ハネムーン
「お頭、ホントに護衛はチビリンだけで、
大丈夫なんですか?」
リンが、諦めきれない表情で聞いて来る。
「ああ、ミルクも自分の身を守れる程度にはレベルが上がったし、
装備も防御面に重点を置いて造っといたしな。」
「お館さま、留守中のコウガ領の事は、
私に、お任せ下さいませ。グワッツ!」
「ああ、頼んだぜダンディ。」
サスケが爵位を受け領主となったり、
フェルナリア皇国の『魔王熱』問題や、
サスケの『英雄認定』に関する騒ぎが一段落したので、
遅ればせながら、
サスケは、ミルクと一緒に新婚旅行へ行く事にしたのだ。
リンやジュリーは護衛で着いて行って、
各地の美味しいものを食べたがっていたが、
サスケの留守中に領地を護って貰わねばならないので、
今回は、チビリンのみを連れて行く事とした。
なお現在、サスケのコウガ領の、
コウガの街にある城を、
ピロンの街の、腕利きの大工であるゲイン兄弟に改築して貰っていて、
サスケが使う工房や、錬金に使う作業場が完成したら、
ヴィン爺ィや、ダンミーツたちが、
ピロンの街から、引っ越してくる手筈となっていた。
そして、空いたサスケの屋敷は、
領主のスライバーにお願いして、
後輩の、冒険者や錬金術士の新人達に、
宿泊所として開放して貰う事となっていた。
「お頭、まずは、どこから周るんですか?」
「ああ、前から興味があった
ラメール国から行こうかと考えている。」
「ラメール国・・・確か、魔法大国って呼ばれていますよね?」
「ああ、マッスル王国のフローラ妃の、
お兄さんが代表を務めて居る国で、
世界中から、魔法の才能がある子供たちが集められて、
魔法の勉強をしている国だな。」
「へ~、国の運営はどうやっているんですか?」
「元々は、フェルナリア皇国の学術都市だったんだが、
皇国に優秀な魔法使いが集中するのを警戒した
各国からの申し出によって、
各国から資金を援助されて運営する様になったと聞いたな。」
「なる程、優秀な魔法使いが卒業して戻ってくれば、
各国としても有用性がありますもんね。」
「そう言う事だな、
まあ、先行投資と言ったとこだろ。」
「じゃあ、行ってくるぜ。」
「皆さん、お土産を買って来ますね。」
「キキッ!」
「「「「行ってらっしゃい!お頭、ミルクさん、チビリン。」」」」
「行ってらっしゃいませ、お館さま、奥様。」
「ミルクさん、美味しいお土産をお願いします。」
「チビリン、ミルクさんをシッカリと護ってね。」
「お頭、珍しい料理があったら、
帰って来てから、作って食べさせて下さいね。」
サスケたちは、皆に見送られながら、
馬車でコウガの街を出発した。
「サスケさん、今回の旅行は、
世界各国を、ひと通り周るんですよね?」
御者台にて馬車を操車しているサスケに、
同じく御者台に座っているミルクが問い掛けた。
ちなみに、チビリンは馬車の屋根の上で、
周囲を警戒している。
「ああ、転移魔導具を、
もっと便利に使える様にする為に、
魔導投影機を各地に設置して回ろうかと考えているんだ。」
「転移魔導具は、
先日の『英雄認定』会議の際に、
各国の王様たちに配られたんですよね?」
「ああ、ライさんと相談して、
各国の王族などの重要人物から、
試験的に運用してみようって事になったんだよ、
転移魔導具も各国に1台づつしか渡してないから、
登録出来る人数も30人に限られるしな。」
「ええ、30人なら問題無いでしょうね、
王族と、一部の重要人物を登録出来る程度でしょう。」
サスケたちが出発したコウガ領から、
ラメール国へと向かうには、
フェルナリア皇国を通過して行かねばならないのだが、
サスケが認定された『英雄』は、
各国への出入りが一切制限されないので、
国境でも、夜に滞在した街の入り口でも、
冒険者カードに似ている、
『英雄認定カード』を提示するだけで、
スムーズに通る事が出来た。
もっとも、何か所かの街へと滞在した段階で、
その余りにもの、
地元の領主を始めとする、街の人々の歓迎振りに、
辟易としたサスケは、
国境以外では、冒険者カードを提示する様にしていた。
「サスケさん、騒がれるのが苦手な事は分かりますけど、
余り邪険にしないで、あげて下さいね。」
「ああ、あの歓迎振りが善意からなのは、
俺も分かってるんだけど、
ああも、行く先々で騒がれるとな・・・」
「皇国の国民たちは『魔王熱』が流行した時に、
次々と命を落として行く、知り合いや身内などを見て、
自分も死を覚悟した人が大勢居たと思います。
サスケさんは、そんな人々の救世主だったんですもの、
感謝の気持ちを伝えたいと思うのは当たり前ですわ。」
「それは、分かってるんだがな・・・
まあ、正体がバレた街で歓迎された場合は、
俺も素直に歓待されるとするよ。」
「ありがとう御座います。
それで、皆も喜ぶと思いますわ。」