神隠し
キョンシーラビッツは兎とは思えない摺り足でサスケへと近づいてくる。
「しゃ~ねぇ、やるしかないか。」
サスケは忍者刀を抜いてキョンシーラビッツへ切り付けてみる、
スパッと切れるものの大したダメージを感じていない様で、
その歩みは止まらない。
「やっぱ、普通に切るだけじゃダメか、
よし『聖光』っと、これでどうだ?」
サスケは忍者刀に白魔法を付与してから、
再びキョンシーラビッツを切り付けてみた。
今度は切った瞬間にボフッと塵になって消え去り、
コロッと黒っぽい石が転がった。
「よっしゃ!問題無く倒せるな、
うん?この黒い石は何だ?
『鑑定』・・・魔力石って言うのか、へえ魔力回復薬の原料になるんだ、
普通、魔力回復薬っていうとカイフクシ草から造るんだけど、
どっちが素材として上なんだ?
『調合』っと、おお!中級魔力回復薬が出来たぞ、
カイフクシ草からは低級が出来るから、魔力石の方が上って事か、
よし、モモヨには騙されたけど、
中級魔力回復薬の原料になるなら、キョンシーラビッツを狩りまくるかな。」
サスケは『感知』の魔法を使ってキョンシーラビッツを狩りまくり、
2時間程で300個の魔力石を手に入れた。
「よっしゃ、今日は、こんなもんかな。」
『感知』には、まだ500匹程の反応があるが、
夕暮れが近づき、空が暗くなって来たので、
夜目が効くサスケとは言え、
アンデットが活性化してくる夜間は安全の為にも避けるべきだろう。
狩りを終えたサスケは、牧場改め隔離施設の入り口で警備員に声を掛ける、
「今日は、日が暮れて来たから、これで帰るよ。」
「お疲れさまです。」
「ああ、お疲れ~、
そう言えば、ルクシア怒雄武って、どこの街にあるんだ?」
「ルクシア怒雄武は、
ピロンの街から馬車で2日程掛かる、スイドバシの街にあります。」
「そうか、確か次のベスボルは来月の20日だったよな。」
「そうです!
年間優勝を争っている、ニコタマ・ゴールデンボールズと、
オッタチ・ビックマラーズの好カードなんで見逃せませんよ!」
「おおっ!それは見に行かなくちゃな。」
サスケは、警備員とルクシア怒雄武での再会を誓って、
キョンシーラビッツ隔離施設を後にした。
街の入り口に着くと、
サスケがピロンの街に初めて来た時に警備をしていた、
ジャイケルとマクソンが居た。
「ただ今、帰りました。」
「おお、サスケか、
今日は討伐クエストだったよな、怪我は無かったか?」
「ええ、大丈夫です。」
「そりゃ、良かった。
お疲れさん。」
「ありがとうございます。
お疲れ様です。」
2人に挨拶を済ませたサスケは、
モモヨに文句を言ってやろうと思って、
足早に冒険者ギルドを目指した。
ギルドの入り口を入って、
受付カウンターにモモヨの姿を確認したサスケは、
ドスドスと足音を立てながら近づいて、
カウンターの上にドンとクエスト用紙を叩きつけて叫んだ。
「よくも騙してくれたな!」
「何の事ですか?」
「このクエストだよ!」
モモヨはクエスト用紙をジ~ッと見てから、
「あら、書き間違いですね。」と言った。
「い~や、絶対ワザとだ!」
「何を証拠に『ワザと』と判断されているんですか?」
「何を・・・と言われると、普段の行いを見てとしか言えないかな。」
「サスケさまは、普段から私を見つめてるんですね。」
「何で、そうなるんだ!」
「だって、私の性格が掴める程、
見つめているという事ですよね。」
「それ程は、見ていない。」
「じゃあ、今回も『ワザと』とは限らないんじゃ無いですか?」
「そうか、
・・・そうか~?」
「まあ、ワザとなんですけどね。」
「やっぱり、ワザとじゃん!」
「オホホホホッ、サスケさまと言葉のやり取りを楽しみたくて、
つい調子に乗ってしまいました。
今回のクエストはサスケさまじゃないと達成が難しいと思いまして、
ご紹介させて戴きました。」
「何で俺なんだ?」
「サスケさまは治療薬が造れる、しかも中級まで造れるとの事でした。
と言う事は、白魔法と魔法付与が相当なレベルで使えるという事です。
今まで、あのクエストは白魔法士と戦闘職が組んで行っていたのですが、
何分、キョンシーラビッツの数が多すぎるので、
戦闘に不慣れな白魔法士が怪我をしたり、
魔法付与が切れてしまった戦闘職が怪我をする事が多かったんです。
ですが、ご自分で魔法付与と戦闘を熟せるサスケさまなら、
その心配が無いと思ったんですよ。」
「成る程な、
でも、それなら初めからキョンシーラビッツを、
狩りに行く様に言えば良かったんじゃないか?」
「それじゃ、面白くないじゃないですか。」
「面白がってんじゃねぇ!」
色々と納得がいかないサスケだったが、
今回は大量の魔力石を手に入れる事が出来たので、
クエスト達成報酬を受け取って帰る事にした。
サスケが冒険者ギルドから出ようとすると声を掛けて来る男が居た。
「おい!新入り!
お前、モモヨさんと随分親しげに話していたな。」
「おおっ!何か足りないと思っていたんだが、
そう言えば、まだ先輩冒険者に絡まれていなかったな。」
「何、訳の分からない事言ってるんだ?
いいから、こっちの酒場に来いよ。」
男は、受付の奥にある酒場兼打ち合わせ場にサスケを連れて行く様だ。
「おおっ!酒場のテーブルを壊すパターンか!」
「何言ってるか分からんが、とにかく座れ!」
男はテーブルの席に付く様にサスケに指示する。
「えっ?先輩の洗礼とかじゃ無いの?」
サスケは、取り敢えず指示通りに席に付いた。
すると、先輩冒険者は声を潜めてサスケにヒソヒソと話始めた。
『いいか、先輩冒険者として忠告しとくぞ、
今まで、多くの有望な新人冒険者がモモヨさんに見込まれた所為で、
再起不能になっていったんだ、
あの人は、見た目はトンデモない美人だが、
その分、性格がトンデモなく歪んでいるんだ、
いいか、これ以上深入りするんじゃないぞ。』
「はぁ・・・」
その時、絶対に聞こえないはずの距離がある、
受付カウンターに居るモモヨが大声を出した。
「スコット!サスケさまに余計な事を吹き込まないのよ!」
「ひいぃぃぃぃっ!」
スコットは、転げる様にして冒険者ギルドを飛び出して行った。
そして、その日からスコットの姿をピロンの街で見た者は居ない・・・