後からでも出来るのだから、
今は、ザドス王様のお話を黙って聞く事としましょう。
ザドス王様、お話の途中で申し訳御座いませんでした。」
思わず大きな声を上げたタンポポを、
ヒナギクが嗜めた。
「うむ、良い、
そなたらの村を起こしたサイゾウ殿が、
魔族に組したと言われれば、怒るのは当然だからな、
しかし、代々(だいだい)の王に伝わっている話では、
サイゾウ殿は、一時的に魔族に組して居った様であるな、
そして、ザドス王国への内部工作を行う寸前に、
ザドス王らに、魔族の暗躍を警告してから、姿を消したとの事だ」
「それは、魔族に味方すると見せかけて、
内部情報を調べていたという事ですかね?」
サスケが尋ねた。
「さあな、今となっては分からんな、
そして、姿を消したサイゾウ殿は、
裏切り者として魔族に殺されたとか、
自らを悲観して命を絶った
などと噂された後に、
ザドス王国の汚点として、無かった事として処理されたのだ。」
「そんな・・・」
「酷い・・・」
「うむ、その様な酷い事が、
罷り通った時代でもあったのだな、
しかし、サイゾウ殿に対して、
大きな負い目を感じて居ったザドス王は、
今後、この様な事態を引き起こさない様に、
次代の王のみへと語り継いでおいたのだ。」
「そう言う訳だったのですね」
「でも、サイゾウ様が魔族に味方したなんて・・・」
「タンポポ、ちょっと良いか、
俺もサイゾウ様と同じ地球から召喚されたから分かるんだが、
サイゾウ様に取っての魔族とは、
別に禁忌するべき存在なんかじゃ無かったと思うぞ」
「そうなんですか?
サスケ様。」
「ああ、地球から来た俺達に取っては、
人族も魔族も獣人族も、等しく異世界の人々さ、
だから、当時のサイゾウ様に取っても、
その時の魔族は、自分を苦境から救い出してくれる存在としてしか、
認識して居なかったと思うぞ」
「では何故、
ザドス王様らに魔族の事を話したのでしょうか?」
「それは、サイゾウ様に聞かなきゃ分からないけど、
もしかすると、誰からか当時の魔族の在り方に付いて聞いたのかも、
知れないな」
「なる程、知らずに破壊活動へと加担していたと知って、
それを告げてから、姿を消したという訳ですね」
「まあ、そんな所だろうな・・・」
「その、死んだと思われて居ったサイゾウ殿が、
まさか皇国へと渡り、村を築いて居られたとはな、
正しく、青天の霹靂であるな」
「ええ、並大抵の苦労では無かったでしょうね」
「その村を、サスケ殿は、
ご領地としたとの事であったな、
今後、サスケ殿に何か困った事が生じた場合、
我がザドス王国は、全面的に協力する事を約束するぞ」
「俺は、サイゾウ様じゃ無いんですよ?」
「分かって居る、
しかし、サスケ殿を手助けする事が、
サイゾウ殿が起こした村の者らの助けとなる事も事実だ」
「まあ、それは、
そうなんですけど・・・」
「な~に、
長きに渡り、我が国が抱え込んで居った罪に対しての、
罪滅ぼしと言ったところであるのだから、
サスケ殿も、協力してくれんかの」
「そうですか・・・分かりました。
もし何か、あった時は相談させて頂きます。」
「うむ、遠慮せずに、
何でも申してくれよ」