観光地名物
「なあ、タンポポたちって冒険者登録はしているのか?」
ザドス王国へと向かう馬車の御者台に座っているサスケは、
隣に座っているタンポポに尋ねた。
「いいえ、してませんが必要ですか?」
「ああ、冒険者ギルドに登録すると貰える、
冒険者カードは、他の街や国に移動する際に、
身分証明書代わりになるから便利なんだぞ」
「へ~、そうなんですか、
サスケ様が必要だと思うんなら、
ウチらも作った方が良いですよね」
「この辺に、冒険者ギルドの出張所がある街とか、
あるのか?」
「ええ、ウチらがお使いに偶に行ってる、
ヤホーの街にありますよ」
「その街は、結構遠いのか?」
「いえ、近いですし、
ザドス王国へと向かう街道沿いにありますから、
このまま進めば通りますよ」
「そりゃ、ちょうど良いな、
寄り道して、みんなの登録をして行こう。」
「分かりました。
じゃあ、街に近づいたらサスケ様に知らせます。」
「おう、頼んだぞ」
「しかし、ウチらは、
これから、サスケ様たちと一緒に、
サイゾウ様を追い出したザドス王国へと向かうんですよね」
「ああ、そうだな、
しかし、300年も昔の出来事だし、
国が隠蔽した出来事だからな、
果たして何人の人が知っているやら見当も付かんな」
「そっか~、
もしかしたら、知ってる人が居ないかも知れないですね」
「ああ、その可能性が無きにしも非ずだが、
もしかしたら、何らかの形で聞き及んでいるかも知れない、
ザドス王と、お会いする機会があるから、
何か聞いてないか尋ねておくよ」
「お願いします。サスケ様」
タンポポと話をしながら馬車を進めているうちに、
寄り道をする予定の、ヤホーの街が近付いた様だ。
「あっ、サスケ様、
この先に見えて来た街が、ヤホーの街ですよ」
「おお、分かった。
そんじゃ、ちょっと寄って見るとするか」
街の入り口が近付いて来たので、
サスケは馬車の速度を落として、
馬たちを街の方向へと誘導した。
「そこの馬車よ停まれ、
何用で、この街へと訪れたのか説明いたせ」
街の入り口で警備をしていた兵士が問い掛けて来た。
サスケは、無用な騒ぎを起こさない為に、
英雄認定書では無くて、
冒険者カードを見せながら兵士に告げた。
「はい、冒険者のサスケと申しますが、
連れの少女たちの冒険者登録をする為に、
この街を訪れました。」
「ほう、その若さでA級冒険者とは優秀なんだな、
分かった。通って良いぞ」
「はっ、ありがとう御座います。」
馬車は、無事に街の中へと通して貰えた。
「サスケ様、なんで英雄とか公爵って名乗らないんですか?」
ただの冒険者と名乗ったサスケを不思議に思った
タンポポが尋ねて来た。
「イガ村を訪れるまでの旅で経験したんだが、
英雄とか公爵って名乗ると、
領主様とか、街の有力者とかが出て来て、
大騒ぎになるんだよ、
偶には、ご馳走を食べるのも良いけど、
毎日毎日じゃ体に悪そうだろ」
「はぁ、人気者の辛さってヤツですね」
「まあ、そんなもんだな」
サスケたちは、
馬車を厩に預けると、
ヤホーの街にある冒険者ギルドの出張所を訪ねた。
「こんにちは~!」
タンポポが元気よく挨拶しながら、
建物に入って行くと、
クエスト掲示板や、
打ち合わせ所を兼ねた酒場にいる冒険者たちが、
一瞬目を向けるが、直ぐに興味を失った様に視線が離れていった。
「いらっしゃいませ、
本日は、当冒険者ギルド、ヤホー出張所へと、
どの様なご用件でお出ででしょうか?」
受付に座っているエルフの受付嬢が、タンポポに声を掛ける。
(おお~、フローラさん兄妹以外のエルフを見たのは、
始めてだな)
「私たち、冒険者登録に来たんだ!」
受付嬢は、タンポポやヒナギク達を見ながら、
こう告げた。
「見た所、お嬢さん達は個人登録が出来る、
15歳に達していらっしゃらない様ですけど、
そうなると、B級以上の冒険者の方の保証が必要となりますが、
大丈夫でしょうか?」
受付嬢は、タンポポ達の連れの、
サスケとミルクが若く見えたので、
心配した様だ。
「ああ、大丈夫だ。
俺が保証しよう。」
サスケは、自分の冒険者カードを見せながら告げた。
「A級!?それと、お名前がサスケ様・・・
もしかして英雄サスケ様ですか!?」
受付嬢が、大きな声を上げたので、
ギルド内に居た冒険者達が、一斉に注目した。
「おい!英雄サスケだとよ!」
「意外と若いんだな・・・」
「あの人の特効薬のお蔭で、俺の家族は助かったんだよ」
「俺は、この建物に入って来た時から、
只者じゃ無いって思ってたんだよ」
「嘘吐け、
お前は連れの、女の子の尻ばかり見てたじゃねえか!」
「お、おい止せよ、あれが本物の英雄サスケだとすれば、
連れは王女様かも知れないぞ」
「そ、そうか・・・」
「サスケ様が言ってた事が、良く分かりました。」
一気に騒がしくなったギルド内を見ながら、
タンポポが言った。
「も、申し訳ございませんでした。」
自らの失敗を悟った受付嬢が、
サスケ達に謝罪した。
「いえ、いつもの事なんで、気にしないで下さい。
それで、この子達の登録をお願い出来ますか」
「ありがとう御座います。
は、はい、直ちに手続きを行わせて頂きます。」
サスケの英雄の、ご威光もあって、
ヒナギク達の冒険者登録はスムーズに進んで、
用事が済んだので、ギルドを後にしようとしたサスケ達に、
受付嬢が話し掛けて来た。
「あ、あの~、英雄サスケ様、
ギルドに飾りたいので、色紙にサインを頂けないでしょうか?」
この世界には、過去の召喚者が広めたと見られる、
サイン色紙が存在していて、サスケも度々頼まれていた。
「ええ、良いですよ」
サスケは、慣れた手付きでサラサラと書き込んだ。
「これは、何と書いてあるのですか?」
サスケから、色紙を受け取った受付嬢が尋ねた。
「ああ、俺が生まれ育った国の言葉で、
『俺が、ここを訪れた。』って書いてあるんですよ」
「そうなんですか、ありがとう御座いました。」
今後、ヤホーの街にある冒険者ギルドの出張所を、
サスケ以外の召喚者が訪れる機会があれば、
目にする事があるであろう
その色紙には『サスケ参上』と認められていた。